今こそ読み直せ俺っ「アルスラーン戦記 王都炎上・王子二人」田中芳樹(著)/光文社/感想

昨年末まさかの完結編を刊行したアルスラーン戦記。


せっかくだから是非とも最終巻を読みたいところではあるものの、何年も前から続きは完結してから読もうと買うだけ買って積んでいたため、正直何処まで読んだか定かではなく、これじゃあ最初から読み直した方が良いと1巻を引っ張り出した。


王都炎上・王子二人 ―アルスラーン戦記(1)(2) (カッパ・ノベルス) -
王都炎上・王子二人 ―アルスラーン戦記(1)(2) (カッパ・ノベルス) -




何度か読み直しているし、荒川版の漫画もアニメも見ていたわけだから、何一つ驚きは無いのに、なんだかんだで楽しんでいる自分がいた。アルスラーンと仲間達の気転の効いた逆転劇は痛快だし、悪い連中はしっかりとその役割を果たしている。主役が属する大国が盛大に負ける序章の面白さったらない。田中芳樹氏の十八番である体制批判にしても、薬師寺涼子シリーズを書いていた時は少々くどかったが、この時期の作品は丁度良い火加減で胃もたれもしない。人智の及ばない存在が色濃くなって行ったことには賛否があるが、よくよく考えれば化け物を復活させようとしている悪者どもが、当初から地面の中を自由に移動していたりしたのだから、一つもおかしく無いような気がしてならない。逆に序章とも言える壮大な小競り合いが長すぎただけとも言えるんじゃなかろうか?


それはそうと、今回読み直していたら自然と荒川弘氏の絵が頭に浮かんだ。アニメ版の記憶も新しいからだろう。原作・アニメ・漫画を彩った天野喜孝さん、神村幸子さん、丹野忍さん、そして荒川弘さん。イラストの面でも一粒で何度も美味しい作品である。角川版は「妖雲群行」までしか存在しないが、天野喜孝氏のイラストだけでもどうにかして荒川弘版から入ったファンに触れて貰いたいものだなぁと思った。


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富野由悠季は”皆殺し”の異名を持っていたが、田中芳樹氏も結構重要なポジションのキャラを殺している。なるべくネタバレはしないようにアルスラーン戦記絡みをネットでは見ないようにしてはいるが、チラッと”あの”キャラが死ぬと目にしてしまって、ずっとモヤモヤしている。読者からの「死んで欲しくなかった」「なんで殺したのか?」という声が上がるのは、ある意味作者冥利に尽きるのかもしれない。読者がそのキャラを愛おしく思えるように書いてこれたという証拠なのだから。


何十年も小学生でいなければならないキャラクターよりは、どんな形であれ天寿をまっとう出来るキャラの方が幸せなんじゃないかなとは思うが、キルヒアイスだけではなく、ヤン・ウェンリーやその他大勢まで死んでいったのは本当に辛くて、何度も何度もヤンがユリアンに弱々しく謝るシーンなんてボロ泣きさせられたもんだ.....






銀英伝の話になってしまったけれど、ほんとに誰がどれだけ死んでゆくのか気が気じゃ無いのは間違いない.....

posted by lain at 07:14北海道 ☔小説

人とAIが仲良く暮らす未来など俺には見えない 「ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity?」森博嗣/講談社/感想

ひと月ほど前にひいた風邪が、まだ完全に治らない。それどころかぶり返して来たような節もある。

いくら不摂生な生活をしているとはいえ、こんなにも免疫力が下がっている自分にがっかりする。

早く本作のような人がなかなか死ねない時代が来て欲しい........かな?






ウォーカロンと呼ばれる人口細胞を使った存在を切り口にして、自然の摂理に逆らい続けた結果子供が生まれなくなった人類と、それを観測し続けるAIの在りようを森博嗣先生らしい価値観でまとめあげている本作、今回も実にSFで面白かった。

ざっくりと説明すると、禁じられているクローンを擬似的に出産することが出来るウォーカロンが存在するのでは無いかという情報を”ペガサス”というスーパーコンピューターから得た主人公が、そのウォーカロンが居る可能性の高い富豪の家に赴き、そこで家族の噛み合わない愛情の結果に打ちのめされるという展開なのだけど、どれだけ“死”から遠退いても人間は愚かで、それに近づいているAIも同じように愚考している所に現実味を感じたのと同時に、やっぱり畏怖を禁じ得なかった。

まるで賢過ぎる子を持った親の気分である。いつ「こんな親は必要ない」と言われるか分かったものではない。しかも本作に登場するAI達はウォーカロンの身体をコントロール出来るから、精神的に不完全で子も産めない人間など彼らからすると邪魔でしかないのだ。

最高峰のAIであるペガサスは人類を減らすべきだと提言する。これまではなんだかんだ言っても人類に敬意を払ってくれているAIばかりだったが、そろそろAIと人の生き残りをかけた辛い展開になって行くのだろうか?人が儚い命に一喜一憂するのも良いが、人類が居なくなった地球で、AI達が何かを創り続ける姿なんかも面白そうではある。森先生はこのシリーズをどう終わらせるつもりなのだろう?







無性にブレードランナー2049を観たくなった。でももう今週で上映も終了だろう。肝心な時に風邪などひいてどうする俺.....


posted by lain at 06:56北海道 ☔小説

この作品から救われて今ホっとしている...「ホサナ」町田康(著)/講談社/感想

読み終わって真っ先に思ったのは

「俺は一体何を読んだのだろう?」

だった....






とある女性に誘われ、主人公は犬好きと、その愛犬が集まるバーベキューに参加するのだが、それが運の尽きだったのか数奇な出来事に巻き込まれていく......という話。公園デビューしたばかりのお母さん的な立ち位置の主人公が、クセのある愛犬家集団に辟易しているだけかと思いきや、突如状況の掴めない事態に陥り、主人公が狂っているのか世界が狂っているのか分からなくてなっていくのが特徴的だった。

これまで読んだ「告白」「ギケイキ」もそうだったが、今回は一際おかしな文字の使い方や文法で読み難かったし、夢の内容を垂れ流したかのような自己完結展開だから、まとまりのあるストーリー性を期待すると肩透かしを食らう。

結局、自意識過剰な主人公が、周囲のエゴと自分のエゴを突き合わせて自滅していく町田康作品お馴染みの風景に落ち着くわけだが、どうも主人公が好きになれないし、無駄に思えるディティールや煙に巻こうとする言葉遊びも鼻についた。この人は「ギケイキ」くらいのボリュームでサクッと書いた方が後味が良いなと思った。





きっと、書こうと思えば「告白」のように書けたに違いない。でもあえてそれをやらなかったように感じる文字遊びだった。やはり同じような文章を書き続けるのは面白く無いのだろう。

中盤を超えてからが特に辛かった。暗喩的表現ばかりだし、ストーリーに関係ない予備知識やら、あまり使われない漢字を当ててくるからサクサク読めず、イマイチ山場も無いから先を読みたい気分になれなかった。なのに良くぞ最後まで読んだものだと我ながら思う。なんだかんだ言っても、自分の悪い面を映したような主人公ではあるし、このまま忘れてしまうのも忍びなかったのだろうか?.......


とりあえず、この先の作品に繋がる実験に付き合ったのだと考えることにした。自分好みの作品を求めるのも良いが、そのためには作者のモチベーションが肝心だ。書かぬ者は“座して待つ”これしか無いのである。




好きになった方が負けという真理だけは揺るぎそうに無い一冊だ。









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posted by lain at 06:59北海道 ☔小説