2017年04月07日

文字で紡がれる遺伝子「伊藤計劃トリビュート2」 ハヤカワ文庫JA/感想

故”伊藤計劃”氏が作家デビューしたのは10年前。作家として活動したのはたった2年。


にも関わらず、代表作が劇場アニメとなり、大勢の作家にトリビュートされているのは何故なのだろう?





正直僕には小難しいことは分からない。でも分からないなりに彼の作品が人を惹きつける理由を考えてみると、儘ならない自身の身体に対するもどかしさや、生きることを赦されているのに命の使い道を知らぬ人々への静かなる怒りこそが全てだったんじゃないかと思わずにいられなかった。

正直、映像化された伊藤計劃作品は微妙だった。同じ境遇に無い者が束になってもかかっても、彼の抱えた闇に及ばなかったのだろう。




そんな彼に感化された若者六人のトリビュート第二弾をようやく読み終えたのだけど、六人それぞれが個性的で守る物など何処にも無いと言わんばかりに攻めていて凄く面白かった。冒頭を飾る”草野原々”の「最後にして最初のアイドル」からしてとんでも無い飛躍(アイドルとして成功することを夢見て挫折した少女と、その第一の理解者である少女の想いがガン細胞のように増殖して地球を飛び出してゆく展開は唖然呆然涙腺崩壊である(?))であったし、10代のラッパーでありながら本書に参加している”ぼくのりりっくのぼうよみ”の「guilty」も若さが眩しくも気恥ずかしい作品で良いアクセントになっていた。

他にも”柴田勝家”さんによる生まれた途端にヘッドマウントディスプレイを装着させられ、VRの中にしか現実が存在しない村の話や、砂漠で死体が歩くというディストピアネタを振るった”伏見完”、異なる言語を母国語とする者同士の普遍的な意思疎通を可能にする技術の落とし穴を書いた”黒石迩守”、そしてラストを飾った”小川哲”の「ゲームの王国」と、本当にそれぞれ違う毛色で楽しめた。


特にどこがSFなのかよく分からない「ゲームの王国」は読み応え十分で、普通に政情が不安定だった内戦下のカンボジアにおける人々のドラマとして読みふけってしまった、カンボジアならではの文化や、それらを表現する時のニュアンスがとても好みで、相性が良い作家さんだからしばらく追いかけてみたくなった。







一人の作家が死んで。一人以上の作家が生まれる。この世界は哀しみだけが連鎖するように出来ているわけでは無いなと思った。

伊藤計劃が愛したSFを、これからも僕らは愛してゆくだろう。






伊藤計劃トリビュート2 (ハヤカワ文庫JA) -
伊藤計劃トリビュート2 (ハヤカワ文庫JA) -





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我こそは次代を担うSF作家だ!そういう気迫が心地良い「伊藤計劃トリビュート」早川書房

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posted by lain at 07:23 | 北海道 ☔ | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2016年12月23日

”分かりたいより感じたい”それが僕の愛し方「自生の夢」飛浩隆/河出書房新社/感想

いやぁ参った。本当に参った。もしも僕が書き手だったら、飛浩隆さんと同じ土俵にだけは立ちたく無いと思った。

まるで張り合える気がしないから.....



 僕が幼稚園にも入っていない時代からSFを書いている方と、この歳になってようやく少しはSFを読むようになった素人を比べては罰が当たるというものだけど、なんと言うか、飛浩隆さんの作品にはSFというジャンルに収まらない”何か”があって、周到な文字選びから文章の構成まで到底真似出来る代物に思えず、この人とだけは絶対目を合わせちゃいけないくらいに、畏敬の念を抱いてしまう。良い作家は優秀な詐欺師になれる。その逆も然りかどうかは分からないが、飛さんがその気になれば人の生き死にまで言葉でコントロール出来てしまいそうでもある。くわばらくわばら......

 短編は定期的に発表するものの、1冊の本として世に出すまでが実に長い飛浩隆さん。ここ数年で知ったばかりのにわか(僕)ならまだしも、80〜90年代から飛さんを愛してやまないファンなどは、今回の新刊で涙を流すくらいの愛憎を感じたに違いない。文字で読者の心を揺さぶるだけに飽き足らず、「これが欲しかったか?」と言わんばかりに焦らしてくる飛浩隆さんは、真性のドSなのか?それともドMの裏返しなんだろうか?何にせよ悩ましいお方だ。





 さて、どうせ読解力のない僕では、飛浩隆作品の魅力を隅々まで伝えることなど、まるで出来そうに無い。なので本書の内容について触れるのも腰が引けてしまうわけだが、無い脳みそを絞ってなるべく簡単に説明するなら”大きな宇宙と小さな宇宙が交わり、愛と哀が産まれる”世界のお話だ、と思う(分かり難い。だよね) もうちょっ分かり易く例えるなら”生身の不自由さと思考の自由さのギャップ”を描いているとでも言えば良いのだろうか?もう言っててよく分からない。兎に角現象を表現させたら右に出る者は居ないくらいのおじさんの本なのは間違いない(諦めた)

 短編集ではあるけれど、明らかに繋がっている話も多く、ぶっちゃけ全てが繋がっていると言っても過言ではないから、1冊としてのまとまりもかなり良かった。灰洋と呼ばれる全てを飲み込む海に囲まれ、人知を超えた存在に弄ばれる町に住まう一組みの夫婦を描いた「海の指」や、”深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ”と言わんばかりのジュブナイル(?)作品「星窓」。そして、天才的に言葉を操る少女や、自分の言葉の力に絶望した男が登場する話まで、一つ一つが直接的にも間接的にも絡み合っており、1冊でありながら何冊分もの溜息が漏れる濃密さだった。

 あまりにも学がないため、難しい専門用語や飛さんが発明した言葉に押し潰されそうな場面もチラホラあったけれど、そうした物もきっと飛さんの狙い通りで、弄ばれる僕は良いお客さんだったりするのかもしれない。煙に巻かれることすら飛浩隆作品の醍醐味だと思えてしまう僕は、やっぱマゾなんだろう。でも、簡単に解き明かされてしまう場所に、僕らSF好きがロマンを感じるはずないですよね?




 また、文字で新しい風景を見せて下さい。どんなに焦らされようと10年でも20年でも待てますから。

 娘さんによろしく✒






タグ:飛浩隆
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posted by lain at 07:20 | 北海道 ☔ | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2016年11月20日

言葉を発明するお仕事は相変わらず面白そうだ「天冥の標\ ヒトであるヒトとないヒトとPART2」小川一水/早川書房/感想

 比較的どの巻からでも楽しめそうな作りの天冥の標ではあるけれど、全てが収束し出した”VIII ジャイアント・アーク”以降は、それまでの内容が頭に無いと厳しいだろうなぁと、”ヒトであるヒトとないヒトと”のPART2を読み終えてぼんやり思った。今回もこれまで登場した人・物・場所が、これでもか!と押し寄せて来るから、予備知識無しに飛び込むのは宇宙服も着ないで宇宙に出るくらい無謀だろう。まあ「俺はアンチ・オックスだから大丈夫だ!」と、言う方なら止めはしない。


 情報量は確かに当初から多かった。なにせ新しい宇宙を構築しようと言うのだから、当然言葉やその意味も新しくて物量が多くなって然るべきだ。ただ小川さんの拘りは巻を追うごとに増してゆき、今ではすっかりガチなSF作品になってしまって、少々僕のような不勉強者は付いていけない面もある。人物・用語集が巻末に収められていても、そこから知りたい情報を引き出すことすら困難になっていたりもする。なんにせよ最終巻まで1年以上かかるとのことだし、それまでに1巻から読み直したくて仕方ない。


 未だ膨張を続ける宇宙と同じように留まることなく拡がっていく天冥の標。僕らが愛したヒトとヒトでない者達の行く末と、その先に広がる可能性を楽しみに2018年まで生きて行こうと思った。


 今朝ほど、質アニメや人間ドラマ系のアニメが云々という2chのまとめを読んだ。難解で説明が少なく筋道も”なんとなく”自分で補正して感じるしか無い作品を敬遠する傾向が昨今あるのでは無いか?というものだった。これは僕も常日頃感じている話で、キャラ見ばかりが優先で作られる作品が人気で、説明台詞が少ない思わせぶりな作品は好き嫌いが真っ二つなことが実に多い。前者は正直内容は空っぽな物が多く、登場人物以外の作り込みが甘くて心が一切動かない。後者は意味不明なのに何か感じる物があって、初めはピンと来ない登場人物でさえ終盤には凄く好きになっていることがある。どちらか過ぎてもバランスが良く無いし、できればキャラも魅力的だが、言葉で説明し過ぎず絵でもちゃんと語るようなアニメが望ましい。今季で言えば「ユーリ!!! on ICE」のバランス感覚は素晴らしいと思う。腐れファンが喜ぶキャラ付けだったり、フィギュアについて潔く説明を挟んだり、漫画ティストのギャグセンスであったり、凄くあざとい演出が多い半面、肝心な時の心象表現に言葉ではなく絵による演出を選ぶような上手さもある。


 小川一水さんのセンスにも同様の賛辞を僕は送りたい。小説なのだから絵でなく言葉ばかりではあるし、SF作品だから当然説明もそれなりになるものの、ここぞという時は本来の意味以上の言葉を折り重ねて雰囲気だけでも楽しめる作りになっているように思うからだ。

 小説家は世界の設定だけでなく、文章を設計するのが実に楽しそうな仕事である。実に羨ましい。











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posted by lain at 07:59 | 北海道 ☔ | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする