作るにはお金以上に必要なものがある「ラ・ラ・ランド」デミアン・チャゼル(監督)/感想

※ネタバレる






なんでラ・ラ・ランドなのか全く分からなかったが、久々にアメリカはでかい国だと思った。




撮影場のカフェで働く冴えない役者の女と、昔ながらのジャズを後生大事にしている偏屈男が、最悪の出逢いをきっかけに男女の関係となるも、夢と現実に2人の甘い生活は翻弄され、最終的には別々の道を歩むことになるまでを描いた、ただそれだけのことなのに、なんだかとても濃密な時間を共有した気分になれる良い映画だった。少々女性に都合の良い話ではあるように思うものの、女性より男の方がロマンチストであることを如実に表現しており、どちらかを一方的に断罪するように扱っていない点も好印象。

ただ、冴えない役者の女性がアメリカの派手な空間(プールサイドでのパーティなど)に疎外感を感じている辺りには、凄くアレルギー反応が出てしまった。結局自分に自信が無いからそういった場を楽しめていないだけなのであって、本当はパーティを楽しみたくて仕方ないという気持ちが内面から溢れかえっていたのが嫌で嫌で仕方なかったのだ。

彼女は役者として成功し、自分が憧れた存在になるわけだが、まるでそんなものを素敵だとは感じなかった。むしろ愛する者のために始めた仕事が楽しくなってしまって大切なことを忘れかけた男が、再び夢の場所に立ち返る姿こそ輝いて見えた。女には女の、男には男の答えがあるものだとしみじみ考えさせられた。



何処にでもあるプロットが、ここまで光り輝いた理由は、ミュージカル要素と、淀みのない長回しの数々のお陰だろう。実際にハイウェイを封鎖し、CGで増やすなんてことはせず本物の車と人を山ほど配置して息の合ったパフォーマンスを披露する冒頭だけでも圧巻なのに、その後も様々な長回しで飽きる暇を観客に与えない演出の数々には痺れっぱなしだった。主演の2人も相当な練習時間を経て撮影に挑み、何度となくNGを繰り返したに違いない。ジャズ好きのピアニスト男を演じるライアン・ゴズリングの演奏シーンもかなりの迫力で、元からミュージシャンである彼であってもジャズを本気でやるのは大変だったはずなのに、素人目には完璧なジャズピアニストにしか見えなかった。

海外の映画で、こういった役柄を見かけていつも思うのは、今の日本にこんな多才な役者は居ないなということ。どれだけ練習を重ねた役者でも”はいよくできました”という子供を親が褒める程度の感慨しか湧いたことがない。日本映画のほとんどは予算がないから(ない割に人気のアイドルを起用し、無駄にCGを使う金はある)製作期間も短く設定し、役者が本気の役作りを目指す暇すら与えない場合が多過ぎる。話題性ばかりを追い求め、中身はすかすかという映画を作り、自らの手で自分の首を絞めている邦画業界には草も生えない。

是枝監督の「奇跡」で、母方のおじいちゃんが和菓子を作る場面ひとつとっても分かるように、練習をしっかり重ねた動きは見ていて気持ちが良いものだ。ラ・ラ・ランドの小気味の良さは、そうした地道なものの積み重ねが生み出したものだったと思う。日本映画はお金も時間も人も確かに思い通りにならないかもしれない。だからと言って作り込みを諦めるのは違うのではなかろうか?





もういい加減、素晴らしい日本人監督が海外の映画賞で成功しないと知名度が上がらないような環境は終わって欲しい。儲かるのが確定しているような駄作を放映するより、支配人が個人的に好きな映画をプッシュする映画館が地方にも欲しい。そうすれば小粒でもラ・ラ・ランドに負けないくらいの作品が日の目を見る機会が増えるはずだ。「カメラを止めるな!」だって、情熱に溢れた映画館と映画好きの後押しがあったお陰で、地方でも観れた作品なのだから。