”分かりたいより感じたい”それが僕の愛し方「自生の夢」飛浩隆/河出書房新社/感想

いやぁ参った。本当に参った。もしも僕が書き手だったら、飛浩隆さんと同じ土俵にだけは立ちたく無いと思った。

まるで張り合える気がしないから.....



 僕が幼稚園にも入っていない時代からSFを書いている方と、この歳になってようやく少しはSFを読むようになった素人を比べては罰が当たるというものだけど、なんと言うか、飛浩隆さんの作品にはSFというジャンルに収まらない”何か”があって、周到な文字選びから文章の構成まで到底真似出来る代物に思えず、この人とだけは絶対目を合わせちゃいけないくらいに、畏敬の念を抱いてしまう。良い作家は優秀な詐欺師になれる。その逆も然りかどうかは分からないが、飛さんがその気になれば人の生き死にまで言葉でコントロール出来てしまいそうでもある。くわばらくわばら......

 短編は定期的に発表するものの、1冊の本として世に出すまでが実に長い飛浩隆さん。ここ数年で知ったばかりのにわか(僕)ならまだしも、80〜90年代から飛さんを愛してやまないファンなどは、今回の新刊で涙を流すくらいの愛憎を感じたに違いない。文字で読者の心を揺さぶるだけに飽き足らず、「これが欲しかったか?」と言わんばかりに焦らしてくる飛浩隆さんは、真性のドSなのか?それともドMの裏返しなんだろうか?何にせよ悩ましいお方だ。





 さて、どうせ読解力のない僕では、飛浩隆作品の魅力を隅々まで伝えることなど、まるで出来そうに無い。なので本書の内容について触れるのも腰が引けてしまうわけだが、無い脳みそを絞ってなるべく簡単に説明するなら”大きな宇宙と小さな宇宙が交わり、愛と哀が産まれる”世界のお話だ、と思う(分かり難い。だよね) もうちょっ分かり易く例えるなら”生身の不自由さと思考の自由さのギャップ”を描いているとでも言えば良いのだろうか?もう言っててよく分からない。兎に角現象を表現させたら右に出る者は居ないくらいのおじさんの本なのは間違いない(諦めた)

 短編集ではあるけれど、明らかに繋がっている話も多く、ぶっちゃけ全てが繋がっていると言っても過言ではないから、1冊としてのまとまりもかなり良かった。灰洋と呼ばれる全てを飲み込む海に囲まれ、人知を超えた存在に弄ばれる町に住まう一組みの夫婦を描いた「海の指」や、”深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ”と言わんばかりのジュブナイル(?)作品「星窓」。そして、天才的に言葉を操る少女や、自分の言葉の力に絶望した男が登場する話まで、一つ一つが直接的にも間接的にも絡み合っており、1冊でありながら何冊分もの溜息が漏れる濃密さだった。

 あまりにも学がないため、難しい専門用語や飛さんが発明した言葉に押し潰されそうな場面もチラホラあったけれど、そうした物もきっと飛さんの狙い通りで、弄ばれる僕は良いお客さんだったりするのかもしれない。煙に巻かれることすら飛浩隆作品の醍醐味だと思えてしまう僕は、やっぱマゾなんだろう。でも、簡単に解き明かされてしまう場所に、僕らSF好きがロマンを感じるはずないですよね?




 また、文字で新しい風景を見せて下さい。どんなに焦らされようと10年でも20年でも待てますから。

 娘さんによろしく✒