宇宙だろうが電子の海だろうが、生命あるところに物語は生まれ出づる「汝、コンピューターの夢」ジョン・ヴァーリイ(著)/大野万紀(訳)/東京創元社/感想

SFに限らず、自分が生まれた頃や、それ以前に初出したような小説を読む時は少し腰が引けてしまいます。文体や価値観の違いに振り回され、十二分に楽しめないことがあるからです。特にSFに関しては、10年、20年、30年と経つことにより、フィクションを現実が追い越して遠い未来のはずだった世界が色褪せてしまうなんてことも間々あること。

しかし、本作においては、そんな心配は杞憂でした。ほぼ全ての短編が新訳改訳なされていたおかげか、とても違和感無くするっと読み始めることが出来たし、何よりジョン・ヴァーリイ氏はいちいち一つの設定についてくどくどと説明しないタイプの作家さんだったので、考えるより感じる派の僕にはぴったりだったのです。

イマイチ分からない部分があったとしても、しっかりと裏打ちされた世界観は重厚で説得力に溢れ、わけが分からなくとも面白い。しかも核にあるのは、いつの世も捨て去ることの出来ない人間の性だから、複雑なように見えて、その実テーマは伝わり易い。



本短編は<八世界>と呼ばれる同じ世界観の短編を発表順に並べた物だそうで、異星人の侵略により地球上の人類が滅亡し、月に移り住んでいた人々が地球以外の星々へ渡って行くことになったという設定に縛られているものの、一つ一つが独立した魅力に溢れているから、どれも飽きる事無く楽しめました。たとえ技術の進歩によりあらゆる身体のパーツを取り替える事が出来るようになり、何百年もの寿命も手に入れ、今の時代でも風当たりの強い”性転換”を、まるで服を着替えるかのように気軽に行い、人間の記憶までストレージに保存することが叶ってしまったとしても、倫理や価値観の移り変わりに左右されない普遍的な人と人の繋がりは残るはずだというのを、じっくり書いているからこそ古臭さを感じないのかもしれない。






時代に逆行して自活する頑固爺いと時代の申し子達

親の臆病な愛の形に鬱屈するクローン

孤独な電波仕分け人

カワウソと少女と爆発宝石

コピーとコピーによる究極の自己愛....etc


SFならではの風景の中で繰り広げられる人間模様に思わず思い入れしてしまう良い作品でした。まだもう少し<八世界>を纏めたシリーズは続くようなので楽しみであります。



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