ヒトに押し付けられた本の方が、ページをめくる手が軽い時もある「銀河郵便は“愛”を運ぶ」大原まり子(著)/徳間書店/感想

普段読む本は、基本的には自分で選んだもの(書店員さんのディスプレイ方法や、ネットショップのオススメに乗せられている場合も自分で選んでいると仮定して)を読む人間なのだけど、これでも”お節介”で本を提供してくれる知人が居たりするから、僕のような社会不適合者でも孤独に焼き尽くされずに済んでいるのかもしれないなとか、面倒なことを考えてしまうくらい、意外と面白い作家さんを教えて貰ったような気がする。


※元の表紙は天野喜孝氏
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一言に愛と言っても、それぞれであるだろうし、恋人が居た試しがないDTには非常に重い話題ではあるが、本作の届け物は”それ”自体が愛であることもあれば、運ぶ者の愛でもあったりで、腹筋が割れているような男なのに情緒不安定な主人公が、仕事で銀河中に郵便を届けるという基本スタイルをちょいちょい逸脱し、至極個人的な届け物に明け暮れる辺りのバリエーションの豊富さがなかなか魅力的だった。ただ手紙を届けたつもりが時空を歪めて多次元の宗教に影響してしまったり、他者を避けて生きている詩人の生き方にファン代表みたいな顔して愛を押し付け干渉したり、誰もが関わるのを嫌がる星の種族の子供を命懸けで返しに行ったり....兎に角飽きそうにない仕事っぷりが羨ましく思えてくる。

しかも彼の相棒達が、これまた曲者ばかりでとても良い。元セクサロイドで、紆余曲折を経て人権を勝ち取ったアンドロイドの相棒は、性別をころころ変えることが出来るうえ直ぐ男の格好で主人公に愛していると迫り、彼らを銀河中に運んでくれる船のAIは嫉妬深く自制心に欠け何をやらかすか分からない。主人公を含め、とても女性作家らしい発想で生まれた性格の持ち主ばかりで正直序盤は疲れすら感じた。

特に序盤から腐れが全開なのにも辟易していたので、先を読んで行けるか本当に不安だったものの、徐々に相棒(アンドロイド)との距離感とSFな世界観のバランスがほど良くなり、作者の”好き”の鼻息の荒さと若さゆえの勢いが楽しめるようになっていった。




所詮不勉強なSF好きなので、大原まり子さんが星雲賞を獲るような女性であることすら知らなかったわけだが、2001年以降新作が出ていない方の名前を知らないことぐらいは許して欲しい気もする。本書はまだ5冊目の作品ということで、詰めの甘さもあるでしょうし、代表作である「ハイブリッド・チャイルド」も読んでみようと思った。

たまには押し売り本も良いものである。

おかげさまで天冥の標の完結編が進まない.....


posted by lain at 07:01北海道 ☔小説

オススメなんて読んでやらねーぞ!という人にオススメです「零號琴」飛浩隆(著)/早川書房/感想

先週だったろうか?上の姪っ子に「十二国記」を貸してみた。

これまでアニメや漫画は散々観せて来た(半ば強引に)が、活字ばかりの本は初めてである。

受け取ってくれるかどうかも不安ではあったが、すんなり受け取り普通に楽しめているようで安心した。

大きなお友達にも御馳走でしかない異世界ファンタジーで、客観的に物事を考える大事さを教えてくれる小野不由美さんの本は、思春期の子供に欠かせないバイブルなのではなかろうか?実体験(初めて十二国記を読んだのは高校の時)も含め心からそう思う。




熱心な読書好きの中には、他人のオススメする本は読まない人が結構いる。私は人に教えて貰った作品まで消化する気力がないから、他人のオススメを”読まない”ではなく”読めない”部類の人間だが、そういう人の気持ちも分からないでもない。なんと言うか、自分で見つける歓びというのも読書の楽しみの一つだったりするからだ。

とはいえ、雑誌に掲載されている作品だって、よくよく考えれば後に発売となる単行本の宣伝の意味合いが強く、店頭に置かれたポップ広告に目が止まり選ぶのだって完全に誰かのオススメにすぎない。それらをふまえて、完全に自分の力だけで”この本”に出逢えたというのがあっただろうか?と今更ながらに考えてみたが、自分は正直そう言い切れなかった。それどころか能動的な受動というデタラメが成立するときだけ、人は自分で選んだと認識のではないかとすら思ってしまった。


要するに自分で選んでいるようで、その実選ばされているのが人生なのだから(こんな辺鄙なブログに辿り着いたこと自体が、何者かに選ばされている証拠みたいな気がする)黙って”この本”をオススメされて帰ってくれたら良いなという話。







物凄く簡単に言うと、我々の宇宙と似て非なる宇宙の何処かの星で起きた騒動に、主人公たちが巻き込まれるという未来SFで、何が面白いかと言うとオタク文化がこれでもかと”ごった煮”になっているところ。SFとジャンル分けしても差し支えないものであれば、小説や実写特撮、女児アニメに至るまで作品を彩るピースの一つとして機能していて、骨太なSFをそこまで読めていない私ですら”これはあれだ”と顔がニヤけてしまう始末だった。

楽器の中で見つかった赤子である主人公の一人が、我々が想像出来る範囲を超えた馬鹿でかい楽器を扱う技芸士であるという設定も面白く、舞台となる星全体で音を打ち鳴らすまでの過程とその先にある物にも非常に説得力がある。「もの」「かたち」「ちから」の三要素に拘りがある飛浩隆さんらしい、我々の想像力を試すさじ加減で構築された世界観はなんとも小気味良く、レールを敷いているのは間違い無く作者であるのに、読み手も一緒になって作品を作っているような感覚すら覚えるのが素晴らしい。

装丁やタイトル、そして本の厚みだけで躊躇う人も多いやもしれないが、登場人物たちの会話は非常にラノベ調で読み易く(コアな飛浩隆ファンの中には賛否はあるだろう)、コミカルで個性豊かだからキャラ読み勢にもオススメでしかない。飛浩隆入門と言っても差し支えないくらいに、作者が読者に歩み寄っているというか、初めて売ろうという欲を見せているようにも感じる。売ろうとしているなどと言ってしまうと、感じが悪いかもしれないが、長年SF界隈だけで伝説となっていた男が幅広い層に知って貰えるなら嬉しい以外の言葉はない。飛浩隆作品は文庫落ちなどしたことがない(ないよね?)けれど、いっそ表紙をアニオタが喜びそうなものにした文庫版を出してしまえば、更にファン層が厚くなりそうではある。








読み終えたあと、冒頭のアヴァンタイトルを読み直すことをオススメする。本当なら全て再読した方が面白さが倍増しそうではあるけれど、実質600ページあるものを再読しろなどと、自分にも他人にも言えやしない。

ただ一度は読んでみた方が良い作品だとは言える。新しい素材は一切無いかもしれないが、それを重々承知したうえでも傑作だと思えたから。

物を創る人ならではの一品です。





飛浩隆Twitter http://twitter.com/Anna_Kaski
posted by lain at 22:00北海道 ☔小説

恋は好きになった方の負けというが、SFもまさしくそれ「ポリフォニック・イリュージョン」飛浩隆/河出書房新社/感想

基本的にベタ惚れ過ぎて、冷静な感想など述べられそうに無い(そもそも勉強不足で語るだけの言葉を持ち合わせていない)けれど、あえて恥を忍んで”この人は凄い”と言わずにはいられなかった。




まずこの表紙がヤバいだろう。小煩いほどの太い帯だと思ったらカバーのカバー状態で、本来の表紙がほんの少し見えるサイズにすることで、まるで曇りガラスからチラ見しているかのようだった。オシャレでちょっぴりエッチじゃない?


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本書に収録された短編は、160ページ弱しかなく、以前別の形で読んだものもあったものの、どれも飛浩隆さんらしい作品で楽しめてしまった。直ぐに作者による解題が読めるのも、これまでの飛浩隆作品にない要素でとても良かった。自分の書いたものをしっかりと分析しつつも、冗談交じりにおどけてみせるなど、サービス精神たっぷりな方だなぁと感じた。

今回、初期の短編以外に飛浩隆さんが読んだり観たりした様々なSF作品について書いたものも載っていたけれど、自作のことだけでなく他人の作品のことも本当によく見えていると思った。飛さんが書くと、解説文だろうが感想だろうが読み応え十分で、読書欲を非常に刺激された。この人は本当にSFが好きで、小説が好きで、ジャンルの垣根すら超えてSFを愛して欲しいから書き続けている人なのだと勝手に合点がいってしまった。





『SFはだれが何といおうが「文・芸」以外の何ものでもありません』

という言葉には、激しく同意している自分がいた。それこそ飛浩隆さんの作品に感じていたことの全てだった。SFと聞いて読むのをやめるなど、全くもってナンセンスでしかない。用語が分からないとか、突飛な展開についていけないとか、そんな瑣末なことはまるっと捨ててしまって、自分の感じるままに読んでみれば、面白さが分かってくるのではないかと思う。ぶっちゃけ一見小難しそうに見える部分など、お話を盛り上げるための装飾に過ぎないわけで、前菜の後に広がるメインディッシュの豊潤な輪郭だけ見えていれば、その日のディナーは幸せな思い出としてのこるのではないだろうか?

勿論しっかり読み解けば、更に深いところまで味わえるに違いないが、素人に完全なる読み解きをさせてしまうような作家など、元より僕は愛したりしないだろう。スポーツでもそうだが、自分には到底出来ないものを持っている相手だからこそ、お金を払ってでもそれを見せてくれと望むのである。





「もの」「かたち」「ちから」

この三つのモチーフに魅せられた男に魅せられたことに、一切の後悔はない。

どんなに待たされようとも(最近は小まめに出してくれるので嬉しい)付いて行く所存だ。






posted by lain at 07:23北海道 ☔小説