2017年09月19日

楽しいばかりが世界じゃないから、愛おしい命がある「この世界の片隅に」片渕須直(監督)/BD/感想

つい先日、広島カープが優勝した。気づけば2年連続である。

めっきり野球など観なくなったから普通に「2連覇か、すごいな」と思っただけだった。



それはそうと、広島と聞いたら未だに苦難の土地のように思ってしまう。理由は言うまでもなく原爆が落ちた土地だからである(長崎もそうなのだけど、2番目で若干被害が少なかったために印象が薄い)しかし、福島の痛ましい事故以来、その印象も和らいだかもしれない。少なくとも原爆による汚染が土地にほとんど残らなかったのは救いだったろう。でなければ、広島カープそのものが存在しなかったはずだから。

人は、様々な物を引き継いで生きていく。それこそ物かもしれないし、意志かもしれない。案外忘れがちな生命そのものだってそうだ。親がいて、親の親がいて、更に親の親の何世代遡れば良いのか分からないほど昔から紡がれた縁によって僕らはこうして生きている。そう考えると自分自身が神秘的な存在に思えて笑うしかない。


僕は自分と直接的に繋がりのある生き物を残す気は無いのだけれど、精神的繋がりや思想は残したい気持ちがある。特に良い創作物に出会った時の感覚は他の誰かにも味わって貰えたら幸いだなと思ってしまう。「この世界の片隅に」も、間違いなくそんな語り継ぎたい作品の一つで間違いなかった。




あの大戦時、戦っていたのは何も前線の兵士だけではない。それを支える人達や、どんな状況でも生き残ろうと知恵を絞って家庭を支えた女達だって戦っていたのだ。慣れない土地に嫁ぎ、十円ハゲが出来るほどのストレスを感じつつも、目の前の生を全うしようと歯を食いしばる本作の主人公”すず”もその1人だった。

周囲が勝手に縁談を進め、恋愛結婚などほぼ皆無だった当時、女性は夢を見る権利さえ無かった。すずは運良く、良い旦那と家族に恵まれ(少々口の悪い義理の姉はいるが)たものの、戦時下ならではの心に深手を負うような出来事に見舞われてしまう。そんな彼女を目撃した僕ら観客が痛感したのは当たり前の日々の大切さであった。衣食住に困らず、子供が子供らしく笑い、空襲警報に悩まされることのない僕らの当たり前が、実はどれだけ貴重な物であったことだろう.....

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これほど胸を締め付けられる戦争映画は10年以上ぶりな気がする。オーディオコメンタリーでの視聴であっても、劇場で観た時と同じシーンで泣いてしまった。それもこれも、原作者でさえ舌を巻く片渕須直監督と大勢のスタッフ達の拘り抜いた仕事のお陰だろう(一度は売れないとレッテルを貼られた作品なのに、クラウドファンディングで多くの人が信じて支えたのも頷ける手腕だった)BDの豊富な映像映像でもそれが見て取れた。「君の名は。」の特典も見応えたっぷりだったが、こちらはこちらで流儀を貫く監督を愛でるドキュメンタリーとして断然面白い。

また日本は苦境にある。あの国のおかげで鳴り響くJアラートに"もしかしたら...."という気持ちが拭い去れない時代であればこそ、小さな幸せの有り難みを実感させてくれるこの映画の価値は計り知れないなと思った。
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2017年09月04日

ジブリであってジブリでない「レッドタートル ある島の物語」マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット(監督)/プリマ・リネア・プロダクションズ/スタジオジブリ/感想

スタジオジブリの名を聞くと、一体どの映画を皆は思い浮かべるのだろう?

レッドタートルが公開された時期に「ジブリ総選挙」なる投票が行われた時は、見事「千と千尋の神隠し」が1位に選ばれており、なんとなしに、宮崎駿の絶頂時の作品が選ばれたんだなぁと思ったものだったが、果たして僕はどうだろう?

ナウシカやラピュタは勿論トラウマ級に好きではあるし、宮崎作品だけでなく高畑さんの「火垂るの墓」「かぐや姫の物語」も忘れられない。これはTVシリーズで観たかったなぁというのなら「紅の豚」だし、未成熟ながらも良さがあった「思い出のマーニー」だって捨てがたい。

でも、1本だけを上げろというのなら、やはり「風立ちぬ」かもしれない。「崖の上のポニョ」辺りから、いつ死んでも良いようにアニメを作っていたように思える宮崎駿の集大成であると同時に、普通に良い映画だった。これまでなんだかんだ言っても観てくれる人のために映画を撮っていた男が、初めて私的に撮った映画に思え、何故だか無性に嬉しかったのだ。


そんなジブリも、今は空中分解状態で、宮崎駿と高畑勲の受け皿としての機能しか有していない。次代のジブリを背負うかと思われた米林宏昌は、宮崎絵から脱却すべく外に出て映画を作っているし、「山賊の娘ローニャ」でようやく可能性が見えた宮崎吾朗は、また親父の周辺で雑務に追われているようだ。

しかし、そんな状態のジブリであったからこそ、レッドタートルが実現したというのなら感謝せねばならないだろう。








男が荒波に揉まれ、誰1人いない無人島に流れ着く。生きていく分には申し分ない島に背を向け、男は筏で海に出ようとするも、目に見えない力に邪魔され失敗。どうやら紅い亀の仕業だと分かり男は怒りに任せて亀を殴ってひっくり返してしまう。しかし罪悪感に駆られ亀を救おうとするのだが......



はっきり云って誰かのネタバレを見るまでもなく展開は読めるものの、脚本がシンプルであればあるほど誤魔化しが効かないから絵作りがものを言うわけで、そういう意味においては本当に絵に力のある作品だった。この作品のスタッフが居れば俺もまだ長編が撮れると宮崎駿が洩らしたのも頷けた 。


宮崎駿を唸らせたマイケル監督ではあるが、アーティストとしての方向性は明らかに高畑勲である。ほとんど動かないが手描きの温かみある美術や、セリフが無くとも伝わる人の営みや感情表現であるとか、淡々と物語が進行していくのに、妙な緊張感があるだとか、高畑作品に共通した何かを節々から感じた。

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人間以外にも島の住民はいて、蟹がとにかく可愛い



まあジブリで育ったアーティストでもないのに、宮崎や高畑と比べるのは意味のないことかもしれないけれど、一応ジブリ作品として売り出されている以上、意識せずにいられなかった。実際、長編を作った事がないマイケル監督としても、ジブリのサポートがあるならやると言っていたそうだから、アーティスティックプロデューサーという肩書きで参加した高畑勲氏の影響が全くないことはありえないだろう。

特殊な出逢いではあったものの、結果的に素敵な家庭を営み幸せに旅立った男の物語は、ジブリという異文化と交わって素晴らしい子を成したマイケル監督の物語のようでもあり、本当に素敵だった。

きっと若者にはこの映画の良さが分からないだろう。当たり前の幸せに気付くには、どうしても若さが邪魔になる。今直ぐでなくて良い。生きるのに疲れた時や、脛に傷が沢山出来た頃に是非観て欲しい。

きっとなんでもない出来事の一つ一つが大事だったのだとしみじみ思うのではないだろうか....





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2017年08月08日

大人になってゆく”彼”を、誇らしく思う....なんて、素直に言えたら苦労はしない...「君の名は。(Blu-rayスペシャル・エディション)」新海誠(監督)/感想

毎日毎日、ただひたすら今日を生きていたら、終わらない夢でも見てるみたいだなと時々思う。


そのうち目が覚めて、長くて疲れる夢だったと、あっさり忘れてしまいそうな人生だ。




これまで何度も重要な決断を迫られる度、最後には押しの強い人の云うこと聞き続け、主体性など何処吹く風で生きて来たせいかもしれない。気付けば”何故こうなった?”などと、己れの不甲斐なさを棚に上げ、周囲に転嫁したがる自分がいて虚しくなる。汗水垂らして働くようになり、少しは戦う自分になれた気はするけれど、肝心なところで逃げ腰になるのは直りそうになくて、同じように先へ進めない人を見つけると安心してしまう。根っからの臆病者なのだ。


そんな樣だから、同志のように思っていた男が、どんどん変わっていくのもたまらなく寂しい....



「君の名は。」のメイキングドキュメンタリーや、メインキャストの神木隆之介と上白石萌音、それにRADWIMPSを交えたビジュアルコメンタリーだけでも満腹になれるのに、新海誠監督が新しく編集した「スパークル」のMVだの公開記念特番だの主題歌が英語になっているVerの本編まで見れて豪華過ぎる(僕が買ったのはBlu-rayスペシャル・エディション


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新海監督自らが観客の質問に答えているコーナーもあるブックレットも読み応えあり









まさかの大ヒットに繋がった本作を手掛けた新海誠は、元々ニッチな作品を作る監督だった。世間の需要云々より自分が見たい風景を優先する自己完結型の制作スタイルに勇気付けられた人は数知れないだろう。”叶いそうで叶わない”お得意の切ないストーリー構成は、裏を返せば叶えたく無いだけにも思えて、お祭り自体よりお祭り前夜が大好きな僕との相性も抜群だった。しかし、『君の名は。』はひと味違った。独特の美術センスや、もどかしい男女の関係はこれまで通りだったものの、キャッチーなOPや蛇足ともとれるラストシーンもそうだが、登場人物のコミカルなやり取りも新鮮だった。


僕は始め、劇場に行くのを躊躇った。新海誠作品を見た事もない人達が素敵なハッピーエンドだと口々に言っているのを知り、早々に腰が引けてタイミングを逃してしまったのだ。それでもどうしても観たくなって、最終的には映画館へと足を運んだわけだが、思っていた以上の充足感と、蛇足に感じる幕引きの板挟みに逢い、やはり予測通り複雑な気分になってしまった。これまでの彼ならば、歩道橋の上ですれ違うシーンで切なく終わったはずだ…..という気持ちは、いまだに変わらない。




だがしかし、BDまで買って本編そっちのけで特典映像の数々を見ていると、新海誠が実に嬉しそうに携わってくれた人達の仕事っぷりを話していたから、もう野暮なことは言わないでおこうと思った。柔軟に周囲の意見を取り入れつつ、自分の作家性もちゃんと残した彼は、着実に成熟した人間になりつつある。そもそも、あーしたいこーしたいという想いをちゃんと行動に移している彼に自分を重ねるだけ失礼な話であった。


前編新海誠によるビデオコンテもBDの特典に入っており、神木隆之介も真っ青な熱演もちらほら見られた。いっそ瀧くんのCVは新海誠でいけた(断言)









他者の強さを認め、己れの弱さを知る男だからこそ、この映画を生み出せたに違いない。


独りよがりで周囲の手を借りる=敗北などと思っているうちは、なにごとも成し得ないのではないかと思った。特に今のような時代ならば尚のこと厳しいだろう。






『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』




そんな言葉がふと浮かんで消えた….





それにしてもスパークル.....





彗星、綺麗だったよな.......


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ぼくも、いつかRADWIMPSの「デート」が鳴り響く恋をしてみたいものだ.......








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posted by lain at 07:10 | 北海道 ☔ | アニメ 劇場版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする