おっさんが愛す、おっさんの中のおっさん「機動警察パトレイバー後藤喜一ぴあ」感想

創作物の多くには人間が登場するわけだが、どうにも加齢のせいか10代よりは20代、20代よりは30代と、すっかり共感する対象の年齢が引き上がったのを痛感させられる日々が続いている。

そんな様であるから、当然"後藤喜一"と云う男への想いも、あの頃とは違う物になってしまった。”こんな人が上司だったら” ではなく、自分が”そんな上司”にならなくてはならない状況にあるのだから......

だらしない部分だけは、見習えているような気がする.......





高度成長期を迎えた日本が舞台の「機動警察パトレイバー」では、従来の重機から一歩進んだレイバーと呼ばれるロボットが土木、建設、その他多くの現場で活用されており、それによりレイバー犯罪を扱う部署が設立されるようになったと云う設定を元に、個性豊かな登場人物達が所狭しと活躍したわけだが、その中でも一際曲者で、誰よりもだらしなく誰よりも頼りになる水虫男が後藤喜一と云う人。

今では伝わらない表現の昼行灯と云う形容詞がぴったりな男でありながら、いざとなるとキレにキレた采配でもって事件を解決に導く策士と云う彼のポジションは本当に狡く、カチッと全て整った遣り手のイケメンなんかは直ぐに飽きてしまうのに、背が曲がり死んだカエルの目をしている後藤さんは、どれだけ一緒に居ても飽きが来なくて大好きだった。


それでもまさか、企画始動から30年以上経過した今になって、後藤喜一オンリーの本が出版されるだなんて思いも寄らなかった。一応の主人公である泉野明の本が出るのはまああるだろうと思ったけれど、ムサイおっさんの情報満載の本が企画として通ることなんて普通ありえない。たとえ架空の存在であっても、それだけ魅力的な人物だと実際に大勢が感じていなければ企画倒れも良いところである。編集者に相当後藤喜一シンパが居るのではないかと勝手に勘ぐってしまう。

だがそんなことはどうでも良いのだ。本当によくやった!読んで心底そう思った。アニメ版、漫画版、小説版、ドラマ版に至るまで余すことなく後藤さんの魅力を抽出しており、アニメ版で後藤喜一を演じた大林隆介さんと、後藤とは切っても切れない間柄である南雲しのぶ役の榊原良子さんのクロストークだの、押井おじさんへのインタビューに至るまで、全部後藤の為に集められた言葉、言葉、言葉で埋め尽くされている(絵もいっぱいあるよ)こんな本はもう二度と出ないことだろう。これだけの物を用意されておきながら、モタモタして買うのを躊躇っているパトレイバーファンが居たら、俺自ら東京湾に叩きこんでやるぞっ!と、榊整備班長も申しておりました(真顔)









俺も誰かにとっての後藤喜一になれていたら良いな....

そんなことをつい考えてしまうほど、彼への憧れは未だ色褪せていない。

直感を疑いググった瞬間負けているのは、そこの貴方だ「The Art of INEI コンセプトアート」感想

”ジャケ買い”で泣き笑いした経験が、誰にでもあるのでは無いだろうか?特にビニールで包まれた漫画や、聴くまで分からないCD。ゲームだってパッケージだけは面白そうに見えたりして、ついつい買ってしまったものではなかろうか?

なんでもスマホで調べられる時代だから、お試し程度に読んだり聴いたり出来る為そういった事故も少ないかもしれないが、おじさん(30〜40代以上)達はちょくちょくやらかしていたものである。エ◯漫画の表紙詐欺には何度痛い目に遭わされたかしれない....


でも、そうやって中身が分からないまま、見た目と直感だけで選んだものが頗る面白かったりすると、本当に気持ちが良かったものだった。そうやって出逢ったものの方が、案外年老いても忘れられなかったりするのである。そういう意味において、天冥の標などは、かなりジャケ買い勢を喜ばせた作品だったのではないかと思う。

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天冥の標のカバーイラストを担当しているのは株式会社INEI(陰翳・インエイ)で、その中心人物が富安健一郎という人らしいのだが、実に丁寧かつ深みのある仕事っぷりで、何時間でも1枚の作品を眺めていられそうなくらい情報量が半端では無い。3DCGの上から描くこともあれば、実写を使って絵を仕上げていく場合もあるそうで、実際には存在しないものも多数手掛けているし、生半可な技術でなんとかなる仕事ではない。

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かなり細かく仕事の進め方が書かれていて興味深かった



これらは所謂コンセプトアートと呼ばれるもの。確かにこれだけの絵があれば、我々が世界観を膨らませる助けには十分すぎると言えるだろう。天冥の標の小川一水さんだって、こんなイラストを見せつけられたら、下手な文章を書けるはずがない。受け手だけでなく、作り手のことも大いに刺激するINEIは罪な集団だ....





暫く本棚で埃をかぶっていたINEIのアートブックのページを久々に捲ったが、これまた受け手と作り手の両者にとって得になる構成だよなぁと改めて思った。ただイラストが並ぶアート本も良いが、絵を描く前後の仕事がどれだけ大事か教えてくれるハウツー本的な要素があるアート本も良いじゃ無いか。

天野喜孝や末弥純のように人をメインで描く人達ではなく、建物や機械や自然の絵をメインで描く集団の名前が目立つのは絶対良い話。監督や脚本家やキャラデザばかり注目されるアニメだって、美術や背景が無ければ成立しない場合が非常に多い。ベースを支えるのに必要な人たちの素晴らしい働きは、ちゃんと評価されるべきなのだ。



これからもINEIさんの仕事は密かにジャケ買いを促進させることだろう。しかしながら、それは大変幸せなジャケ買いになること請け合いである。

気になったらじゃんじゃん買ってしまうが吉。失敗もまた糧になるのだから。決まった成功はつまらない。インスピレーションを疑ってググったら負けくらいの方が刺激的だと思わない?










INEIホームページ http://ineistudio.com

仕事が道楽だと言える人生にしたかった.....「仕事道楽 スタジオジブリの現場」鈴木敏夫/岩波書店

 大まかに”団塊の世代”と呼ばれる人達のことを、僕は実に羨ましく思っています。

 今のようにテレビや冷蔵庫が家にあるのが当たり前では無い時代ではあっただろうけど、それこそ貧しい中だからこそ、楽しみや生き甲斐を見つけるんだ!という力の湧いて来る時代だったのだろうと、その世代を見ていていつも感じます。長年ジブリの巨匠二人を支えて来た鈴木敏夫さんもまさに団塊の世代なわけですが、自身の仕事のスタイルをまとめた本書でも、遺憾無く団塊の世代らしい感覚が冴え渡っていました。

 悪く言えば「どうにかなるさ」の楽天家。それが団塊の世代なんですよね。



 この本の内容のほとんどは、鈴木敏夫さんのラジオ番組『鈴木敏夫のジブリ汗まみれ』で語られたことばかりなので、ラジオを毎回聴いている人には復習になってしまうかもしれませんが、若干の補足や引用文などもあるので読んで損だと思うことは無かったです。とにかく鈴木さん周辺の団塊の世代(前後)の話が満載で、ルールルールと五月蝿い昨今では絶対成り立たないような、ざっくりした仕事の進め方の数々に良いなぁと思ってばかりでした。

 何かデカイことがしたい!金が欲しい!

 そんな理由で働くのも良いけれど、お互いに刺激を与えあえる仲間と働くのが面白いから『働く』、という鈴木さんの選択の方が魅力的に思えるんですよね。

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意外と知られていないかもしれませんが、結構絵心もあるんですよね
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 特に”宮崎駿” ”高畑勲" 両名の逸話は何度見聞きしても面白かった。こんな人達を良くぞ今まで守ってくれたものだと鈴木さんを思わず尊敬しそうな勢いでした。生まれる時代を30年間違えたら、今頃どこでどうハブられていてもおかしく無い人達ですw

 時代が人を形造るのか、人が時代を作るのか分かったものじゃありませんが、本当にこの二人、いや、三人が先に生まれていてくれて良かった。同世代にこんな連中がいたら日々凹みっぱなしで呑んだくれてしまいそう...




 兎にも角にも、鈴木敏夫さんは、何故今こうした生き方が許されないのか?と、いう話をする時ピッタリな生き証人かもしれません。

 そして、こんな喩えは不謹慎かもしれませんが、皮肉にも人間も間引いた後の方が良く育つのかもしれない............


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posted by lain at 08:31北海道 ☔Comment(0)書籍色々