2015年04月10日

僕らもいつかは昔になるか....「ムカシ×ムカシ」森博嗣(著)講談社

 相変わらず犯人が誰であるかなんて重要では無い森作品でした。

 犯人も直ぐに分かってしまいます。

 でも、それがまた良い。

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 資産家の夫婦が殺され、”SYアート&リサーチ”のいつものメンバー(小川と真鍋)と臨時アルバイトの女の子”永田”は、その家の美術品鑑定を仰せつかり、事件についてあーでもないこーでも無いと想像を膨らませつつ作業をしているのだが、今度は男性の死体が敷地内にある井戸から見つかり、どうやらこれは連続殺人かもしれないぞ!と、定番の流れへと突入してゆくこととなります。

 良い意味で「古臭い」ところがあります。事件の設定もそうですが、森さんにしては丁寧に犯人の動機が語られているし、一般的な人間の思考で理解出来る殺意を感じました。まあ、僕が僕を一般的であると定義した場合の話ではありますが。


 誰が犯人であるかが重要で無いと思うのは、事件に首を突っ込んでいるうちに資産家一族と犯人の関係性を知ったことで、自分と向き合うことになる中年女性”小川令子”の心模様こそが本作の魅力の大部分を占めていた気がしてならないからです。

 場面に合わせて誰目線であるかが変わる本作、序盤は真鍋君の飄々とした中から出て来るウブさというか、庶民らしさに微笑ましく進むものの、物語が大事な局面に入ってからの小川令子目線では、中年である彼女の抱える不安定な感情が犯人の悲しみに重なり、直接犯人が事件について語るのではなく、第三者の感じたままで犯人の心情が浮き上がるように構成されている辺り、森博嗣さんらしさを感じました。

 僕も小川さんと同じくらいの年齢なので、彼女の浮き沈む心の状態が凄くよく分かります。若い世代を微笑ましく想う心と羨む心が共存し、いくら仕事を上手く熟せるようになっても満たされない何かがある。何がきっかけになったのか自分でも分からないくらい無性に泣きたくなる時だってざらだ。 この先の将来に期待出来そうで出来ない人生の折り返し点に辿り着いた彼女と僕の明日は何処へ繋がっているのだろう?....考え出したらキリがありません。






 湿っぽい話はとりあえず棚上げしておくとして、タダでは転ばないSYアート&リサーチ社の代表”椙田”さんの商魂たくましい姿で幕引きするところなんかまた良いですXシリーズ。あぁ、やっぱりこの人はこうでなくちゃとつくづく思わされます。同シリーズから森博嗣作品に入った人にはなんのこっちゃと感じるでしょうけど、S&Mシリーズの系譜を全て追って来てる身としては本当に嬉しい内容です。小川さん達が椙田さんのことで驚くたび、彼の本業を知ってる僕らの心はくすぐられますしね。

 今回、前作で登場した永田さんがアルバイトとしてレギュラー入りした形になって、小川さんとはまた違った魅力を振り撒いていたのもなかなか良かった。思わせぶりな態度で真鍋君を振り回しているのも楽しかったです。期間限定のアルバイトとして登場したわけですが、次も何かしらの役割を担うキャラとして残って欲しいな。




 やっぱりXシリーズは良い。保呂草さんが大好きであるのも大きいですが、小川さんのちょっと抜けたところのある可愛らしさも好きだし、真鍋くんの空気を読まず場を凍らせる一言一言もたまらない。

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 今回もご馳走様でした森先生。


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2014年05月26日

またかっ!だなんて言わないで♡「神様が殺してくれる」/森博嗣/幻冬舎/2013年/小説/感想

どんなに聡明そうに見える人物でも、どうしてもこれだけは止められないって事の一つや二つあるもので、僕の敬愛する森博嗣さんも救いようが無いほど執着していることがある。触れる事さえ赦されそうにない唯一無二の麗人や、確固たる自我が揺らいでばかりの多重人格者を作品に登場させる点だ。

森さんのデビュー作S&Mシリーズでは”真賀田 四季”と言う森作品の中で1番恐ろしく、1番美しい女性が登場するし、スカイクロラも明言はして居ないがそれらを匂わす表現があった。

他にも短編やシリーズ外の作品で度々、麗人&多重人格者が登場しているので、もうどれがどれだったか思い出すのも難しい...



本作は多重人格とは少し違うわけだけど、正直同じようなものであるし、主人公が惹かれている人物の人智を越えるような美しさ共々、森さんの偏愛というか、拘りというか、実にそれらへの執着が出ている作品になってた気がします。ミステリーとしての驚きはやんわりで、後になって考えると主人公もっと早く気付いてあの人止めてあげろよっ!って内容でした。森博嗣作品特有の「聞かれなかったから言わなかった」という主人公のせいでどれだけ周りを振り回す結果になったことか.....



とはいえ森さんの美しい者を崇拝する感覚が心地良い本作、僕は好きです。

主人公の大学時代に同室だった美しい青年が、付き合っている相手を次々殺され、何度となく続く殺しに警察は魔性の美貌を持つ青年を第一容疑者として考えるようになるのだけど、兎に角男とも女とも思えない美しさを想像するだけで楽しい。

有名人との妖し気な情事

場末の夜の店

女性向けファッション誌の表紙

等々、作中の様々なシチュエーションで美しい青年がどんなプロポーションで、どんな仕草で、どんな表情をみせているのかが気になって仕方無かった。連続殺人事件もただ単に青年の謎めいた美しさを引き立てる添え物でしかなく、萩尾望都作品の信奉者である森博嗣らしい美学が本当に良いです。

それにしても青年がザーラ・レッシュと名乗り女装して写った写真集が見たい。TOYOTAオーリスのCMで有名になったStav Strashko(スタヴ・ストラスコ)より綺麗なんだろうか?.....





美しき狂気に魅せられ続ける森博嗣さん。

「またか」と何度ファンに言われようと、救い用の無い美学に傾倒し続けて欲しいですね (= ワ =*)

ザーラ・レッシュに会いたい....
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2014年05月16日

身を心を切り裂く筆の音が聴こえて来そうだ『フォグ・ハイダ』/森博嗣/中央公論新社/2014年/感想

今の”森博嗣”の本気を見たかったら、このシリーズを読むしか無い!と、言いたくなるほど大好きな森博嗣チャンバラ活劇ヴォイド・シェイパシリーズ。

先月出た第四弾「フォグ・ハイダ」もすこぶる時代劇で最高でした。

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少しだけ自分を取り巻く環境が見えて来た主人公"ゼン"は、今回盗賊の片棒を担いでいる凄腕の侍”キクラ”と関わったことで、剣術道場の跡取りを廻る策謀に巻き込まれることになるわけですが、相変わらず二律背反する想いを内に抱えながらも、美しい剣技を持つ侍と相対する事を止められないゼンの葛藤が森博嗣さんらしい流れの美しい文体で書かれていて実に面白い。

特に今回は大勢の敵と渡り合うことになる、林の地形を活かした斬り合いのシーンがとても印象に残りました。少ない言葉であそこまで読者に動きを感じさせる森さん流石です。命のやり取りでしかない剣の応酬の美しくも虚しい様子が実に森さんのテイストにマッチしてるんですよね。落ち葉の中に身を隠している時の回想も良かったなぁ.....

本シリーズは、主人公のゼンが自分の振るう刀の正しい在り方にあれこれと想いを廻らせ、命懸けの美しいやり取りの中で少しずつ成長してゆくのがメインなわけですが、ちゃんと女っ気も用意されてるのも上手いですよね。よく見ると可愛らしい宿屋の女性だの、忍仕込みの女盗賊だの、手の施しようの無い病いを患った美人だの、流しの三味線弾きのお姉さんだの、男ばかりでムサ苦しくなりがちな時代劇に外せない彩りだと思います。まあ、今回は特に女っ気が多かった気もしますけどね。ゼンを影で見守っているナナシという忍も女性でしたし(あ、ネタバレw)


さて、そんなヴォイド・シェイパシリーズですが、当初の予定していた全五巻にはまとまらないと森さんが言っているので、ゼンが都まで旅路でどんな善を育み、どんな剣を磨いてゆくのか?まだまだ先が読めるのは嬉しい。

剣を極めることの虚しさに思いを馳せるゼンに、筆を走らせる意義を模索している森博嗣さんの気持ちがダブって見える作品でもありますし、少しでも長く読んでいたいものです....
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毎度楽しみにしてる美しい装丁、帯を外すと更に美しいですよね(ウットリ)




関連過去記事

『素晴らしくベタな日本の様式美がここに「スカル・ブレーカ/森博嗣」/中央公論新社/2013年/小説/感想』
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posted by lain at 08:08 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする