まあやっぱり"あっち"のを知ってると難しいかな.....「七都市物語 1巻」フクダイクミ(漫画)/田中芳樹(原作)/感想

田中芳樹さんがひと月ほど前に65歳になったそうだ。たまに写真や映像でその姿を見かける限り、毛髪以外はまだ大丈夫そうかな?と思うものの、未完の作品を完結させようと動いている昨今の氏の動向からは、死期を悟った生き物のケジメのような物を感じて少々落ち着かない。


そんな古参ファンの気持ちを知ってかしらでか、人気の田中芳樹作品が再度漫画やアニメになるのが相次いでいる。火付け役は「アルスラーン戦記」の新たなコミカライズに挑戦した荒川弘さんなのかもしれない。若い世代が飲み込みやすい味付けでアルスラーン戦記の世界を作り変え、アニメもその勢いそのままに良い出来だった。荒川版があったからこそ、田中芳樹氏も完結へのモチベーションを保てたのだろう。



そんな田中芳樹氏の代表作と言えば銀河英雄伝説だが、そのお陰で各出版社から同じようなSFを書いてくれと言われ苦悩した、みたいな話をどこかで見聞きした記憶がある。うん十年ぶりの新刊で無事完結した「タイタニア」、シェアードワールズと題して田中芳樹氏以外の作家が書いた作品が出されるほど地味にファンがいる「灼熱の竜騎兵」、そしてたった1冊のシリーズでありながらOVAにまでなった「七都市物語」、これらは全て銀英伝あっての産物だった。


勿論それぞれの作品ごとに魅力はあるわけで、決して単体としては駄目だったとは思わない。それどころかどれも僕は好きだった。特に七都市物語は本当に好きで、通常ありえないレベルの天変地異で地上の人類社会が滅亡し、月で生き延びていた者たちが地上に帰って新たに七つの国家を築くものの、何一つ根本が変わらない人類は戦争をやめられないという内容がなんとも言えず、しかも月に残っていた人類もその後ウィルスで滅亡し、地上500M以上を飛行する物体をレーザーで撃ち落とすシステムだけが生き続け、地球の人々を監視し続けているという設定が面白かった。


七都市物語〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) -
七都市物語〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA) -





登場人物もなかなかに曲者揃いで、今回のコミカライズされた物に目を通し再度アクの強いキャラが多いなと思った。ヤン・ウェンリー的な価値観を持ったリュウ・ウェイはヤンのように脇が甘くないし、戦う以外に脳が無さそうな軍人たち(アルマリック・アスヴァール、ケネス・ギルフォードなど)も公明正大さとは無縁な一面があったりするし、そんな彼らを駒にしようとする連中の悪辣さや臆病さが嫌らしかったりもする。


コミカライズを担当したフクダ イクミ氏の絵は個人的にはあまり好みではないが、そんな脂っこいキャラを分かり易く脚色しているため漫画として楽しめた。原作の名言もしっかり盛り込まれているから原作ファンもそこそこニヤリと出来る。


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田中芳樹と言えば”皮肉”。そんな合言葉を思い出した。





しかし、元々の絵が七都市物語は素晴らしく、原作のイラストは小林智美さんで、田中芳樹読本に収録された外伝漫画は、まさかの星野之宣さんだ。そんなレベルの絵に慣れてしまった読者が、少々の出来のコミカライズを鵜呑みに出来るはずもない…..


悪くはないのだけど、悪くは…..


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小林智美さん


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星野之宣さん


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OVA版






一つの原作から複数のアプローチ作品が生まれるのは、人気作の宿命かもしれない。それぞれの世代が自分に合った物を咀嚼するのが一番なんだろう。


俺は星野之宣さんの絵で、もっともっと七都市物語が読みたかったかな…….ボソ


IMG_6606.jpgお気に入りの1頁








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変態出来ない変態が羨む青い変態「ぼくらのへんたい 10完」ふみふみこ/COMICリュウ/徳間書店/感想

父親は居るものの、日頃留守がちで母や姉二人と過ごすことが多かった僕は幼い頃普通に気弱で、よく「逆(姉と性別が)だったら良かったのに」と周囲から言われたものだった。

徐々に体が大きくなり、男友達と遊ぶようになれば流石にやんちゃな男の子になっていったものの、少し年の離れた長女の膨らんで来た胸を見ながら、いつか僕も大きくなって来るんじゃないかと本気で思うくらい、性別への違和感に苦しんだ時期もあって、こんな物さえ無ければ良いのにと股間を叩いたり切ってはどうか?と考えたこともあった。

人間と暮らすうちに自分を人間だと勘違いしてしまう犬と同じような感覚だったのかもしれない。性的な物への目覚めに対する戸惑いも相俟って、男であることに激しい自己嫌悪を抱いてしまっただけなのだと今なら思える。間違ってもハサミで切らなくて良かった........


「ぼくらのへんたい」は三人三様の切実さで女装せざる得ない少年達の泥沼青春話だったわけだけど、7巻以降の笑顔な表紙そのままに笑い合える関係に最終的には落ち着いて本当に良かった。作者が最終巻のあとがきで、どうしても好きになれない3人の主人公に「こいつら全員不幸になれ・・・!」と呪いながら描いていたという言葉通り、前向きになれそうでなれない彼らを見守るのは辛いことが多かったから、それぞれに救いがある
収束には感慨深いものすら感じてしまった。男でも女でもいい、僕らはみんな"へんたい"で良いんだと笑う彼ら全員を祝福したくて仕方ない......







まだ、女性に対する憧れはある。

それは性交渉の相手としてもそうだし、自分が女になって可愛らしい服を着たり、旅行をしたり、女性ならではの視点でこの世界を楽しんでみたいという気持ちも大きい。

男(僕)は世界をつまらない物にしか出来ない。短絡的な性や暴力を心の何処かで求め、諦めと道義の利口さを盾に一歩を踏み出さない。少々思慮が足りないくらいの方が、絶対人生を楽しめるに違いないのに。

あ、けして女性が考え足らずだと言ってるわけでは無いけどね(言ってるなこれ)










関連過去記事

変わりたい気持ちに性別も優劣も必要無い「ぼくらのへんたい 1巻」ふみふみこ/COMICリュウ/徳間書店/感想

人は何かしらの問題を抱えた時、似たような境遇にある誰かを潜在的に求めたりするものですが、今のようにネットが在って当たり前な時代は、案外あっさり赤の他人と悩みを共有出来てしまうから、逆に有り難みを実感していない人も多いのでは無いでしょうか?

それこそ本作の舞台が30年前の日本であれば、女装する理由を抱えた10代が同志を見つけるなんて、夜のお店が立ち並ぶ繁華街へ足を踏み入れるしか無かったのではないか?とさえ思えて来ますし、まだまだ肩身が狭いとはいえ、現代日本において性別に関するストレスを抱えた人達は幸運なのかもしれません。



この作品は、三人の女装少年達がオフ会を開くところから始まります。

溺愛していた娘が死んだ事を受け入れられない母親のために、家へ帰ると姉そっくりに女装する少年

幼い頃のトラウマの影響で好きな男の先輩が望む通りに女装し、自分を偽り傷つけ続ける少年

普段の姿は男装で、これは女装では無いと感じている少年

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三者三様の理由がそこにはあって、同じように見えて同じではない彼等の想いが交錯し、傷つけ慰め合い、かさぶたが硬くなるみたいに少しずつ大人になって行くほろ苦さがなんとも味わい深い。彼らを取り巻く周囲の人達の心模様についても触れていたのが大きく、少々女装した時の少年感に物足りなさがある絵ではあっても、切っても切れない性的な表現も含め避けては通れない部分に触れているからこその生々しさがありました。

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三人の中で中心的な存在の青木 裕太。女装している時の”まりか”と変わらず普段から可愛らしい
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と、詰襟を評し
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初めてのオフ会で気持ち悪いと言われたことに気落ちする純粋な子



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まりかを傷つけた張本人の木島 亮介
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しかし、母のために”ユイ”へと変貌する彼はガチで病んでいる....


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三人共に見ていて辛い瞬間が多いが、田村 修くんが女装して”パロウ”として生きている瞬間が一等苦しかった......



僕は特に、幼少期のトラウマから糞ったれな男供に身を委ね、自らを貶め続ける少年が自分にダブって見えて仕方なかったです。別に同じような境遇にあったわけでは無いのですが、このままじゃ自分が駄目になるだけだと分かっているのに依存し続けてしまう彼の姿には身につまされるものがありました。変わりたい。変わらなきゃいけない。そんな気持ちが僕の中で燻り続けているのでしょうね....

女装云々に限らず、変わりたい人の気持ちを動かす良い漫画です。



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