戻りたい時代No.1「月がきれい」岸誠二(監督)/柿原優子(シリーズ構成)/feel./感想

このアニメを見ていると、もう25年以上前の自分を思いだす。

好きな子に好きと言えず、女の子の気持ちに上手く気づいてあげられなかった自分を。





ハッキリ言って、本作の主人公のような才能が当時の自分にあったとは思えない。口ばかりでロクに行動に移せないヘタレで、何もかもから逃げていた。正直、小説を書き、お囃子を格好良く決め、結局落ちてはしまうが受験勉強に真剣に打ち込んでいた彼のことを格好良く思う。

ヒロインである陸上部の少女も、彼のそんなひたむきな姿を好きになったのだろう。最終話のラストで彼ら2人の幸せそうな未来のイメージ画像が次々現れた時なんて、本気で祝福したい気持ちになった。自分には出来なかった恋愛を謳歌するキャラを、普通ならここまで応援する気持ちにならないのに、不器用で素朴な2人の喜びと悲しみを12週も見てたら自然と「この2人には幸せになって欲しい」と思えるようになっていた。


今回何より良かったと思うが、2人一緒だからぎこちなく話すのではなく、自分1人でいる時でも独り言セリフを極力使わなかったこと。俺はこう思っているのになんで分からないんだ!という気持ちを表すにしても、直接的なセリフではなく態度や表情、鼻息など、より自然に感じる方法で気持ちを表現していた。だからセリフより彼らの行動に物凄く共感を覚える作品だったと言える。感情が高ぶった時に蛍光灯のスイッチの紐でシャドウボクシングをするシーンもあるが、あれはまさに自分がやっていたことだったから、物凄くあるあると思ってしまったりもした。

もしかしたら、プレスコ(セリフを先に録って音に合わせて絵を作る)で作られたことも大きかったのかもしれない。何も無いところから絵を起こすより、役者の演技を聴いていた方が描く側も気持ちが入るのではなかろうか?声優陣の演技もよりナチュラルな物になっていたし、OP、ED、挿入歌に至るまで担当した東山奈央の楽曲も相当制作陣の切ない気持ちを上げてくれたに違い無い。




本編終了後の生々しい中学生の様子を描いたミニコーナーも実は好きだった。自意識過剰で直ぐ何かあると自分に気があるからだと勝手に思い込んでしまう地味な少女や、ラブホテル代も払えない同級生とズルズル付き合ってしまう子、仕舞いにはクラスの男子生徒が好き過ぎて卒業まで待てない勢いの女教師が独り悶える様子まで、本当にありえそうで可笑しかった。

きっとシリーズ構成が女性であったことが一番大きかったんだろうと思う。男が思い描く女子像と違うリアルさが本作にはあった。特にヒロインが先のことを考えて不安になり、男の子が親友から告白されたことを教えてくれなかったことが引き金となって距離をおいてしまい、男の子は何が悪かったのか分からないまま呆然としてしまう辺りは素晴らしかった。男からしたら気を遣わせたくなくて言わずにいたわけだけど、そういう理屈に当てはまらない女子をちゃんと描けているのが上手いのだ。



常々セリフに頼り動きを疎かにするアニメに違和感を感じていた僕にとって、月がきれいは青天の霹靂だった。後に続く作品がどんどん出てきて欲しい。感情を丁寧に描くためにも言葉だけに頼っていては駄目だ。アニメがアニメらしくあるためにも、動きで表現する大切さを思い出して欲しいなぁ......