2017年05月09日

文字に駆逐されるのは快感だ「象られた力」飛浩隆(著)/早川書房/感想

昔から「SFは難しい」と言われている。


ここでいう所の難しいとは、専門用語や造語を多用する理詰めに関してなのだろうけど、それ以上に世界観そのものが難しいというのもあるのだろう。僕も正直本格的なSFになると内容を半分も理解できているか怪しく、難しい本になると分からない部分は端折ったり、途中で挫折することすらある。


それでも読むのをやめないのは何故か?と言えば、その難しさの先にある風景の素晴らしさを知ってしまったからだろう。僕に難しさの先にある風景の甘美さを教えてくれた1人である飛浩隆さんのような、他人の脳に眠っているイマジネーションを引き出すのが上手い作家さんの本に一度でも触れてみれば、僕でなくともSF無しには生きられない身体になってしまいそうな気もする。






”知る人ぞ知る”と、巻末の解説に書かれてしまうほど、SFファンには伝説の作家として知れ渡っている飛浩隆さん。30年以上のキャリアがありながら、個人名義の書籍は片手の指を折るだけで事足りる執筆ペースも悩ましいが、近年では短編をコンスタントに発表してくれるし、遅読でマゾな僕には、これくらい待たせてくれる方こそ丁度良いのかもしれない。完全に新参者な僕が今更飛浩隆さんについて語るのも烏滸がましいが、今回読ませて貰った「象られた力」がまた滅法面白くて書かずにはいられない。


象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA) -
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA) -




本書はSFマガジンに連載された4編からなる短編集で、ベトちゃんとドクちゃんのように二人で一つの身体を動かす天才ピアニストと、彼らの使うピアノの調律を任された男の物語である「デュオ」は、”私がかれをころしました”という独白で始まり、どうやら奇形の双子ピアニストがその被害者で、加害者は調律師の男のようだと最初からぼんやり想像がついてしまうのだけど、何故殺さねばならないのか?何故彼らの演奏はここまで心を打つのか?が序盤は分からないため、読み進めていくとどんどん深みにハマる。ピアニストというからには勿論様々な曲の話になるものの、こちとら完全に素人なわけで、本当ならピンと来ないはずの演奏描写であるのに、飛浩隆さんの手にかかると素人の心の中にまでリズムが響いて来るから不思議だった。双子の才能の謎や、その後の一筋縄で行かない展開にも痺れた。普通に映画化して欲しい。日本以外で。



デュオとは打って変わり、これも飛浩隆さんなのか?ついそう感じるほどライトノベルなノリのファンタジーだった「呪界のほとり」も、毛色こそ違えど何処と無くらしさがあって、これはこれで普通に続きを書いて欲しくなった。この一編のためだけにここまで設定を考えるなんて流石としか言いようが無い。飄々としたジジイや竜が最高の作品。


けして若くは無い2人の男がテラフォーミングの副産物に魅了され、恐ろしくも美しい奇跡に立ち会う「夜と泥の」の表現力や構成にも舌を巻いたが、短編集の最後を飾る表題作「象られた力」では更にそれに磨きがかかっていて、「グラン・ヴァカンス」を初めて読んだ時の衝撃に似た悦びと苦しさを覚えた。今は存在しない、とある惑星”百合洋(ユリウミ)”の図形を使った言語文化の裏の顔が引き起こす事態から醸し出される得も言えぬ恐ろしさと甘美さの絶妙なバランス感覚は飛浩隆さんにしか出せないと思った。この人にしか出来ないと断言したくなる作家さんである。




毎度凄まじい物語を書いてらっしゃるから、どんなに気難しい方かと思いきや、氏のTwitterを眺めると結構ノリの良い所があって親近感が湧いてしまう。初めて飛さんのつぶやきを見た時は、こういうのも嗜む人なんだなぁ〜と、狐につままれた気分になったものだ。


今は兎に角うっかりAmazonに注文してしまったため、お預けを喰らっている「BLAME! THE ANTHOLOGY」が読みたくて仕方ない。一体どんなBLAME!の世界を飛浩隆さんは書いたのだろうか?他のメンツも強力だし、これ以上は望めないアンソロジーになっていそうでわくわくする。


早く届かないかなぁ..........




BLAME! THE ANTHOLOGY (ハヤカワ文庫 JA ニ 5-1) -
BLAME! THE ANTHOLOGY (ハヤカワ文庫 JA ニ 5-1) -


posted by lain at 21:36 | 北海道 ☔ | 小説 SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする