2015年05月18日

純粋な華は血を欲す「サイタ×サイタ」森博嗣/講談社

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『「キレイニサイタ」「アカクサイタ」謎めいた犯行声明をマスコミに送りつける連続爆発事件の犯人、通称・チューリップ爆弾魔。その犯行が報道される中、SYアート&リサーチに持ち込まれた奇妙な素行調査。対象者―佐曾利隆夫に以前の同棲相手へのストーキング疑惑が浮上する。張込みに加わったバイトの永田絵里子は、佐曾利を尾行中、爆弾事件に遭遇する。そして第一の殺人事件が!』
byBOOKデーターベース






 簡潔に言うと、歪な愛情表現しか出来無い哀しい男の物語で、打海文三さんの作品によく出て来るようなハードボイルドの香りを犯人に感じました。いつも通り、犯人のしでかしたことの正否や動機を「こうかもしれない」に留めているから、あれこれと犯人の背景にドラマを思い浮かべてしまう為なかなか良い読後感です。

 この作品の犯人だけに言えたことでも無いですが、真っ直ぐな価値観を持っている人は、その一途さ故に傍目からは怖かったりするものの、ほんの僅かだとしても僕らに「いいな」と思わせるだけの格好良さがあり、善悪を法や個人の価値観で測ることの危うさ無意味さを幾度も綴って来た森博嗣さんが、そういった人種を書くのだから、僕のような読者は自然と気に入ってしまうはず。



 後はそう、このシリーズの感想で何度も書いていることだけど、中年女性"小川"のしっかりしていそうで抜けている可愛らしさや、抜けているようでしっかりしてる”真鍋”くんの飄々とした感じであるとか、森博嗣キャラの独特なバランス感覚が好きでたまらない。

 今回は探偵事務所の親分である椙田さんこと保呂草さんの出番がほとんど無かったが、社員1名とバイト2名と社外要員1名のやり取りは美味しかった。そろそろ真鍋くんと永田さんの関係が出来上がっても良さそうではあるが、きっとその辺りのことは二人共鈍いんだろうなぁ...小川さんがヤキモキする気持ちが痛いほど良く分かる。





 泣いても笑っても次がシリーズ最後だと言う。

 ”あの人”が関係した事件が起きるのか?

 保呂草潤平はこれでお役御免なのか?


 僕やファンが望んだところで叶うわけも無いけれど、出来る事なら保呂草さんが絡む作品をこれからも定期的に出して欲しいものだ。「黒猫の三角」の頃より前のレトロな探偵物の主役にどうでしょうか?

 彼が泥棒を始めるきっかけになったエピソードとか織り交ぜて行くと面白そうじゃないですか?|Θ' )




 そうだ、ついでだから本気でハードボイルドを狙った「ゾラ・一撃・さようなら」の続編である「暗闇・キッス・それだけで Only the Darkness or Her Kiss」を続けて読むことにしよう。



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posted by lain at 06:28 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2015年05月05日

何処かに有りそうで、やっぱり無いのが人生の答え「マインド・クァンチャ」森博嗣/中央公論新社

 実に幸せな読後感であります。別に自分がその境地に達したわけでも無いのに、とうとう旅の終着を迎えたゼンノスケを見ていたら、清々しい気持ちでいっぱいになりました。

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※刊行された4月に相応しい素晴らしさ。こんな写真撮りたい...




 主人公であるゼンノスケが、育ての親を失い山を降り、様々な人々と出逢い、剣を振るいながら自分探しの旅を続けることとなる”ヴォイド・シェイパ”シリーズ第5弾にして、ほぼ完結編だと言って差し支えない本書。なれば最初の巻から読むが吉であると考えるやもしれませんが、森博嗣さんがよく口にしている通り、本書単品から読んでも楽しめる王道時代劇になっていたと思います。

 しかも今回は、まさかの記憶喪失という展開でありますから、なおのことシリーズを知らない人に相応しかった。大事なことも、嫌なことも、何もかも忘れてしまった主人公の記憶の回復と共に、このシリーズの楽しみ方を感じ取って行けるはず。


 美しい物ばかりを見ていたら、何が美しいのか分からなくなってしまうような気もするけれど、とことん研ぎ澄ました美しさなら、何度眼にしてもなかなか飽きはしません。しかもそれが現在進行形で深みを増している森博嗣作品であれば尚更であります。

 森博嗣さんの綺麗な言葉選びは、時に冷淡で心を抉り取るけれど、あえて言葉にしないことで伝わる優しさもある。特に都会から離れ、森の中へと越してからというもの、言葉から自然と溢れる温もりが増した。気がする。

 面倒。無駄。と言いつつも、他者との歩調を合わせる心遣いも分かり易くなったと思うし、良い意味で角が取れて、作家としても人間としても、熟成されて来たのではなかろうか?「暮らしの手帖」74号にて漏らした本音も以前の森さんなら文字にしなかったかもしれない。





 もう少しで本書を読み終えそうだと思っているうちに、お昼の陽気に誘われ居眠りをして夢を見ました。

 どこかの高校らしいところへたどり着き、そこかしこで学生の軽薄そうな声が響いている。誰に導かれるでもなく、とある部屋へと入ってゆくと、周囲の人々が期待の眼差しを僕に向け、口々に意味不明な言葉を投げ掛けて来る。僕は場違いなところへやって来た迂闊さを恥じて居ても立ってもいられず、廊下へと走って逃げ出した。しかし大勢追って来る。足の速さも僕よりも俊敏だ。そうしてやっぱり捕まったところで目が覚めた。

 ほんの数10分の睡眠ではあったけれど、己の器の小ささを思い出すには十分な長さの夢でした。


 本を読んだからと言って、僕の本質は変わらない。もしかしたら変わっているのかもしれないけれど、言葉にして表すような変化を認知出来ません。でも、その変われないということを知るのは大事なことだと思います。それを理解出来ずに変わったつもりになって生きていたら、恥を恥と知る機会を失ってしまう。知っていれば、変われないにしても、ある程度苦手な物事に対処し易くもなります。

 本を読み終えた時の満足感は、雨上がりの虹やオーロラのように、直ぐに消えてしまうような代物かもしれないが、そこで感じた事は何かの拍子に頭の中へ蘇ることもある。森作品は美しい詩的な内容だけではなく、色んなところへ興味が動き、それに伴い様々な問題提起がなされるから大いに考えさせられ記憶の奥底に残ります。しかも、答えを与えるのではなく、それぞれがどう思うか?を大事にしているのがまた良い。”作家”として先生と呼ぶのと同じくらいに、”教師”として先生と呼びたくなるのが森博嗣先生であります。






 ヴォイド・シェイパシリーズは、本当に本当の王道なので、単純にセリフやストーリーの筋道だけを拾って映像化してしまったら、正直普通の時代劇になってしまい、大事な物が全て抜け落ちてしまうのでは無いか?そんな風に思うほど、ゼンノスケの思考連鎖が面白い作品でした。

 今のところ、森作品を映像化して原作を超える、もしくは肩を並べた作品は見当たら無いですし、止めておいた方が良いとさえ思うものの、また漫画化やアニメ化の企画が進行中だそうな。



 もしもこのシリーズまでもが、何かしらの媒体で映像化されたら、こわいながらも通りゃんせと見てしまうのかな.....
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posted by lain at 16:46 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2015年04月10日

僕らもいつかは昔になるか....「ムカシ×ムカシ」森博嗣(著)講談社

 相変わらず犯人が誰であるかなんて重要では無い森作品でした。

 犯人も直ぐに分かってしまいます。

 でも、それがまた良い。

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 資産家の夫婦が殺され、”SYアート&リサーチ”のいつものメンバー(小川と真鍋)と臨時アルバイトの女の子”永田”は、その家の美術品鑑定を仰せつかり、事件についてあーでもないこーでも無いと想像を膨らませつつ作業をしているのだが、今度は男性の死体が敷地内にある井戸から見つかり、どうやらこれは連続殺人かもしれないぞ!と、定番の流れへと突入してゆくこととなります。

 良い意味で「古臭い」ところがあります。事件の設定もそうですが、森さんにしては丁寧に犯人の動機が語られているし、一般的な人間の思考で理解出来る殺意を感じました。まあ、僕が僕を一般的であると定義した場合の話ではありますが。


 誰が犯人であるかが重要で無いと思うのは、事件に首を突っ込んでいるうちに資産家一族と犯人の関係性を知ったことで、自分と向き合うことになる中年女性”小川令子”の心模様こそが本作の魅力の大部分を占めていた気がしてならないからです。

 場面に合わせて誰目線であるかが変わる本作、序盤は真鍋君の飄々とした中から出て来るウブさというか、庶民らしさに微笑ましく進むものの、物語が大事な局面に入ってからの小川令子目線では、中年である彼女の抱える不安定な感情が犯人の悲しみに重なり、直接犯人が事件について語るのではなく、第三者の感じたままで犯人の心情が浮き上がるように構成されている辺り、森博嗣さんらしさを感じました。

 僕も小川さんと同じくらいの年齢なので、彼女の浮き沈む心の状態が凄くよく分かります。若い世代を微笑ましく想う心と羨む心が共存し、いくら仕事を上手く熟せるようになっても満たされない何かがある。何がきっかけになったのか自分でも分からないくらい無性に泣きたくなる時だってざらだ。 この先の将来に期待出来そうで出来ない人生の折り返し点に辿り着いた彼女と僕の明日は何処へ繋がっているのだろう?....考え出したらキリがありません。






 湿っぽい話はとりあえず棚上げしておくとして、タダでは転ばないSYアート&リサーチ社の代表”椙田”さんの商魂たくましい姿で幕引きするところなんかまた良いですXシリーズ。あぁ、やっぱりこの人はこうでなくちゃとつくづく思わされます。同シリーズから森博嗣作品に入った人にはなんのこっちゃと感じるでしょうけど、S&Mシリーズの系譜を全て追って来てる身としては本当に嬉しい内容です。小川さん達が椙田さんのことで驚くたび、彼の本業を知ってる僕らの心はくすぐられますしね。

 今回、前作で登場した永田さんがアルバイトとしてレギュラー入りした形になって、小川さんとはまた違った魅力を振り撒いていたのもなかなか良かった。思わせぶりな態度で真鍋君を振り回しているのも楽しかったです。期間限定のアルバイトとして登場したわけですが、次も何かしらの役割を担うキャラとして残って欲しいな。




 やっぱりXシリーズは良い。保呂草さんが大好きであるのも大きいですが、小川さんのちょっと抜けたところのある可愛らしさも好きだし、真鍋くんの空気を読まず場を凍らせる一言一言もたまらない。

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 今回もご馳走様でした森先生。


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posted by lain at 07:03 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする