オススメなんて読んでやらねーぞ!という人にオススメです「零號琴」飛浩隆(著)/早川書房/感想

先週だったろうか?上の姪っ子に「十二国記」を貸してみた。

これまでアニメや漫画は散々観せて来た(半ば強引に)が、活字ばかりの本は初めてである。

受け取ってくれるかどうかも不安ではあったが、すんなり受け取り普通に楽しめているようで安心した。

大きなお友達にも御馳走でしかない異世界ファンタジーで、客観的に物事を考える大事さを教えてくれる小野不由美さんの本は、思春期の子供に欠かせないバイブルなのではなかろうか?実体験(初めて十二国記を読んだのは高校の時)も含め心からそう思う。




熱心な読書好きの中には、他人のオススメする本は読まない人が結構いる。私は人に教えて貰った作品まで消化する気力がないから、他人のオススメを”読まない”ではなく”読めない”部類の人間だが、そういう人の気持ちも分からないでもない。なんと言うか、自分で見つける歓びというのも読書の楽しみの一つだったりするからだ。

とはいえ、雑誌に掲載されている作品だって、よくよく考えれば後に発売となる単行本の宣伝の意味合いが強く、店頭に置かれたポップ広告に目が止まり選ぶのだって完全に誰かのオススメにすぎない。それらをふまえて、完全に自分の力だけで”この本”に出逢えたというのがあっただろうか?と今更ながらに考えてみたが、自分は正直そう言い切れなかった。それどころか能動的な受動というデタラメが成立するときだけ、人は自分で選んだと認識のではないかとすら思ってしまった。


要するに自分で選んでいるようで、その実選ばされているのが人生なのだから(こんな辺鄙なブログに辿り着いたこと自体が、何者かに選ばされている証拠みたいな気がする)黙って”この本”をオススメされて帰ってくれたら良いなという話。







物凄く簡単に言うと、我々の宇宙と似て非なる宇宙の何処かの星で起きた騒動に、主人公たちが巻き込まれるという未来SFで、何が面白いかと言うとオタク文化がこれでもかと”ごった煮”になっているところ。SFとジャンル分けしても差し支えないものであれば、小説や実写特撮、女児アニメに至るまで作品を彩るピースの一つとして機能していて、骨太なSFをそこまで読めていない私ですら”これはあれだ”と顔がニヤけてしまう始末だった。

楽器の中で見つかった赤子である主人公の一人が、我々が想像出来る範囲を超えた馬鹿でかい楽器を扱う技芸士であるという設定も面白く、舞台となる星全体で音を打ち鳴らすまでの過程とその先にある物にも非常に説得力がある。「もの」「かたち」「ちから」の三要素に拘りがある飛浩隆さんらしい、我々の想像力を試すさじ加減で構築された世界観はなんとも小気味良く、レールを敷いているのは間違い無く作者であるのに、読み手も一緒になって作品を作っているような感覚すら覚えるのが素晴らしい。

装丁やタイトル、そして本の厚みだけで躊躇う人も多いやもしれないが、登場人物たちの会話は非常にラノベ調で読み易く(コアな飛浩隆ファンの中には賛否はあるだろう)、コミカルで個性豊かだからキャラ読み勢にもオススメでしかない。飛浩隆入門と言っても差し支えないくらいに、作者が読者に歩み寄っているというか、初めて売ろうという欲を見せているようにも感じる。売ろうとしているなどと言ってしまうと、感じが悪いかもしれないが、長年SF界隈だけで伝説となっていた男が幅広い層に知って貰えるなら嬉しい以外の言葉はない。飛浩隆作品は文庫落ちなどしたことがない(ないよね?)けれど、いっそ表紙をアニオタが喜びそうなものにした文庫版を出してしまえば、更にファン層が厚くなりそうではある。








読み終えたあと、冒頭のアヴァンタイトルを読み直すことをオススメする。本当なら全て再読した方が面白さが倍増しそうではあるけれど、実質600ページあるものを再読しろなどと、自分にも他人にも言えやしない。

ただ一度は読んでみた方が良い作品だとは言える。新しい素材は一切無いかもしれないが、それを重々承知したうえでも傑作だと思えたから。

物を創る人ならではの一品です。





飛浩隆Twitter http://twitter.com/Anna_Kaski