不平等な世界で唯一平等な物すら失われそうな未来「オルタード・カーボン」Netflix/海外ドラマ/SF/感想

自慢にもならないことだけど、僕はかなり庶民だ。

勤務20年で年収はざっと300万。寝て食べて働いて限られた自由時間はアニメや海外ドラマやゲームに費やすだけの退屈な男である。外食なんてまずしないし、服も滅多に買わない。旅行なんて何十年も行っておらず、流行りの投資関係で財テクする趣味もない。こんな面白味に欠ける人間には当然恋人もできない。

値段据え置きで量が減った好物や、足を引っ張り合う政治家を見て溜息をつき、呑気に夢や愛を語る歌よりもamazarashiを聴く僕は、まさにエリート庶民としか言いようが無いだろう(と自分では思っている)



そんなエリート庶民としては、当たり前のように裕福を貪る連中が嫌いだ。自らの価値を過大に評価し、共存共栄であるはずの下々を見下したり無視したり、理解しようとしてもそのやり方を間違えていたり、ルールを都合よく書き換え、自分のペースで暮らしたいだけの人々を法の奴隷にする連中ばかりだから好きになれるわけもない。なるべく目障りじゃ無い所で私腹を肥やして欲しいものだ。


この世で唯一の救いは、死だけは平等に訪れるということだろう。お金あれば充実した医療サービスを受けられるため、お金持ちの方が寿命が伸びる可能性はあるものの、死なない人は絶対にいない。この唯一無二の鉄則があるからこそ、使い捨てられる庶民も甘んじて境遇を受け入れ”やる気勢”の仕打ちに耐えられている側面もあるのではなかろうか?

だから、もしもこのドラマのような未来が訪れてしまったら、とてもじゃないがまともに生きる自信が僕にはない....






舞台は今から数百年経った未来。人類はいくつかの植民星を持ち、精神のデジタル化や、それを別の身体(スリーヴ)に移すことが出来る技術を有している。物語の主人公はタケシ・コヴァッチという男で、反体制側の兵士として粛正され、転生することも許されず精神データが保存されている”スタック”も刑務所に保存されていたのだが、250年という年月を経て知らない誰かの身体で目覚めさせられ、彼の持つ”エンヴォイ”の力で殺人事件を解決して欲しいと、毛嫌いして来た体制側の富裕層(メト)の男に依頼される。

ざっと概要を書いただけでも分かるようにスリーヴ・スタック・エンヴォイ・メトと、用語が飛び交うSF作品。世界観は非常にサイバーパンクで、雲を貫くような高層建築や空中に浮かぶ遊郭があるかと思えば、貧乏人たちは橋の上にコンテナを積んでコミュニティを形成。薄汚れた路地ではホログラフィックの広告が客引きをして、外観がボロボロのホテルは宿泊客を守るためにガドリングガンぶっ放す。本筋がどう転ぼうと世界観だけで満足出来る作品でもあったように思う。


とはいえ、ストーリーも面白かった。自分を殺した(スタックが破壊されない限り転生出来るが、貧乏人や犯罪者は身体の種類を選べない。逆に金持ちは自分のバックアップを衛星に保存しているためスタックが破壊されても生き返る)犯人を探してくれと依頼されることもそうだし、タケシの過去話やAIがホテルを経営していてAI同士の組合まであるという肉付けも面白かった。終わってみれば未来の世界でなくとも起きそうな事件の真相ではあったけれど、スタックやスリーヴという設定が生きた脚本で、宗教も含め様々な要素が絡み合いTVドラマシリーズなのに1本映画を観たような充実の余韻を味わえる作品だった。







原作は三部作らしい。ドラマがどこをどう映像化したのかわからないけれど、続編に関してはやってもやらなくてもいいかなと思う。ほんのわずかな心残りすら綺麗に思えたから、タケシ達をそっとしておいてあげたい。それこそお金だけが全てではないことを証明するためにも。




作り話としては本当に楽しかった。でも、もしもこんな未来が訪れたりしたら、唯一の救いすら失い庶民は真の意味で死んでしまうほかないだろう。

肉体そのものではなく、僕らが内側に有ると信じている尊厳だけは失いたくないものである....