ビル・ゲイツも人の子だと痛感した「天才の頭の中:ビルゲイツを解読する」Netflix/ドキュメンタリー/感想

iPhoneを使うようになって興味を持ち、一番安いノートブックを試しに買って以来手放せなくなったMacだが、勿論それまではWindowsばかり使って来たわけで、良い思い出も悪い思い出も山ほど掘り起こせる。あの頃に比べたら今のPCは快適過ぎて物足りなさを覚えるくらいだ。


そんなことはさておき、MacとWinと言えば長年競い(OSに関してはワンサイドゲームではあるけれど)あって来たが、今では上手く共存出来ている。これもひとえに両社の伝説であるスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの愛憎関係のなせる業であったろう。良い物をいち早く見つけブラッシュアップし、さも自分達が発明したかのように売る達人であったジョブズに対し、ビル・ゲイツは技術者として他の追随を許さない卓越した才能を持っていた。こういった現場に詳しい人ならば分かると思うが、この手の人間同士は水と油と言える。技術的なことをよく分からないまま”何故?”を並べる人間を、”最適化”が信条の技術が好きになれるわけがないのだ。ただ、ジョブズのようなやり方で物事が進んだ面もあるから、それが一概に駄目というわけではない。ゲイツ本人もそういった面を認める発言をしている。F1でいうならセナとプロストみたいな関係で、端から見ている分には本当に面白い二人であった。





そんな二人のうち一人は鬼籍に入った。病魔のせいではあるが、正直頑固を通り越した愚かさで死んだようなものだった。残された者たちが未だにジョブズの呪縛から逃れられていないのも全部彼の責任だろう。一方、ゲイツは実に充実した生活を送っている。仕事でもパートナーである妻との関係も良好だし、持ち前の頭脳を駆使して後進国のトイレ事情から世界のエネルギー問題まで多岐に渡るプロジェクトに関わっている。人間の器が本当にでかい男だ。



大自然の中を散策するビル・ゲイツの孤独な後ろ姿が印象的な本作を見る限り、その器を大きくする手助けになったのは家族の存在が大きかったらしい。天才故に気づけないことを母親や周囲が根気よく教えたからこそ今の彼があるというのだ(残念ながらジョブズには"それ"が足りなかったのかもしれない) そんな教育の賜物なのか、歳をとって絶妙に角が取れてきたゲイツの仕事は慈善事業に見える物が多いが、その実とても野心的な分野で間違い無く、趣味と実益を叶えつつ働いているのがよく分かる。彼以外に誰が好き好んで世界中の下痢の統計を調べるというのか。一度”何故”と思ったら行くところまで行き、誰かの命も救えるならいうこと無しに違いない。

序盤のインタビューに一番恐ろしいのは「脳が動かなくなること」だと彼は答えていたが、そうなる前に是非人類が抱える問題を少しでも最適化して貰いたいものである。感情に流され視野が狭くなった人には気づけない解答があることを、上手く証明して大勢に伝えることが出来る人間はほんの一握り。無論ビル・ゲイツもその一人だ。テクノロジーで全てを解決出来るわけではないが、このままの中途半端なテクノロジーを駆使した生活を続けても待っているのは破滅だけなのである。ならとことん足掻いてから滅亡しようじゃないかと考えるのも人生だろう。火を手にしてから後戻りが許されなくなった人類。大昔から謳われる滅びの道を辿るのか、それとも......



今のビル・ゲイツのイメージを操作したい作為を感じる為、純然たるドキュメンタリーとは言い難いが、それほどに世界へ訴えたい何かを彼は持っているのだろう。そもそも僕のような手取り十数万の男が人生を何周しても稼げない金を貧しい国のために使うのは悪い話ではない。なかなか興味深いドキュメンタリーである。