2016年12月23日

”分かりたいより感じたい”それが僕の愛し方「自生の夢」飛浩隆/河出書房新社/感想

いやぁ参った。本当に参った。もしも僕が書き手だったら、飛浩隆さんと同じ土俵にだけは立ちたく無いと思った。

まるで張り合える気がしないから.....



 僕が幼稚園にも入っていない時代からSFを書いている方と、この歳になってようやく少しはSFを読むようになった素人を比べては罰が当たるというものだけど、なんと言うか、飛浩隆さんの作品にはSFというジャンルに収まらない”何か”があって、周到な文字選びから文章の構成まで到底真似出来る代物に思えず、この人とだけは絶対目を合わせちゃいけないくらいに、畏敬の念を抱いてしまう。良い作家は優秀な詐欺師になれる。その逆も然りかどうかは分からないが、飛さんがその気になれば人の生き死にまで言葉でコントロール出来てしまいそうでもある。くわばらくわばら......

 短編は定期的に発表するものの、1冊の本として世に出すまでが実に長い飛浩隆さん。ここ数年で知ったばかりのにわか(僕)ならまだしも、80〜90年代から飛さんを愛してやまないファンなどは、今回の新刊で涙を流すくらいの愛憎を感じたに違いない。文字で読者の心を揺さぶるだけに飽き足らず、「これが欲しかったか?」と言わんばかりに焦らしてくる飛浩隆さんは、真性のドSなのか?それともドMの裏返しなんだろうか?何にせよ悩ましいお方だ。





 さて、どうせ読解力のない僕では、飛浩隆作品の魅力を隅々まで伝えることなど、まるで出来そうに無い。なので本書の内容について触れるのも腰が引けてしまうわけだが、無い脳みそを絞ってなるべく簡単に説明するなら”大きな宇宙と小さな宇宙が交わり、愛と哀が産まれる”世界のお話だ、と思う(分かり難い。だよね) もうちょっ分かり易く例えるなら”生身の不自由さと思考の自由さのギャップ”を描いているとでも言えば良いのだろうか?もう言っててよく分からない。兎に角現象を表現させたら右に出る者は居ないくらいのおじさんの本なのは間違いない(諦めた)

 短編集ではあるけれど、明らかに繋がっている話も多く、ぶっちゃけ全てが繋がっていると言っても過言ではないから、1冊としてのまとまりもかなり良かった。灰洋と呼ばれる全てを飲み込む海に囲まれ、人知を超えた存在に弄ばれる町に住まう一組みの夫婦を描いた「海の指」や、”深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ”と言わんばかりのジュブナイル(?)作品「星窓」。そして、天才的に言葉を操る少女や、自分の言葉の力に絶望した男が登場する話まで、一つ一つが直接的にも間接的にも絡み合っており、1冊でありながら何冊分もの溜息が漏れる濃密さだった。

 あまりにも学がないため、難しい専門用語や飛さんが発明した言葉に押し潰されそうな場面もチラホラあったけれど、そうした物もきっと飛さんの狙い通りで、弄ばれる僕は良いお客さんだったりするのかもしれない。煙に巻かれることすら飛浩隆作品の醍醐味だと思えてしまう僕は、やっぱマゾなんだろう。でも、簡単に解き明かされてしまう場所に、僕らSF好きがロマンを感じるはずないですよね?




 また、文字で新しい風景を見せて下さい。どんなに焦らされようと10年でも20年でも待てますから。

 娘さんによろしく✒






タグ:飛浩隆
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posted by lain at 07:20 | 北海道 ☔ | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2016年11月20日

言葉を発明するお仕事は相変わらず面白そうだ「天冥の標\ ヒトであるヒトとないヒトとPART2」小川一水/早川書房/感想

 比較的どの巻からでも楽しめそうな作りの天冥の標ではあるけれど、全てが収束し出した”VIII ジャイアント・アーク”以降は、それまでの内容が頭に無いと厳しいだろうなぁと、”ヒトであるヒトとないヒトと”のPART2を読み終えてぼんやり思った。今回もこれまで登場した人・物・場所が、これでもか!と押し寄せて来るから、予備知識無しに飛び込むのは宇宙服も着ないで宇宙に出るくらい無謀だろう。まあ「俺はアンチ・オックスだから大丈夫だ!」と、言う方なら止めはしない。


 情報量は確かに当初から多かった。なにせ新しい宇宙を構築しようと言うのだから、当然言葉やその意味も新しくて物量が多くなって然るべきだ。ただ小川さんの拘りは巻を追うごとに増してゆき、今ではすっかりガチなSF作品になってしまって、少々僕のような不勉強者は付いていけない面もある。人物・用語集が巻末に収められていても、そこから知りたい情報を引き出すことすら困難になっていたりもする。なんにせよ最終巻まで1年以上かかるとのことだし、それまでに1巻から読み直したくて仕方ない。


 未だ膨張を続ける宇宙と同じように留まることなく拡がっていく天冥の標。僕らが愛したヒトとヒトでない者達の行く末と、その先に広がる可能性を楽しみに2018年まで生きて行こうと思った。


 今朝ほど、質アニメや人間ドラマ系のアニメが云々という2chのまとめを読んだ。難解で説明が少なく筋道も”なんとなく”自分で補正して感じるしか無い作品を敬遠する傾向が昨今あるのでは無いか?というものだった。これは僕も常日頃感じている話で、キャラ見ばかりが優先で作られる作品が人気で、説明台詞が少ない思わせぶりな作品は好き嫌いが真っ二つなことが実に多い。前者は正直内容は空っぽな物が多く、登場人物以外の作り込みが甘くて心が一切動かない。後者は意味不明なのに何か感じる物があって、初めはピンと来ない登場人物でさえ終盤には凄く好きになっていることがある。どちらか過ぎてもバランスが良く無いし、できればキャラも魅力的だが、言葉で説明し過ぎず絵でもちゃんと語るようなアニメが望ましい。今季で言えば「ユーリ!!! on ICE」のバランス感覚は素晴らしいと思う。腐れファンが喜ぶキャラ付けだったり、フィギュアについて潔く説明を挟んだり、漫画ティストのギャグセンスであったり、凄くあざとい演出が多い半面、肝心な時の心象表現に言葉ではなく絵による演出を選ぶような上手さもある。


 小川一水さんのセンスにも同様の賛辞を僕は送りたい。小説なのだから絵でなく言葉ばかりではあるし、SF作品だから当然説明もそれなりになるものの、ここぞという時は本来の意味以上の言葉を折り重ねて雰囲気だけでも楽しめる作りになっているように思うからだ。

 小説家は世界の設定だけでなく、文章を設計するのが実に楽しそうな仕事である。実に羨ましい。











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posted by lain at 07:59 | 北海道 ☔ | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2016年04月03日

常人の幻想に住まう超人達「超人幻想 神化三十六年」會川昇/早川書房/感想

 普段それほど脚本やシリーズ構成に興味は無いのだけど、二人だけどうしても意識してしまう人がいる。

 一人は”小中千昭”さん。そしてもう一人が”會川昇”さんだ。




 はっきりと意識するようになったのは、ありがちに『鋼の錬金術師』からではあるけれど、會川さんが関わった過去の作品リストを眺めてみても本当に大好きな作品ばかりだった。「吸血姫美夕」「AD.POLICE」「THE 八犬伝」「機動戦艦ナデシコ」「南海奇皇(ネオランガ」「十二国記」などなど、僕が心底アニメを愛していた時代に會川昇さんは自然と入り込んでいたのだ。

 ハガレン後は、僕のオタクベクトルと少々すれ違っていたものの、「UN-GO」でガツンとやられ、今は勿論「コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜」にどっぷりハマっている。『神化』という元号で呼ばれるもう一つの昭和を生きる”超人”達がそれぞれの正義の名の下に傷ついて行く様がなんとも言えない本作は、これまでに沢山のヒーローを見守って来た會川さんの集大成とでも云うべき魅力でいっぱいだった。”水島精二”監督という良き理解者が居ればこその映像化ではあるものの、會川昇さん無くしてこれほど曲者揃いの超人達を料理出来たとは到底思えない。

 そんなコンレボと同じ世界観を持つ會川昇さんが書いた「超人幻想 神化三六年」も当然のように面白かった。TV局で脚本まで務めるディレクターの男が、生放送の中断を外部の人間に迫られ、挙げ句の果てにはスタジオに現れた化け物の餌食になってしまいそうな瞬間タイムトリップ(タイムスリップ)を経験し、どうにかして最悪の結果を塗り替えようと何度も時間を遡り孤軍奮闘する話で、何故スタジオに化け物が現れたのか?放送を中断させようとしていた連中は何者なのか?どうして超人でも無い自分がタイムスリップしてしまったのか?と、若干ホラーじみたミステリー展開で実に小説らしい味わいなのが良い。徐々に超人幻想らしいヒーロー像が見えて来て、ほんのり切ない幕引きも素敵だ。直接アニメ版と繋がっている話では無いので、普通に本書から入ってコンレボを観るのも良いのかもしれない。




 優れた脚本家=優れた小説家では無いことは、小中千昭さんの書籍を何冊か読んだことで痛いほど身に染みているけれど、超人幻想一冊だけを例にあげるなら會川昇さんは十分優れた小説家だった。感覚的な物だけに頼らず、しっかり肉付けしながらストーリーを進めているから、”神化”と呼ばれる時代がいかなる物か、読者がちゃんと思い浮かべつつ世界観に入って行けるようになっているのが上手い。憧れが現実に打ちのめされても尚、幻想の価値を信じ続ける大人の哀愁がぷんぷんするのも良い。

 僕からしたら、會川昇さん自体が超人そのものなのだが、勝手に誰かを超人に仕立て上げ、自分の可能性を踏みにじっている僕などには思いもよらない努力の積み重ねが會川さんを超人足らしめているのは間違い無いだろう。どれほど頑張ってもコンレボに登場するような超人にはなれはしないが、決して嘘を吐かない”努力”だけは忘れずに生きていきたいなと思った....





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posted by lain at 14:49 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする