銀河の端で頁を捲る俺のクリスマス「銀河英雄伝説列伝1」田中芳樹/石持浅海/太田忠司/小川一水/小前亮/高島雄哉/藤井太洋/東京創元社/感想

就職して以来、親からクリスマスにまつわる何かを貰うことは無くなった。そのうち姪っ子らに自分がクリスマスの何かを買うようになり、姉はそれのお返しのように生活用品をプレゼントしてくれている。なんだかんだ言っても誰かとの関わりの中で生きている自分なのだと思い出すのが12月25日なのだろう。

誰かとの関わり合い、と云うか、大勢の人物に支えられて膨れ上がったと云う意味でいうなら、銀河英雄伝説も相当なものである。物語の重厚さを支えた登場人物達の豊富さもそうであるし、愛すべき主人公の1人であるヤン・ウェンリーの葬儀を実際に行い参加したファン達の熱も未だ冷え切っていないように感じられる。今回発売された公式トリビュート本の仕上がりも素晴らしいの一言。



今現在のSF界を牽引する方々が銀英伝の世界で「もしかしたら」あったかもしれない出来事を綴る本作、もしもラインハルトが釣りをしたら?もしもヤンが女装して演劇に参加したら?と云う正伝に登場する者達が活躍する話から、銀英伝の歴史に埋もれた”居たかも”しれないキャラクターを用いルドルフ時代の始まりを描くものまで兎に角面白い。それぞれ本来なら些細な出来事として消え去るのみのエピソードではあるものの、それをあえて掘り下げる作家さん達の細部の詰め方に銀英伝愛を感じてならなかった。

特に切込隊長の小川一水さんとしんがりを務めた藤井太洋さんには本当に痺れた。藤井さんの作品は今まで短編しか読んだことが無かったけれど、これは是が非でも長編も読ませて頂きたくなった。お金出させて下さい(真顔)




銀英伝好きなら年齢に関係無く手にとって欲しい。そして続編を是非また何処かで読ませてもらいたいものである。

飛浩隆さんの銀英伝とか読んで見たいなぁ.....実現しませんかね?安達裕章さん?






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うつのみこ日誌 (完) 「宇宙皇子」藤川桂介/角川書店/感想

長期に渡る作品と云うのは、どんなものでも作り手のモチベーションに変化が出るものだが、それは受け取る我々も同じで、『宇宙皇子』全48巻を足掛け25年ほど費やし読み終え到来したのは、時の流れとは本当に残酷だと云うことだった。

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表紙担当の”いのまたむつみ”さんもお疲れ様でした.....



「宇宙皇子」とは、宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999などで脚本を手掛けた”藤川桂介”さんが執筆した歴史伝奇ファンタジーで、壬申の乱が起きた時代の日本を舞台に、神の子でありながら農民の子として地上に生を受け孤児となった宇宙皇子(うつのみこ)が途方もない年月を超えて神籍に至るまでを描いた作品だった。

生まれつき角を持つ彼は金剛山の鬼と呼ばれる修験者達の仲間に迎えられ、鬼の指導者”役小角”のもとで修行し農民を助ける務めを果たすようになり、その過程で彼の生みの親の死の原因となった戦を生んだ朝廷に憤りを募らせ、様々な歴史的人物達と衝突や親交を深めつつ権力者達に抗い続けると云う内容で、霊能力や人外が登場するファンタジーと実在する歴史を融合させた内容が当時は実に新鮮だった。まだラノベと云う括りが無かったジャンルの草分け的な存在であったのだ。

宇宙皇子が連載をスタートした時代はバブル期真っ盛り。だから本作は急激に変化する社会構造への反動が反映されているようなところがある。むちゃくちゃなことを師である小角にやらされても試練なのだと我慢する辺りは昭和の体育会系の匂いがぷんぷん漂っているし、その割に朝廷で埒が明かないなら神だと言わんばかりに天上から地獄まで訪れ、直にルールと云うルールに対し”何故?”を叩きつける血気盛んなところも、今じゃ野党の茶番くらいでしか見られなくなった。今読むと本当に価値観のズレを感じて仕方ない。


女性の扱いに関しても、内助の功と云う言葉が普通に使われていた時代の観念でなされているため、現代女性が読んだら「はぁ?」とブチギレそうな描写もままある。当時は女性のファンが多かった作品だが、今の世代に読ませたら完全に男女比が変わってしまうのではなかろうか?それとも相変わらず男同士の熱い描写に腐れ心を刺激されるのだろうか?まあどちらでも構わないのだけど、要はその時代に合わせて書かれたものは、その時代のうちに消化すべきなのだなと感じたと云うこと。勿論普遍的な部分はいつの時代になっても響くものはあると思うけれど、宇宙皇子に関しては天上編までしかお勧めする気ならない。その後は同じような展開の繰り返しになるし、脚本家である藤川桂介さんの癖がそのまま出ている文章は、セリフ描写が過度なうえ、同じやりとりを何度も書くから堂々巡り感が巻を追うごとに酷くなっていく。主人公同様に試練と信じながらでもないと読み続けるモチベーションは保てなくなってしまうのだ。

毎巻発売日に買って読み続けた人なら、また違う感じ方なのかもしれないものの、何度も1巻から読み直し天上編以降を積むと云う行為を続けた自分としては、気が遠くなる道のりとなった。正直読み終えた時に到来したのは安堵の溜め息で、感嘆のそれではなかった。兎に角結末まで読んだこと自体に満足していた。そんな苦読は今まで経験したこともない。最初は夢中になって読み進めたシリーズである。まさかこれほどしんどいことになろうとは当初露程も思っていなかった。漫画でも長期連載の作品が幾つもあるけれど、常に最新話をチェックしているような熱心な読者は本当に忍耐強いのではなかろうか?...




そういえば高校の頃からハマった超人ロックもここ10年ちゃんと読んでいないような気がする。あれは途中からサブタイトル表記でシリーズ展開しているため、何処まで買ったか、何処まで読んだか、何処から読んだ方が良いか分からなくなってしまうのが悩ましい。聖悠紀さんはパーキンソン病だと聞くし、ちゃんと完結するのだろうか?.....

後からまとめて読むのも良いが、今やっている作品を今読む方が良い場合もある。

そんな取り留めのないことを愚考してしまう宇宙皇子読了でありました。






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posted by lain at 07:13北海道 ☔小説

許せぬ真実、許せる嘘「神はいつ問われるのか? When Will God be Questioned? 」森博嗣(著)/講談社/感想

人間は暇さえあれば嘘を吐く。家族に上司に友達に。

心の構造上まるで嘘を吐けない人も稀にいるが、基本的には自覚無自覚を問わず誰でも都合に応じて嘘を利用している。幼い頃は”それ”自体に罪があるかのように、嘘塗れで矛盾した大人を蔑み「自分はそうはならない」と思いたがるものだが、結局のところ同じ穴のムジナだったのだなと知る日が来てしまう。

果たして”嘘”は存在してはならないのだろうか?巧妙な嘘より、拙劣で「嘘だろ?」と言いたくなる本当の方が余程害悪ではないのか?少なくとも本当だけで全てを回そうとしたら、人間社会は今以上に雁字搦めで円滑に進まないことだろう。誰かが嘘を吐くことで、何億もの人類が狭い地球で共存することが叶っているのだと断言できるほどに。要は嘘も本当も使い方が大事なのだ。

中国のみならず広がりを見せている新型ウイルス関連のニュースにしてもそう、本当に心配が必要ない状況であるなら、ハッタリでも「大丈夫」と政府は言うべきである。間違いなく季節柄流行るインフルなどの比ではない致死率(中国で2%前後)ではあるが、ここまで拡がってしまったなら恐れず乗り越える(感染して免疫つける)しか無いとさえ思う。一生家の中に引き籠もっているわけにもいかないのだから。



本書のようにリアルな仮想空間が存在する社会であれば、こんな鬱陶しいニュースを目にすることもなく、延々と現実逃避していられるのだろうか?いや、生身があるうちは”ままならない”ことの方が多いに違いない。アリス・ワールドという仮想空間で突如システムがダウンし、強制的にログアウトさせられた人の中には悲観のあまり自殺してしまう人まで出てしまうという展開にも妙な現実感が有り、仮想世界だからと云って終わりが無いわけではないのだと改めて思った。






攻殻機動隊以後、そんな風に言いたくなるほど現代日本人は仮想空間への憧れが強い。現実での身体的な差を仮想の中でなら埋めることが出来るし、執着心があれば特別な存在として周囲に認められることも可能だからだろう。しかし、実際にはリアルだろうがヴァーチャルだろうが、埋めることの出来ない差は生まれる。それは金銭的にもそうだし、純然たる頭の出来でもそうだ。場所が変わっただけで優劣は消えはしない。隕石が落ちれば終わる世界と、電源が落ちれば終わる世界と、果たしてどちらが信用に足る世界なのか?

仮想空間を管理する人工知能とのやりとりで、何が望みでこんな事態を引き起こしたのか聞き出そうとする主人公達に突きつけられる呆気ない現実。それを少し寂しいと感じてしまった僕は、きっと仮想世界に生きてみたい人間なのだろう。そして人の手を離れた存在が引き起こす大惨事という物語は数多あるにも関わらず、意志を持った人工知能が居て欲しいのだろう。嘘みたいな本当だらけの世の中じゃ、本当みたいな嘘の需要が高いのも必然に違いない。




人は嘘が大好きである。僕も森博嗣さんの嘘が好きだ。木を隠すなら森の中、でもないが、延長線上にある社会に現在を盛り込む匙加減がなんとも云えない。嘘を許容出来るかどうかは、吐き手の技量にかなり左右されるものだ。政治家だってそう。詰めが甘い人の嘘ほどガッカリさせられるものはない。

限りなく本物に思える嘘が欲しい。それが僕の本質で、それが人間なのではなかろうか?
posted by lain at 07:13北海道 ☔小説