2016年02月07日

呑気な人類の背を押す神の手「魔法の色を知っているか?」森博嗣(著)/講談社/感想

※ネタバレ感想文





 出不精のくせに、「オデッセイ」のようなSF映画が上映されれば、自分に鞭を打ってでも観に行くくらいSFが大好きな僕ですが、科学は昔から苦手であります。大まかな概要は理解出来ても、何がどうしてそうなるのか?という詳細や、一つ一つの分野の繋がりを理解する事がほとんど出来ない。というかする気にならない。


 だがそんな僕でも、今回の森さんの人間は不完全故に子を成すことが出来たとする斬新な設定には驚かされた。純粋な細胞を移植することが出来るようになって、不具合が修正されたから子供を作ることが出来なくなったと言うのだから...



 元々生物は種の保存を目的とした繁殖を繰り返し、地球と言う環境下に順応する為変化し続けて来た。人間も世代を重ねる度、どんどん寿命を延ばし、世界的な平均値は1千年前と比べて約3倍にも及ぶ。身体的変化もあるだろうけれど、おそらくは安定した社会構築と医療の進歩が大きな理由に違い無い。実際、治安の安定しない土地や、医療の整わない後進国ではガクンと寿命が落ち込んでいる。話が逸れたが、要するに言いたいのは、生まれて死ぬのが一番自然な生命の在り方だと、僕を含めた大勢が信じて来たものを全てひっくり返す学説であったということ。


 いつか死ぬのだから何かを成したい。子を残したい。そう感じるからこそ、僕らは必死に足掻いていると言うのに、100年も200年も生きられるようになったとしたら、子を成すかどうか以前に、生き続けること自体に意味を見いだせるのだろうか?死を受け入れるには長い時間が必要であるし、出来れば永遠に生きていたいなんて考える人も多いでしょうが、生と死こそ生物の行動原理を支える最大の友人なのでは無いかと思えてなりません。


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 とは言いつつも何処か腑に落ちてしまうこの突飛な設定。僕はなんとなく、森博嗣さんなりの少子化に対する答えなのでは無いかと思っています。結婚すること。子供を作ること。それらはすべて各々の考え方があるから尊重すべきではあるけれど、家庭を持ったり子供が出来るというのは、それはそれで得難い体験なのですよ、と言う人生の先輩からの有難い言葉に感じてしまうのだ。


 身体だけではなく、いつまでも普遍と思われた愛の形までどんどん変貌しているのを実感する今、この先100年、200年と経った時、この世界がどうなっているかなんて、分かったものじゃないなとしみじみ思います。

 一つの独立したSFとしても面白いし、S&Mシリーズと百年シリーズを繋ぐ(真賀田四季以外定かでは無い)物語として読むにも最高の同シリーズ。真賀田四季の目的の謎や、軽口の主人公と無口な護衛の静かなやり取りも森博嗣さんらしさがあって本当にお気に入りの一つになりそうだ。



 それはそうと、本の間に挟まっていたチラシにアニメ版「すべてがFになる」のBOXを購入したら、アニメを担当した神戸守監督と森博嗣さんのメールのやり取りが存分に楽しめるらしい話にも興味が湧いてしまった。


 BOX、買おうかな?......













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 『手にした途端腐りだす美の正体「彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?」森博嗣(著)/講談社/感想
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2015年11月03日

手にした途端腐りだす美の正体「彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?」森博嗣(著)/講談社/感想


森博嗣さん初の文庫小説書き下ろしの新シリーズ。読み終えた今となっては、本シリーズの一端に触れただけに過ぎないのかもしれないと感じるものの、序曲としては非常に読み応えのある内容でした。



森博嗣さんの新シリーズ読み終わった。もしも人類が科学により永遠に近い命を手にしたら?そして自分達と同等、もしくはそれ以上の生命を生み出してしまったら?そんなSFなストーリー単独でも十分充足感があるだろうけど、マガタ、ミチル、ウォーカロン、を知ってる人には更に満足出来る内容なことだろう。面白かった。



”ウォーカロン。「単独歩行者」と呼ばれる、人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。”

by Bookデータベース





あらゆる臓器が代替え可能となり、100年単位で人類が長生き出来るようになった時代。エネルギー問題も戦争も終息してしまったというのだから、ある意味において死んだ未来を舞台にしていると言って過言ではない。しかも機械では無く人口細胞から人間そっくりの生命体を作り出すことに成功し、長寿化により出生率が極度に低下した人類に代わり”彼ら”が増え続けている世界だと言うから尚のこと皮肉な話である。


『いつまでも若々しく長生き出来たらどれだけ良いだろう』そう僕らが考えてしまうのは今現在"そう"では無いからだ。その望みがもしも叶ってしまったら、今度は死を望みだすのかもしれない。いつまでも終わらない世界の不協和音も、鳴り響いているうちは耳障りで辛いばかりだが、鳴り止んでしまったら懐かしく振り返る日が来るのでは?手に入らない物だから価値がある。それこそ世界の真理なのではなかろうか?....


本作に描かれている未来の姿は、人々が一度は夢に見た世界のはずであるのに、まったくもって虚しい世界であります。長寿になった人類は生きる意味を見失い、望み通りに発展しても自らの劣等感を拭えず、己が生み出した生命体の可能性を前にして、人間とは何か?と問わずに居られないのですから。森先生がシミュレートしたこの未来は、個人主義が跋扈し、少子高齢化が続く昨今の流れも大いに反映されているのでしょうね。




自分の命が狙われているせいもあるが、純粋に学者としてウォーカロンと人間の在り方に興味がある主人公の思考の巡らせ方を見ていると、自分という存在が酷く希薄に感じられ、森作品読後の恒例行事になりつつある精神状態になっていました。まだ僕はこの物語の人々と同じ立ち位置に到達していないにも関わらずです。これは自分という脆弱な存在を曖昧にするのが上手い森先生の描いた近未来に、どれだけリアリティがあるかという証明でもあるでしょう。一枚岩では行かない人類とウォーカロンの生存争いが、この先どうなって行くのか実に気になります。


何故早川書房がオファーを出さないのか理解に苦しむほどSF色が強く、興味深いテーマなので独立したシリーズとして楽しめますし、他作品(S&Mシリーズ・百年シリーズ 等)との繋がりもはっきりと出て来るので、一連の森博嗣ワールドの一つとしても見逃す手は無いだろう。





改めて森作品の醸し出すオーラが何を求めた結果なのかぼんやり考えると、森博嗣さんは何処か無機質さが残っている者への愛着があるというか、人間らしい無駄をしない純粋な存在の美しさに憧れているというか、まるで神に救済されたがっているのでは無いか?とさえ思えて来ます。そして森博嗣作品を自然と求めてしまう僕もまた、確固たる指標となりえる美しい神を求めているということなのでしょう。



本当に危ういものです人間は。


憧れと恐怖は隣り合わせ。


何時何処で何に傾倒するか分かったもんじゃありませんね♡ζ*'')ζ






生と死、人間と非人間、その境界線上を──『彼女は一人で歩くのか?』 - 基本読書

【感想と考察】森博嗣『彼女は一人で歩くのか? Does She Walk ...



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posted by lain at 07:06 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2015年05月28日

ハードボイルドというより、ソフトボイルドかもかも「暗闇・キッス・それだけで」森博嗣(著)/集英社

 僕は本を読む人間としては非常に偏っていて、更にその量も少ない。

 だから「これがハードボイルド!」と、いう定義は僕の中で一つしかありません。

 そう、亡き”打海文三”ティストです。



 具体的に打海文三さんの文の何処がハードボイルドなのか?と聞かれたら、直ぐには上手く言えないけれど、少なくとも余計なことはにしない、女子供相手でも時に冷淡になれる、格好つけたがる自分の愚かさを痛いほど理解してるような、救い難い、でも放っておけない魅力が満載な男達が主人公であるところは間違いなくハードボイルドだった思う。

 それに対して森博嗣さんだが、今回ハードボイルド作品「ゾラ・一撃・さようなら」の続編として刊行した「暗闇・キッス・それだけで」は、ハードボイルドと歌いながらもいつもの森博嗣節に収まったような気がする。




”大学在籍中にコンピュータのインタプリタを作製、休学してソフトウェア会社を創 業、1980年代にコンピュータ業界で不動の地位を築いた、IT史上の伝説的存在ウィ リアム・ベック。会長職を譲り、第一線から退いたウィリアムは現在、財団による 慈善事業に専念している。探偵兼ライターの頸城悦夫は、葉山書房の編集者兼女優 の水谷優衣から、ウィリアムの自伝を書く仕事を依頼され、日本の避暑地にある彼 の豪華な別荘に一週間、滞在することになった。そこにはウィリアムだけでなく、 その家族や知人、従業員などが滞在していた。
ところが、頸城が別荘に着いた後、思いもかけない事件が発生する。警察による 捜査が始まるが、なかなか手がかりをつかむことができない。そんな中、さらなる 悲劇が……。取材のために訪れた頸城は、ウィリアムの自伝執筆の傍ら、この不可 思議な殺人事件にも関わることになる。果たして、事件は解決できるのか。
by Amazon内容紹介



 何処か軽薄でマイペース、でもちょっぴり内に闇を抱えた主人公”頸城悦夫”より、スカイ・クロラの”カンナミ・ユーヒチ”の方がハードボイルドな奴に思えて来る。

 基本的に視野が狭いのがハードボイルド作品の主人公な気がします。コレしか生き方が無いと、別の選択肢に気づか無いのか気付きたく無いのか、一つだけ譲れ無い物の為に命を懸けようとするような男のことです。悦夫は残念ながら、かなり柔軟な男。これは森博嗣さん自身がそういう方だからと言うのが大きいのかもしれない。

 ただ、これはこれでハードボイルドなのかもしれないと思わなくもない。主人公の性格だけではなく、ストーリーの全体像を見るとぼんやりとそう思えて来ます。僕が知らないだけで、色んなハードボイルドが世の中にはあるでしょうしね。あまり「これだ」と決めてかかって本書を手に取らなければ、十分に森博嗣ワールドを楽しめる内容だと思います。




 兎に角今回の続編は間が開き過ぎたのが痛かった気がします。

 前作が7年前じゃ、ストーリーどころか登場人物でさえうろ覚えです。

 次はもっと早く出してくれるそうなので期待していましょう( =3=)v


暗闇キッス(*//ω//)




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posted by lain at 06:31 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする