”鉄は熱いうちに打て”が出来なかった続編の見本「パシフィック・リム: アップライジング」スティーヴン・S・デナイト(監督)/感想

連休が終わりに近づくと鍋の締めは炭水化物でと決めている人みたいに、Netflixを観始めてしまうのだが、別にこれでなくても良かったかな?と少し思ってしまった。






異世界と繋がっている裂け目からやってくる怪獣達を退けるため、二人乗り(3人乗りもある)の馬鹿でかい人型兵器”イェーガー”を作った人類。多大なる犠牲を払いつつも、なんとか怪獣の侵攻を食い止め裂け目を閉じることに成功したと言うのが前作までの話。そして今作はその”犠牲”の一人となった男の忘形見が地球の危機を救う話になっていたわけだが、あれだけ大ヒットした映画の割にテコ入れらしいテコ入れもなく、悪い意味でも良い意味でもB級映画なままで鑑賞後なんとも言えない気分になった。

大抵新規作品が成功した場合、続編で少々金の掛け方が雑になると云うか普通増えるものだと思う。限られた空間を最大限に活かして成功した「SAW」などは2作目で予算が3倍以上膨れ上がったものである。にも関わらずパシフィック・リムは3/4ほどに圧縮し監督も降板。どうも製作会社間の摩擦の結果映画作りが円滑に行かないと云う分かり易いモデルケースになってしまったようである。仕舞いには中国マネーが入り込んで作品内容にも影響が出ており、どこまでがデル・トロ氏の残したネタであるのかも怪しい限り。英雄の息子である主人公が、自分は自分だと頑張る姿は、まるで続編をなんとかものにしようと足掻く監督そのものだったのかもしれない。




続編は1作目を越えられない。それは誰もが知っている不文律だ。ごく稀に出来の良い続編に出逢うこともあるが、”初めて”の感覚を与えてくれるのは当然1作目なのである。記憶をリセットでもしない限り続編には分が悪い勝負だ。とりあえずその部分を考慮するならB級として普通に面白い映画ではあった。絶望的に強い怪獣との戦いだけじゃなく、でかいロボット同士が戦う場面もあるし、パシフィック・リムらしい絶体絶命感もそこそこ出せていた。あの男が凶行に走るストーリー運びも必然に思えた。でも、だからこそ足りなかったのがB級らしい笑いのボリュームだったのではなかろうか?前作は二人の学者のユーモアのお陰でシリアスとのバランスが絶妙で、彼らがMVPだと感じた人も少なくなかったはず。残念ながら今回それに代わる笑いは得られなかった。新しいことをやれていないことは仕方ないにしても、そういったバランス感覚にはもっと気を配って欲しかったと云う気持ちは抑えきれそうに無い。

この内容であればTVシリーズでサイドストーリー扱いでやるなりした方が良かったことだろう。収益的には問題無さそうなので、デル・トロ氏が何らかの形で関わってくれるなら、まだ先を見てみたい気はするものの、これ以上ブランドイメージを下げないで欲しい気もする。

金を出す連中が欲をかかず、すんなり短いスパンで続編を作っていれば、作る側も見る側も熱の入り方がまた違ったのかな?とも考えてしまう2時間となった。



posted by lain at 06:14北海道 ☔映画

笑えない時に笑わなきゃいけないのが人生過ぎて笑えない.....「ジョーカー」トッド・フィリップス(監督)/ホアキン・フェニックス(主演)/感想

人間と云うのは、忙しくしていると余計なことを考えずに済む生き物で、生き甲斐らしい生き甲斐が無くとも突っ走っている間は普通に生きていける。しかし根本的なことは解決していないから、一旦脚を休めてしまうと現実に押し潰されそうになり、それを払拭するのは容易ではない。そういう意味では、生きることに必死で自分の存在がどうのと云うことが二の次だったひと昔前の方が、よほど幸せな社会だったのではなかろうか?






主人公のアーサーは、コメディアン志望の道化師。道端で閉店セールの看板を持っていれば地元のガキ共に襲われたり、病気のせいで極度のストレスに晒されると突然笑い出してしまうからトラブル続きの毎日。憧れの人や、実の父親らしき人からもコケにされ、現実が彼を追い込んで行き最後には......と、いかにしてバットマンの”ジョーカー”が誕生したのか?が描かれる作品だったわけだが、聞いていた通りバットマンの系譜として見るより、独りの男がいかにして社会の闇を代表するような存在になって行くのかを目撃する作品として見るべき映画だなと思った。

それでなくとも承認欲求溢れる現代社会。何をやっても裏目に出たり、誰かの価値観を押し付けられたり、レッテル対レッテルの不毛さに辟易させられるなんてこともざらだ。正直社会に責任転嫁して暴発する人間など迷惑なだけだと思っているが、それと同じくらいジョーカーのしでかした事を他人事には感じなかった。いつの間にやら来る日も来る日も、本音を隠して笑う毎日を過ごしている自分にとって、病気ではあっても笑えない時に笑うアーサーのしんどさは身に染みている。だから明日は我が身それくらいに思わされる切実さがあったのだ。文字通り身を削り役作りをしたホアキン・フェニックスと、彼を見事に活かしたトッド・フィリップスには最大級の賛辞を送りたい。これくらいの本気を日本の若い役者にも見せてほしいものだ.......





自分は運が良い方だろう。せいぜい安月給に見合わない責任を押し付けられたり、この先の親の面倒をどうみたら良いかと云う不安や、家族以外に親しい人をほとんど持ち合わせていないことくらいしか、悩みらしい悩みはない。日に日に衰えは感じるが身体もなんとか保っている。しかしそれだけで満足出来るほど、無欲では無いことを、この作品は思い知らせてくる。僕は確実にアーサー側の人間で間違いない。にしても、うっかりこの映画をカップルで観に行ったリア充共は、どんな顔で劇場を後にしたのだろうか?憐みの目でアーサーを見守ったのだろうか?


僕は彼を憐みで見たくなかった。彼を憐れんだら、自分を憐れに感じるのと同じだと思うから....





posted by lain at 16:50北海道 ☔映画

俺はネギ大好きです(はぁと)「王様になれ」the pillows/BD/感想

ピロウズが映画を作る。そう聞いたのはライブ会場でだった。

その時は正直、30周年の思い出作り程度なんだろうと思ったものだったが、好奇心が勝ってBDを観た今となっては、本当に良い作品になっているじゃないかと独り反省している。


でもまあ、さわおさんも驚きの仕上がりなのだから勘弁願いたいものだ。





”the pillows”の名と「王様になれ」の文字でこのブログに飛び込んだ人であれば、説明する必要は無いと思うけれど、pillowsは様々な困難を乗り越えて30年続いたバンドであり、我々ファンが困難を乗り越える為の手助けをしてくれたバンドでもあります。報われない想いを抱えた人に寄り添うだけでなく、時には心を鬼にして突き放す歌詞の数々に、僕も何度奮い立たされたかしれない。

本作の主人公はカメラマン志望の青年。本業はアシスタントばかりで写真も撮らせてもらえず身内のラーメン屋でアルバイトの日々。しかしそのラーメン屋での出逢い(女性)が彼を変えていく。ピロウズを聴くようになり、ガムシャラに夢を追いかけ出す。仕事や彼女との間で失敗を繰り返し、折れそうになっても前に進む彼の姿は、まさしくピロウズそのものである。



青春映画としては至極平凡な作品なんだろう。夢を諦めきれない青年と、病気を抱えた女性のプラトニックな恋の物語と言うのは酷く使い古された題材だ。ピロウズファン以外が観ても満足いくかどうかは分からない。ただ、逆にピロウズやゲスト出演しているアーティストのファンであれば確実に刺さる一本に仕上がっている。間延びするかしないかギリギリの線までライブシーンはガッツリ収録されており、シーン毎の楽曲合わせが非常に練られていて効果的だった。元の音源がシーンに合わないが、どうしても”それ”使いたい時は新録まで行ったと言う劇伴も含め、監督のピロウズに対する理解が深くないと出来ない仕上がりだったと言える。

役者に関しては、じわじわハマっていったような気がする。主役の青年役である岡山天音くんの独特な演技や、主人公が指導を乞うカメラマン役を演じた”岡田義徳”さん、そして要所をしっかり締めてくれたヒロイン役の”後東ようこ”さん等の演技はなかなかにあとを引いた。さわおさんの演技もかなり怖かった(真顔)低予算でスケジュールがキツい中、ここまでやれるのがプロの仕事なのだ。物作りは突き詰めるとキリがないから、完成させることの救いと苦悩は計り知れない.....





本編視聴後に一気見したビジュアルコメンタリーやメイキング映像も面白く、監督がいかにピロウズの色を映画に活かそうとしていたかが伝わった。しんどい現実を叩きつけるだけでなく、笑いどころも満載で娯楽としても楽しめた。普段は映画の監督などやったことがないオクイシュージさんらしいバランス感覚なのかもしれない。

なんにせよ、ピロウズ愛を一身に受けた唯一無二の一作で間違いない。本当に30周年おめでとうピロウズ。




お陰で久々に”久しぶりじゃないか”と、言われに行きたくなった.....





posted by lain at 00:31北海道 ☔映画