冬の将軍が、最後の悪足掻きに入られ、落ち着かない空模様が続く雛祭りの夜。
ふと気づけば日本アカデミー賞が発表になっていて、どうせ”大人の事情”で捻じ曲がった結果なのだろうと高を括っていたら、最優秀アニメーション作品に「この世界の片隅に」が弱小東京テアトル配給であるにも関わらず選ばれ、流石の大手映画会社もこの映画だけは無視出来なかったんだなと嬉しくなった。
最優秀作品を含む、7冠を達成した「シン・ゴジラ」にしても、特撮というジャンルでありながら選ばれた事には意味があるなと思うのと同時に、こういった賞に選ばれ易い”真面目”な映画が年々貧弱になっていることを再認識。それもこれも、各社大手が配給会社が、作品の良し悪し以上に互いのメンツを守る為、持ち回りで賞を選ぶような真似をして、弱小な配給元の映画に目を向けて来なかったのが悪いのでは無いかと思った。
最優秀アニメーション作品に「この世界の片隅に」が選ばれた裏で、何故「君の名は。」じゃないんだ!という声が少なからず上がっていたが、その声の一つにこんなのがあった。
「興行が1番良いやつが、みんなが良いと思った作品だろ?なんで大した売れてないやつが1位になるねん」
と、言うのだが、そもそもまずお金を払わなければ良いか悪いかも分からないのが映画であることが分かっていない意見だと思った。悪い言葉を使って言えば、良いポン引きがいれば、お店の良し悪しは関係なくお客は呼び込めるわけで、「君の名は。」くらい出来が良ければ宣伝だってすこぶるやり易く、お客も足を運び易くて当然なのだ。ネットの口コミ云々にしても「この世界の片隅に」の評価は素晴らしく、レビューも「君の名は。」を上回る高評価なサイトも多い。にも関わらず金の重さで作品を評価するなど言語道断だと言わざるを得ない。
両方共を観た上で「君の名は」を選んでいるのかどうかも怪しい心無い意見もあったけれど、多くの人は「この世界の片隅に」の受賞を喜んでいた。僕も嬉しくなって、つい深夜に原作コミックを読みだして寝不足まっしぐらな中これを書いている。
隕石に翻弄される壮大なラブストーリーである「君の名は。」に対し、小さな生活を切り取ったささやかな愛と哀の物語な「この世界の片隅に」。同じく愛と命の尊さを描いているのに「この世界の片隅に」の喪失感は本当に重く、結果を知った上で原作を読むと終盤の胃がキリキリするような辛さが頭をよぎって、序盤のほのぼのさが愛おしいやら切ないやらで目頭が熱くなった。
何気ないシーンやほのぼのするイラストの積み重ねが、じわじわ僕らの中に沁みて来る...
この作品を生み出してくれた"こうの史代"さんや、諦めずに作り続けた片渕須直さんとMAPPA、そしてクラウドファンディングで支えた人たち全てに、おめでとうとありがとうを言いたい。
なんかまた泣けてきた....

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