男が女でアイドルだったら面白いじゃない「AKB49〜恋愛禁止条例〜」宮島礼吏(作画)/元麻布ファクトリー(原作)/感想

僕はこれまでアイドル相手に泣いたことなど無い。


人並みに「可愛いなぁ」と短期的に夢中になったことはあるが、パフォーマンスの凄さや引退の報を聞いて泣くほど感情を揺さぶられたことなど一度たりとも無かった。


なのに、たかが漫画の架空のアイドル、しかも”女装”で”女性”アイドルを続けた男に40歳手前で泣かされてしまったのである…





男が女装をして女性アイドルになる話というと、"やぶうち優"先生の「少女少年」シリーズを思い出すが、本作のキャッチーなところは実在するAKB48を巻き込んだ形でストーリーが進んで行くところだろう。残念ながら僕はAKBをまるで知らないので、どこまで本作が実際のAKBメンバーの特長を表現出来ているかは分からないものの、僕でさえ名前を知っているメンバー相手に真っ直ぐ立ち向かい、本物のアイドルへと生まれ変わってゆく主人公の姿は本当に胸熱だった。


もしも僕が誰かの熱心なファンならば『憧れの存在そのものに自分がなれたなら....』と、心の片隅で考えるだろう(本作のメインヒロインは前田敦子に憧れている)でもその対象が女性であったなら男という性別でまず諦めざるえない。だから、元々AKBのファンでもなく、大好きな女の子がAKBのファンでオーディションを受けるというから少しでも近くでサポートしてあげたいと女装してまでオーディション会場に入り込んだ結果、秋元Pの気まぐれで合格してしまう主人公のありえない幸運に、どれだけの人が「それで叶うなら苦労しねえよ...」と嫉妬混じりに呟いたかしれない。まさか、この作品の影響で実際に女装した人や性転換した人が自分もAKBになりたいとオーディションを受けに来たりしているのだろうか?そろそろ女の子に飽きて、男の中の女の子成分に秋元康が目を付けるなんて未来があったら面白そうではあるけれど....

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まるでAKBなど眼中に無かった男の子が
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大好きな女の子のために一肌脱ごうと暴走
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結果まさかの合格....


なんにせよ純粋に熱い少年漫画だった。秋元康の放つ試練を何度と無くクリアし、最後には性別など関係なくAKBとして認められステージに立ち、潔く去っていくことになる生き様に何度と無く胸が締め付けられた。この広いようで狭い世界で、あっという間に消費されてしまうアイドルのうち、一体どれだけの人たちが本気でアイドルとしての自分と向き合っているか分からないが、この漫画を読むように彼女彼等の努力が見れたなら、もっともっとファンの心は熱く燃え上がるに違いない。本音が見えて逆効果かもしれないが.....

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根性だけのアイドルから

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一生懸命な仲間達に感化され

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心身共に本物のアイドルへと成長していく




彼女(彼)の頑張りを読み終わり、こんなにも打ちのめされている自分がいて驚いた。今日1日自律神経をやられたのではないかと思うくらいフラフラだった。ここまで打ち込める何かを自分は持っていないことが残念であると同時に、似たような経験をちょっぴりしているせいかもしれない。その昔、ゲームで女性のアバターを使っていたがために、僕を女性だと思った人がいて、出来心で女の子っぽい文面でメッセージをやり取りをするようになり、どんどん男だと言いだせなくなっていたとある日、その人からしばらくゲームが出来なくなると聞いて、このままじゃ駄目だと思い自分は男であると告白した時の苦い思い出が、最後の最後で追い込まれファンに男だと告白せざるえなかった主人公とダブってしまうのだ...

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皆にバレてもなおアイドルとして在りたい自分の気持ちを吐露する良いシーン



しかも嫌ぁ〜な連中に仲間の将来を脅かされ、ファンへの誠意も込めて告白した彼とは違い、僕のはただ自分が楽になりたかっただけだった。それがこの漫画を読んで僕が苦しむ本当の理由なんだろう。僕に彼ほどの勇気や仲間の支えがあったなら、男だなんて告白せず墓まで嘘を持って行けただろうか?そんなどうしようもないタラレバに溜息を吐いてしまう情けない自分に、力なく笑う以外の術を僕は持たない。

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いつも狡い登場の仕方をする秋元Pのような支えがあったら心強いことだろう





フィクションとは誠に甘美で残酷なものだなぁとしみじみ思う






マガメガ AKB49〜恋愛禁止条例〜

吉永寛子Twitter





凄い事を当たり前に凄いと触れ回る奴は実は凄く無い「モブサイコ100」ONE/裏サンデー

やっと出張の日程が半分ほど終わった夜、うっかりこれを読み始めたのだけど、ワンパンマン同様読み出したら止まらなくなり困った。

裏サンデー | モブサイコ100





主人公は、物を浮かせるとかスプーンを曲げることが出来るどころじゃない強力な超能力の持ち主なのだが、おかっぱ頭でジト目の表情筋が死んでいそうな見た目で、体力や学力も共に冴えない残念な男の子。心根が優しく芯の強い性格の彼は、自分の力など無い方が良いとさえ考え、便利なはずの超能力をひけらかすこともせず弟を始めとした自分に無い才能(勉強、運動、etc)を持っている人こそ凄いのだと本気で口にするお人好しだと言うから、ある意味タチが悪いかもしれない。

そんな控えめな彼だから、超能力は人に向けて使わないとまで誓っているものの、周囲がそれを許してくれない。インチキ霊感商法を営む男"霊幻新隆"の口車に乗せられ悪霊退治をさせられたり、超能力を悪用する青年に絡まれ死闘を演じることになったり、度重なる力の使用が世間の目を惹いて新興宗教の教祖に祭り上げられそうになったり、能力者を集めて政府転覆を目論む悪の組織まで現れ、否応なしに能力者・非能力者を問わず超能力を行使しなければならない事態へと追い詰められてしまう。そして、彼の中のストレスゲージが100%になった瞬間、別の自分が現れ能力を解放し周囲を焼け野原に変えるのだ....

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見た目がしょぼいのに能力が凄いという点が非常にワンパンマンと通ずるものがあるものの、主人公である"影山"(通称"モブ")はまだまだ子供だから、いちいち細かい事に悩んでいて焦ったい。しかし、人を傷つけたくない、でもその代わりに自分が傷付くのは良いのか?誰かの言う通りにしていたら楽だが、それだけで本当に良いのか?身勝手な人間の望むままに、力づくで無害な霊を祓って良いのか?....などと、倫理を問い始める彼の思考は非常に初々しく実に生臭い青春っぷりが胸に刺さる。

基本はギャグベースであるのに、妙なリアリティがあってONE氏の漫画には自然と引き込まれてしまう。画は不安定であるのに、構図の上手さや此処ぞと言う場面でも描き込みが凄い点も見逃せない。綺麗な絵を描く漫画家はごまんと居るが、内容だけで勝負出来る漫画家はそれほど多くない。キモカワマスコット、良きライバル、味のある師匠、そして出来の良い弟など、キャラ配置もソツが無く、脇役のドラマもすこぶる面白い。僕のお気に入りは霊感ゼロの癖にモブの師匠をしている霊幻だ。盗人猛々しい論法で自分に都合の良い事ばかり口にしている割に、結構良識のある人間で時折本気で尊敬したくなるセリフを吐くから憎めない良いキャラである。
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大袈裟かもしれないが、創作の世界には"脇役"や"はみ出し者"が活躍する作品は数あれど、今の日本に弾かれた若者達を描かせたらONE氏以上の人はなかなか見当たらないんじゃなかろうか?

今日笑えなかった奴、昨日も笑えなかった奴、そのまた前日も笑えなかった奴、気付けばずっと笑っていなかったと気付いた奴は、是非モブサイコ100を読んで感情を呼び戻して欲しい。別に心底笑えないなら笑わなくたって良いのだ。泣いたり怒ったりするだけでも力は湧いて来る。

要はその湧いた物を何に使うのか?

生きるってのは、つもりそういうことなんじゃ無いかと思わせてくれる良い漫画だった。



水木サン おやすみなさい...「墓場鬼太郎 <貸本まんが復刻版> 1巻」水木しげる/角川書店

 日本妖怪の父とでも言うべき”水木しげる”さんが昨日亡くなった。享年93歳である。



 大勢の著名人がその死を惜しむ中、僕は不謹慎にも『まだ健在でいらっしゃったのか』と、もう亡くなっている気になっていた。

 正直言って僕は「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメを子供の時分に観ていたと言う以外、水木先生との接点は無い。コミックでさえまともに読んだことは無かった。せいぜい図書室でこれが原作か、と、チラ見したくらいだ。だから、昨晩、香典代わりにAmazonでKindle版の「墓場鬼太郎」を買って読んだのが初めての”水木しげる”となった。

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 元々違う方の原作であった”ハカバキタロー”という紙芝居を、水木さんが承諾を得てオリジナルの紙芝居として作ったのがゲゲゲの鬼太郎シリーズとの関わり合いの始まりだったそうで、改めて貸本漫画家として連載を開始した「墓場鬼太郎」でも、流れが分かり易いコマ割りや、前回までのあらすじが冒頭にある回があったり、振り返りを兼ねて登場人物に自己紹介させたりと、紙芝居の特徴的な表現が見受けられました。

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版画のような黒の質感がたまらない

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自己紹介風なのが微笑ましい




 まだ1巻であるし、悪い妖怪を倒す鬼太郎アニメ(2008年の墓場鬼太郎以前のゲゲゲの鬼太郎作品のこと)のような内容では一切無いけれど、人間に追いやられ住処を失いつつある幽霊だの妖怪だのが、何かとしでかす様子には、恐ろしさだけではなく何処か愛嬌があって面白い。勧善懲悪な分かり易いヒーロー像を押し付けたゲゲゲの鬼太郎アニメではなく、この貸本版と呼ばれる墓場鬼太郎を元に2008年にアニメを作った人たちの気持ちが分かるというものだ。

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『これこれしかじか』は魔法の言葉

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汚らしい”ねずみ男”と、”金野なし太”のやり取りも最高である







 やはり作品を読む前と読んだ後では喪失感が違うもので、少し触れただけでも本当に素晴らしい漫画家だったのだと痛感しています。様々な時事ネタやパロディでウケを狙っている妖怪ウォッチ人気が鳴り止まない昨今ですが、そんな右から左へただ消費されるだけの作品ばかりに気を取られず、良い機会だと思うので水木しげる作品を僕のように経験して欲しいものだと思いました。

  今更凄さに気付いてごめんなさい水木先生.....


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