夏はちょいとほろ苦いくらいで丁度良い「杏奈と祭り囃子(はいからさんが通る8巻収録短編)」大和和紀/講談社/感想

 日がな一日働いて、いつものように家に帰り夕飯にしていると、何処からか花火の音が聴こえてきた。お祭りでもやっていたのだろうか?

 僕はもうかれこれ20年以上お祭りになど行っていない。人混みは苦手だし、そもそも恋人や友人がほとんどいないから行く理由も生まれない。家族と仲良く出掛けるなんてのも柄じゃないから御免だ。

 とはいえ、僕も人並みに程度には、宵闇に立ち並ぶ色とりどりの屋台や、何処からともなく漂って来る美味しそうな匂いにわくわくしたことはある。しかし如何せん、原価がどーの、品質がどーのと子供の前で裏側のことを口にせずにいられない親がいつも一緒だったから、あれこれ言われ続けているうちに冷めてしまった。そもそも、そんなことを言うくらいなら子供をお祭りになど連れて行かなければ良かったじゃないかと今にして思う。子供に幻想は与えないが、自分が好きな花や植木を置いてあるコーナーには長居する自分勝手な母であった。



 この時期になると本作を思い出すと言っていたフォロワーさんの影響で読んだ「杏奈と祭り囃子」に出て来るドラさんのような人が親だったなら、きっと今でもお祭りが大好きで大好きでたまらない大人になっていたんじゃないだろうか?

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 その昔姉が読んでいたのを拝借して「はいからさんが通る」は読んだことがあったから、8巻に収録されたこの短編もおそらく読んでいたはずなのに、まるで記憶に無かった。

 戦争から戻って、ショックのあまり心が幼帰りしてしまったドラさん。日雇い仕事で食い繋ぎ、焦げたコロッケで我慢する彼は、周囲に何を言われていても命があるだけで幸せそうなボンクラだ。ただ彼にも1つだけ取り柄がある。祭り太鼓が絶品なのだ。日頃彼を馬鹿にする連中も祭りの夜だけは彼の才能を認めざるえない。

 そんな彼が、女の子を拾った。文字通り拾ったのである。普段から野良猫・犬と仲良くコロッケを分け合っているドラさんだから、ごく普通に独りで泣き噦る女の子を放っておけなかったのだろう。得意の祭囃子で慰めると、名前も家も知らないというその子と暮らし始める....

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仕事では失敗だらけのドラさんだが...

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太鼓だけは一品

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泣き噦る少女にぼーぜんのドラさん

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見ているこちらまで幸せになる二人である...




 はっきり言って今の時代なら即逮捕の話だ。人情が先行する時代なればこそ成立するドラマであります。幼い女の子を少々問題を抱えた独身男の元に置いておけないだろうと周囲が騒ぎ始めても、彼がいかに少女を大事に想い、少女どれだけ彼を慕っているかを証明すれば、誰もが協力的になってしまうのだから。

 最後は、年頃を迎えた女の子の幸せを想うあまり、自分から身を引き哀しい幕引きを迎えるドラさんだが、彼のおかげで幸せを手にした女の子が、新たな家族を連れてお祭りへ足を運び、もう聴くことの出来ない彼の祭囃子のことを想い続けているのだから、彼は十分幸せ者だ。



 やっぱり祭りなんて行かなくとも良いけれど、誰か一人でも僕との別れを惜しんでくれる人は欲しいなと思った。それが可愛らしい子ならば尚更嬉しいだなんて思ってしまう辺り、気持ち悪いし救い難い阿呆だなと自分で自分に呆れてしまう夏の夜は妙に蒸し暑い......









 そういや連載40周年を記念して「はいからさんが通る」の劇場版アニメが来年公開になるの楽しみだーね。



  劇場版公式HP http://haikarasan.net

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