2016年08月11日

探し物が見つけられそうな風景「はてなデパート」谷 和野/小学館/感想

この世界では、現実でも虚構でも何処かしらでドラマが起きている。

人が産まれたり

死んだり

いつも以上の力を発揮して金メダルを手にしたり

思いがけない愛の告白をされたり

人間が居るからドラマになるのか?状況(シチュエーション)が在るからドラマになるのか?きっとその両方が必要で、きっとも切れないどころか、切ってはいけない関係なんだろう。

本作もそういった、人があって状況が在り、状況があって人が居る物語だった。

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とあるデパートで繰り広げられる、少し不思議な優しい世界のオムニバスで、親からはぐれウトウトしてしまい、気づけばデパートが閉店して閉じ込められてしまった少女が夜のデパートの不思議な力で大人の姿になる話や、マネキンが自分を着飾ってくれるデザイナーの男性と淡いひとときを過ごす話、そしてそのデパートの支配人にまつわる物語まで、ちょっぴり切なくほんのり温かい5編(全6話)の構成。どれも懐かしの海外ドラマや映画を思い出させる大好きなエピソードばかりで素直に愉しめた。"技のデパート"という異名を持つ力士がいたが、まさにデパートとは色とりどりの商品があり、それを求めて様々な人が集まる多彩な場所で、ドラマが生まれるのに申し分ない。全体を繋ぐ存在として、何処にでも現れる支配人を登場させているのも上手だった。

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締め括りも実に綺麗で「なにか欲しい人があなたのデパートに今日も来ますよ!」という最後のページのセリフには感慨深い物を感じてしまった。なにか面白い漫画は無いか?素敵な世界が待っていないか?そんな風に思っている人達が、自分の漫画と出逢い、少しでも読んで良かったと思って貰えたなら本望だ。という谷 和野さんの気持ちが篭っていたからだろう。

最初に、何処かしらでドラマが起きていると書いたけれど、自分の人生がドラマチックに展開することなど、まずありえない。せいぜい死ぬまでに片手で指折り数えるくらいしか、ドラマを実感する瞬間は訪れないはず。だからこそ僕らは虚構の物語を求め、造りたがる。普通に生きているだけで満足出来ないなんて、つくづく人間は難儀な生き物だ。





環境がそうさせるのか?

僕らの血が邪魔するのか?

そんな無意味な問いを繰り返し、僕らは勝手に喜怒哀楽を積み重ねて生きてゆく。


もう暫くは、きっと...
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posted by lain at 07:23 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 漫画 少女向け | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2016年08月06日

僕の瞳は無い物しか映らない鏡「少年は荒野をめざす」吉野朔実/集英社/感想

幼い頃の僕の世界は、バスで往復する幼稚園までの道程と、自宅から半径100mだった。

近所に店もなく、唯一のお隣さんも田んぼ越し。もう少し離れたところに祖母の家があることを除けば、実に静かな場所だ。

そうなってくると、遊び相手も必然的に身内へ求めるようになるもので、二人いる姉にべったり張り付き遊びに入れて入れてといつも必死。やっと仲間に入れて貰えても、男である僕の感性が姉達には気に入らなかったのか、最後にはのけ者にされ一人遊びばかり上手くなっていった。ぬいぐるみも人形も大好きだったのに、何がいけなかったのだろう?....

小学校に上がり、性的な衝動を知ってからも、姉達と自分が何故違うのか疑問だった。肥満までいかなくとも、若干ぽっちゃりした体つきで胸もあったし、色白で声も高めだったから、いつか自分は姉達のようになって行くんだ、くらいに思っていた時期もあった。別に男の子が好きだったわけでは無いけれど、運動も苦手でゲーム機も無かったから男子の遊びにも上手く入っていけず、無い物ねだりを拗らせ女性への憧れも加速度的に捻れていったということだと思う。今でもなれるものなら我が儘で短絡的で欲求に素直(褒め言葉)な女性になりたい。こういうのもトラウマというのだろうか?




こんな取り留めも無いことを書いてしまうのも、うっかり、吉野朔実さんの「少年は荒野をめざす」を読んでしまったからだ。中3年の少女”狩野都”が、自分にそっくりな男子高校生”黄味島陸”と出会い、幼い頃病弱だった兄の分まで男の子らしく過ごしていた昔の自分の成長した姿を彼に重ねてしまい、男女のそれではない憧れや嫉妬が綯い交ぜの感情を募らせてゆくお話なのだけど、狩野と元々仲の良かった二人の少年との距離感の変化や、他人に理解されない博愛っぷりを見せる黄味島の危うい魅力も相俟って、なんとも言えない空間に放り込まれた気分になる。

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幼い頃の経験を書き起こした作品が賞を獲ってしまうくらいの才能を持つ狩野の頭の中にいるみたいに、詩的で間合いがとても良い漫画で、少し前にアニメが放送していた某エロゲー(少女たちは荒野を(以下略))とはえらい違いだった。全6巻まであるそうだが、1巻で完結でも文句無しの仕上がりだと思った。集英社さんは、少年誌だとバトルばかりで大味だが、少女誌になると実にじっくりと感情と向き合った作品が多くて素敵だ。
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無料だから読んだ。ただそれだけで終わらせたくなくなる本をありがとうございます吉野朔実先生。

もしも、昔読んでいたのに忘れただけだったらごめんなさいo┐ペコリ
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posted by lain at 07:20 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 漫画 少女向け | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2016年07月09日

夏はちょいとほろ苦いくらいで丁度良い「杏奈と祭り囃子(はいからさんが通る8巻収録短編)」大和和紀/講談社/感想

 日がな一日働いて、いつものように家に帰り夕飯にしていると、何処からか花火の音が聴こえてきた。お祭りでもやっていたのだろうか?

 僕はもうかれこれ20年以上お祭りになど行っていない。人混みは苦手だし、そもそも恋人や友人がほとんどいないから行く理由も生まれない。家族と仲良く出掛けるなんてのも柄じゃないから御免だ。

 とはいえ、僕も人並みに程度には、宵闇に立ち並ぶ色とりどりの屋台や、何処からともなく漂って来る美味しそうな匂いにわくわくしたことはある。しかし如何せん、原価がどーの、品質がどーのと子供の前で裏側のことを口にせずにいられない親がいつも一緒だったから、あれこれ言われ続けているうちに冷めてしまった。そもそも、そんなことを言うくらいなら子供をお祭りになど連れて行かなければ良かったじゃないかと今にして思う。子供に幻想は与えないが、自分が好きな花や植木を置いてあるコーナーには長居する自分勝手な母であった。



 この時期になると本作を思い出すと言っていたフォロワーさんの影響で読んだ「杏奈と祭り囃子」に出て来るドラさんのような人が親だったなら、きっと今でもお祭りが大好きで大好きでたまらない大人になっていたんじゃないだろうか?

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 その昔姉が読んでいたのを拝借して「はいからさんが通る」は読んだことがあったから、8巻に収録されたこの短編もおそらく読んでいたはずなのに、まるで記憶に無かった。

 戦争から戻って、ショックのあまり心が幼帰りしてしまったドラさん。日雇い仕事で食い繋ぎ、焦げたコロッケで我慢する彼は、周囲に何を言われていても命があるだけで幸せそうなボンクラだ。ただ彼にも1つだけ取り柄がある。祭り太鼓が絶品なのだ。日頃彼を馬鹿にする連中も祭りの夜だけは彼の才能を認めざるえない。

 そんな彼が、女の子を拾った。文字通り拾ったのである。普段から野良猫・犬と仲良くコロッケを分け合っているドラさんだから、ごく普通に独りで泣き噦る女の子を放っておけなかったのだろう。得意の祭囃子で慰めると、名前も家も知らないというその子と暮らし始める....

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仕事では失敗だらけのドラさんだが...

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太鼓だけは一品

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泣き噦る少女にぼーぜんのドラさん

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見ているこちらまで幸せになる二人である...




 はっきり言って今の時代なら即逮捕の話だ。人情が先行する時代なればこそ成立するドラマであります。幼い女の子を少々問題を抱えた独身男の元に置いておけないだろうと周囲が騒ぎ始めても、彼がいかに少女を大事に想い、少女どれだけ彼を慕っているかを証明すれば、誰もが協力的になってしまうのだから。

 最後は、年頃を迎えた女の子の幸せを想うあまり、自分から身を引き哀しい幕引きを迎えるドラさんだが、彼のおかげで幸せを手にした女の子が、新たな家族を連れてお祭りへ足を運び、もう聴くことの出来ない彼の祭囃子のことを想い続けているのだから、彼は十分幸せ者だ。



 やっぱり祭りなんて行かなくとも良いけれど、誰か一人でも僕との別れを惜しんでくれる人は欲しいなと思った。それが可愛らしい子ならば尚更嬉しいだなんて思ってしまう辺り、気持ち悪いし救い難い阿呆だなと自分で自分に呆れてしまう夏の夜は妙に蒸し暑い......









 そういや連載40周年を記念して「はいからさんが通る」の劇場版アニメが来年公開になるの楽しみだーね。



  劇場版公式HP http://haikarasan.net
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posted by lain at 07:12 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 漫画 少女向け | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする