直感を疑いググった瞬間負けているのは、そこの貴方だ「The Art of INEI コンセプトアート」感想

”ジャケ買い”で泣き笑いした経験が、誰にでもあるのでは無いだろうか?特にビニールで包まれた漫画や、聴くまで分からないCD。ゲームだってパッケージだけは面白そうに見えたりして、ついつい買ってしまったものではなかろうか?

なんでもスマホで調べられる時代だから、お試し程度に読んだり聴いたり出来る為そういった事故も少ないかもしれないが、おじさん(30〜40代以上)達はちょくちょくやらかしていたものである。エ◯漫画の表紙詐欺には何度痛い目に遭わされたかしれない....


でも、そうやって中身が分からないまま、見た目と直感だけで選んだものが頗る面白かったりすると、本当に気持ちが良かったものだった。そうやって出逢ったものの方が、案外年老いても忘れられなかったりするのである。そういう意味において、天冥の標などは、かなりジャケ買い勢を喜ばせた作品だったのではないかと思う。

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天冥の標のカバーイラストを担当しているのは株式会社INEI(陰翳・インエイ)で、その中心人物が富安健一郎という人らしいのだが、実に丁寧かつ深みのある仕事っぷりで、何時間でも1枚の作品を眺めていられそうなくらい情報量が半端では無い。3DCGの上から描くこともあれば、実写を使って絵を仕上げていく場合もあるそうで、実際には存在しないものも多数手掛けているし、生半可な技術でなんとかなる仕事ではない。

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かなり細かく仕事の進め方が書かれていて興味深かった



これらは所謂コンセプトアートと呼ばれるもの。確かにこれだけの絵があれば、我々が世界観を膨らませる助けには十分すぎると言えるだろう。天冥の標の小川一水さんだって、こんなイラストを見せつけられたら、下手な文章を書けるはずがない。受け手だけでなく、作り手のことも大いに刺激するINEIは罪な集団だ....





暫く本棚で埃をかぶっていたINEIのアートブックのページを久々に捲ったが、これまた受け手と作り手の両者にとって得になる構成だよなぁと改めて思った。ただイラストが並ぶアート本も良いが、絵を描く前後の仕事がどれだけ大事か教えてくれるハウツー本的な要素があるアート本も良いじゃ無いか。

天野喜孝や末弥純のように人をメインで描く人達ではなく、建物や機械や自然の絵をメインで描く集団の名前が目立つのは絶対良い話。監督や脚本家やキャラデザばかり注目されるアニメだって、美術や背景が無ければ成立しない場合が非常に多い。ベースを支えるのに必要な人たちの素晴らしい働きは、ちゃんと評価されるべきなのだ。



これからもINEIさんの仕事は密かにジャケ買いを促進させることだろう。しかしながら、それは大変幸せなジャケ買いになること請け合いである。

気になったらじゃんじゃん買ってしまうが吉。失敗もまた糧になるのだから。決まった成功はつまらない。インスピレーションを疑ってググったら負けくらいの方が刺激的だと思わない?










INEIホームページ http://ineistudio.com

仕事が道楽だと言える人生にしたかった.....「仕事道楽 スタジオジブリの現場」鈴木敏夫/岩波書店

 大まかに”団塊の世代”と呼ばれる人達のことを、僕は実に羨ましく思っています。

 今のようにテレビや冷蔵庫が家にあるのが当たり前では無い時代ではあっただろうけど、それこそ貧しい中だからこそ、楽しみや生き甲斐を見つけるんだ!という力の湧いて来る時代だったのだろうと、その世代を見ていていつも感じます。長年ジブリの巨匠二人を支えて来た鈴木敏夫さんもまさに団塊の世代なわけですが、自身の仕事のスタイルをまとめた本書でも、遺憾無く団塊の世代らしい感覚が冴え渡っていました。

 悪く言えば「どうにかなるさ」の楽天家。それが団塊の世代なんですよね。



 この本の内容のほとんどは、鈴木敏夫さんのラジオ番組『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』で語られたことばかりなので、ラジオを毎回聴いている人には復習になってしまうかもしれませんが、若干の補足や引用文などもあるので読んで損だと思うことは無かったです。とにかく鈴木さん周辺の団塊の世代(前後)の話が満載で、ルールルールと五月蝿い昨今では絶対成り立たないような、ざっくりした仕事の進め方の数々に良いなぁと思ってばかりでした。

 何かデカイことがしたい!金が欲しい!

 そんな理由で働くのも良いけれど、お互いに刺激を与えあえる仲間と働くのが面白いから『働く』、という鈴木さんの選択の方が魅力的に思えるんですよね。

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意外と知られていないかもしれませんが、結構絵心もあるんですよね
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 特に”宮崎駿” ”高畑勲" 両名の逸話は何度見聞きしても面白かった。こんな人達を良くぞ今まで守ってくれたものだと鈴木さんを思わず尊敬しそうな勢いでした。生まれる時代を30年間違えたら、今頃どこでどうハブられていてもおかしく無い人達ですw

 時代が人を形造るのか、人が時代を作るのか分かったものじゃありませんが、本当にこの二人、いや、三人が先に生まれていてくれて良かった。同世代にこんな連中がいたら日々凹みっぱなしで呑んだくれてしまいそう...




 兎にも角にも、鈴木敏夫さんは、何故今こうした生き方が許されないのか?と、いう話をする時ピッタリな生き証人かもしれません。

 そして、こんな喩えは不謹慎かもしれませんが、皮肉にも人間も間引いた後の方が良く育つのかもしれない............


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posted by lain at 08:31北海道 ☔Comment(0)書籍色々

もう一度この身が灼かれる本だった「塚本晋也×野火」游学社

滅多に実写映画の本買わないのだけど「野火」は買わずにいられなかった。

 全103頁。

 塚本監督本人の言葉は勿論のこと、様々な角度から「野火」と”塚本晋也”監督を考察する著名人達の寄稿が面白く、更にはあの大戦を知らない人、忘れ掛けている人が少しでもどんな戦争だったのかを知る(思い出す)ことが出来るように隅々まで構成されていました。ネタバレ必至な内容ばかりなので、スクリーン前で身動きひとつせず食い入っていた時の感覚が蘇ります......

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今まであまり好きになれなかった”田原総一朗”氏に初めて尊敬の念を抱いた

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図鑑や年表があるから非常に分かり易い

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台本の上には戦争を知らない世代に向け事細かに注釈が添えられている




 台本が収録されているので、この本を先に読んで映画を観に行くというのはあまり好ましく無い気がしますが、あえて本を熟読してから映画を観た時の感じ方がどのようになるか少し気になります。

 それはそうと、野火を見てからもう1週間が経ったと言うのに、まだあの島で佇んでいるような錯覚を覚える瞬間があり、そんな時は食べ物に困ることもなく銃弾もミサイルも降って来ない暮らしを送っていながら、何一つ満足に”生きて”いる気がせず、命があって安全が保障された何不自由無い生活と言うのは、逆に考えると不自由に生きる権利を奪われた生活だと言えるのでは無いか?とさえ思えて来ます。

 時代の波に飲まれ、普通に生きる権利を奪われた人々からしたら、本当に贅沢な悩みであります。のんべんだらりと生きている自分が情けなくて仕方なくなる。だがしかし、この世界で限りある命を余す事なく使い切れる人間なんてどれだけ居るというのでしょうね?...





 こんな遣り場の無い想いを多くの人々から引き出すことが出来る野火と塚本監督はやはり凄い。

 先端技術やお金ではなく、ただひたすら心と身体で映画を撮るタイプの監督だからこそ、出来上がった映画が単純な論評に収まる作品に成らないのだと思いました。


 これでまだ2つしか塚本作品を観ていないものの、既に僕の中で無くてはならない存在になりつつあります。

 今度は『鉄男』に触れてみようかしら?

 それとも『電柱小僧の冒険』....ゴクリ



 












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posted by lain at 21:08北海道 ☔Comment(0)書籍色々