消せない消えない消したくない「野火」大岡昇平/感想

農業が盛んな地域に住んでいれば、普通に見かける野火。畑や田んぼの周囲の草刈り後にそれを焼く行為なのだけど、本作の主人公である田村には、それが何かの象徴であるとか、自分の気持ちの表れに思えてならないようだった。




大平洋戦争末期のレイテ島にて、まともな補給も指示もなく瓦解していく日本軍の1人である田村が、戦地で肺を患いあちこちたらい回しにされた挙句、島を放浪し様々な出来事に見舞われて、言葉にするのも躊躇われる経験を経て心に深い傷を負うことになる物語なのだけど、何処をどう読んでも実体験にしか思えないようなリアリティを大岡さんの文章から感じ密度の濃いため息ばかり出てしまった。

”市川崑”監督や”塚本晋也”監督の映画版を観た後での原作だから、どう感じるか少々不安だったものの、両映画とも違う風景が原作にはあるような気がして、読んで良かったなと思った。あと、塚本晋也版が意外に原作をちゃんと踏襲していたことが分かったのも驚きだった。映画版の意味深な田村の行動の理由にも凄く合点がいった。映画を見たあとに原作を読んで、映画で描けなかったことをチェックするような経験は何度もあったけれど、それとは少し違う関係性が塚本版と原作の間にはあったのかもしれない。改めて良い映画化だったのだなと思った。



人は何故”野”を焼くのか?

ここに己が居ると証明したいのか?

時代錯誤とも思えるような、ミサイルによる力の誇示を行う北朝鮮も、いずれその無駄にでかい鉄の塊で他国の土地を焼くのだろうか?



日本と日本に戦争という二文字で関わらざるえなかった国々にとって、大きな意味合いを持つ8月は終わったが、今もなお戦争の只中にある国は沢山ある。

世界中が...とは口が裂けても言わない。せめて日本だけでも野に立ち昇る煙が、平穏を告げる狼煙であり続けたいものだ。









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