2017年09月04日

ジブリであってジブリでない「レッドタートル ある島の物語」マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット(監督)/プリマ・リネア・プロダクションズ/スタジオジブリ/感想

スタジオジブリの名を聞くと、一体どの映画を皆は思い浮かべるのだろう?

レッドタートルが公開された時期に「ジブリ総選挙」なる投票が行われた時は、見事「千と千尋の神隠し」が1位に選ばれており、なんとなしに、宮崎駿の絶頂時の作品が選ばれたんだなぁと思ったものだったが、果たして僕はどうだろう?

ナウシカやラピュタは勿論トラウマ級に好きではあるし、宮崎作品だけでなく高畑さんの「火垂るの墓」「かぐや姫の物語」も忘れられない。これはTVシリーズで観たかったなぁというのなら「紅の豚」だし、未成熟ながらも良さがあった「思い出のマーニー」だって捨てがたい。

でも、1本だけを上げろというのなら、やはり「風立ちぬ」かもしれない。「崖の上のポニョ」辺りから、いつ死んでも良いようにアニメを作っていたように思える宮崎駿の集大成であると同時に、普通に良い映画だった。これまでなんだかんだ言っても観てくれる人のために映画を撮っていた男が、初めて私的に撮った映画に思え、何故だか無性に嬉しかったのだ。


そんなジブリも、今は空中分解状態で、宮崎駿と高畑勲の受け皿としての機能しか有していない。次代のジブリを背負うかと思われた米林宏昌は、宮崎絵から脱却すべく外に出て映画を作っているし、「山賊の娘ローニャ」でようやく可能性が見えた宮崎吾朗は、また親父の周辺で雑務に追われているようだ。

しかし、そんな状態のジブリであったからこそ、レッドタートルが実現したというのなら感謝せねばならないだろう。








男が荒波に揉まれ、誰1人いない無人島に流れ着く。生きていく分には申し分ない島に背を向け、男は筏で海に出ようとするも、目に見えない力に邪魔され失敗。どうやら紅い亀の仕業だと分かり男は怒りに任せて亀を殴ってひっくり返してしまう。しかし罪悪感に駆られ亀を救おうとするのだが......



はっきり云って誰かのネタバレを見るまでもなく展開は読めるものの、脚本がシンプルであればあるほど誤魔化しが効かないから絵作りがものを言うわけで、そういう意味においては本当に絵に力のある作品だった。この作品のスタッフが居れば俺もまだ長編が撮れると宮崎駿が洩らしたのも頷けた 。


宮崎駿を唸らせたマイケル監督ではあるが、アーティストとしての方向性は明らかに高畑勲である。ほとんど動かないが手描きの温かみある美術や、セリフが無くとも伝わる人の営みや感情表現であるとか、淡々と物語が進行していくのに、妙な緊張感があるだとか、高畑作品に共通した何かを節々から感じた。

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人間以外にも島の住民はいて、蟹がとにかく可愛い



まあジブリで育ったアーティストでもないのに、宮崎や高畑と比べるのは意味のないことかもしれないけれど、一応ジブリ作品として売り出されている以上、意識せずにいられなかった。実際、長編を作った事がないマイケル監督としても、ジブリのサポートがあるならやると言っていたそうだから、アーティスティックプロデューサーという肩書きで参加した高畑勲氏の影響が全くないことはありえないだろう。

特殊な出逢いではあったものの、結果的に素敵な家庭を営み幸せに旅立った男の物語は、ジブリという異文化と交わって素晴らしい子を成したマイケル監督の物語のようでもあり、本当に素敵だった。

きっと若者にはこの映画の良さが分からないだろう。当たり前の幸せに気付くには、どうしても若さが邪魔になる。今直ぐでなくて良い。生きるのに疲れた時や、脛に傷が沢山出来た頃に是非観て欲しい。

きっとなんでもない出来事の一つ一つが大事だったのだとしみじみ思うのではないだろうか....





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2017年09月02日

消せない消えない消したくない「野火」大岡昇平/感想

農業が盛んな地域に住んでいれば、普通に見かける野火。畑や田んぼの周囲の草刈り後にそれを焼く行為なのだけど、本作の主人公である田村には、それが何かの象徴であるとか、自分の気持ちの表れに思えてならないようだった。




大平洋戦争末期のレイテ島にて、まともな補給も指示もなく瓦解していく日本軍の1人である田村が、戦地で肺を患いあちこちたらい回しにされた挙句、島を放浪し様々な出来事に見舞われて、言葉にするのも躊躇われる経験を経て心に深い傷を負うことになる物語なのだけど、何処をどう読んでも実体験にしか思えないようなリアリティを大岡さんの文章から感じ密度の濃いため息ばかり出てしまった。

”市川崑”監督や”塚本晋也”監督の映画版を観た後での原作だから、どう感じるか少々不安だったものの、両映画とも違う風景が原作にはあるような気がして、読んで良かったなと思った。あと、塚本晋也版が意外に原作をちゃんと踏襲していたことが分かったのも驚きだった。映画版の意味深な田村の行動の理由にも凄く合点がいった。映画を見たあとに原作を読んで、映画で描けなかったことをチェックするような経験は何度もあったけれど、それとは少し違う関係性が塚本版と原作の間にはあったのかもしれない。改めて良い映画化だったのだなと思った。



人は何故”野”を焼くのか?

ここに己が居ると証明したいのか?

時代錯誤とも思えるような、ミサイルによる力の誇示を行う北朝鮮も、いずれその無駄にでかい鉄の塊で他国の土地を焼くのだろうか?



日本と日本に戦争という二文字で関わらざるえなかった国々にとって、大きな意味合いを持つ8月は終わったが、今もなお戦争の只中にある国は沢山ある。

世界中が...とは口が裂けても言わない。せめて日本だけでも野に立ち昇る煙が、平穏を告げる狼煙であり続けたいものだ。









関連過去記事

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2017年09月01日

我が青春のOVA1987 #9「トワイライトQ 迷宮物件 FILE538」押井守(監督)/近藤勝也(キャラデザ)/スタジオディーン/感想

サッカー日本代表!ロシアW杯出場決定おめでとう!!


などと、口にするのも憚られるほど、最近サッカーを見ていない。昨夜も家に帰るまで代表戦のことなど忘れいた。



昨日、思い出したかのように(実際思い出した)観た本作も、本当は8月28日に30年という節目を迎えており、もういっそ忘れたままでも良いかなとも考えたものの、押井守作品の中でも好きな部類に入る物であるから、スルーしきれなかった。

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航空機が失踪する事件が相次いだ夏、1人の探偵がとあるアパートの一室に住むとある親子を調査するのだが....




生活感溢れる(汚い)部屋でソーメンをすすって暑い夏を乗り切っている親子(父と娘)と、TVの中でニュースを読み上げる男(千葉繁)以外にキャストはいないのだが、航空機が突然”錦鯉”に変貌し優雅に空をゆく導入部や、何が真実か分からなくなっていく、いつもの押井節が短い尺(短いからこそのテンポ感がある)の割に良い。親子と思われた2人の関係が、どうやらそうでは無さそうだぞ?となった後の手のひらの返し方や、謎の残し方が意外に古典的なホラーであるのも見所。

個人的には細かな演技付けが好きな作品だ。会話をほとんどしない親子の何気ないやりとりや、意味有り気に見えて意味が分からない仕草であるとか、無邪気で可愛いのに何者か分からない子供のわんぱく(死語)な様子だとか、近年の小綺麗な押井守作品では味わえない良さがこの時期の作品にはぎっしり詰まっているような気がした。

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この顔を結構長く撮る辺りのセンスが大好きだ48867D72-79B5-45DC-AB0E-698C2964BCD5.png
鯉が口をパクパクさせるのを真似る少女。口をパクパクさせる理由が他にあるのでは無いか?と後々深読みしたくなる。
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ジブリとは一味違う喰いっぷりEA69F5F4-FC09-43E3-9CD8-7DA82510A9DA.png
箸を上手に持てないのが微笑ましい



物事をすり替え現実と虚構の狭間へと観客を叩き落とす上手さにおいて、押井守以上の監督を僕は知らない。オタクに限らず、自分好みの"様式美"と言う物が誰にでもあるのではないかと思うけれど、僕にとってのそれは押井守節だったりするかもしれない。

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"らしい"美術や音楽も気分を盛り上げる



また迷宮物件のような泥臭い押井守作品が観たい。今なら「天使のたまご」の流れを組んだ作品でも絶対お客は付いてくると思う。つくづく当時のOVAという枠の自由さが今現在損なわれてしまったことが悔やまれる。



まあ、押井さん達の世代が好き勝手やりすぎて、予算の組み方が渋くなったというのもあるかもしれないかな......


バブル時代に仕事したかったな......






関連過去記事

我が青春のOVA1987 #8 「火の鳥 ヤマト編」手塚治虫(原作)/平田敏夫(監督)/感想: 無差別八方美人?


アニメのような実写のような、結局"押井守"は何処へ向かうのか?「ガルム・ウォーズ」押井守/Production I.G/感想: 無差別八方美人?

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posted by lain at 07:14 | 北海道 ☔ | アニメ 懐アニ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする