♪ほとんど大人の〜thirty seven map「イカロスの誕生日」小川一水(著)/毎日新聞出版

 新装版と知らずに手に取った本作でしたが、今の自分にとっては実にタイムリーな内容だったかもしれません。

IMG_9301.jpg
※最初はなんでまた表紙が”ゆうきまさみ”氏なんだろう?と思っていましたが、読み始めると完璧にゆうきまさみキャラで頭がいっぱいになりましたw




 人類の中に翼を持つ者”イカロス”が生まれている現代日本(本作が書かれた2000年における現代だから少し様相は違う)のお話で、先生の言うことも聞かず授業はサボるし、好き勝手に飛んで飛行機を停めてしまったりと、問題ばかり起こしている少女”自在はるか”が、まるでナチスドイツに弾圧されたユダヤ人のような扱いにもめげず、自分らしいやり方で未来を掴んでゆくストーリーが実に気持ちの良い作品でした。

 なんていうか、周りにいくら馬鹿にされても自分の価値観を変えず夢を叶えようとする人をイカロスに置き換えているような内容なので、彼らを弾圧する側である普通の人間達のことが、「どうせ痛い目に遭うだけだ」と頭ごなしに子供達を抑えつけようとする、夢破れた経験のある大人達に見えて仕方無いんですよね。

 かく言う私もそんな大人の一人で、いい歳をしてまだまだ甘っちょろい事ばかり口にする会社の後輩に何度もちくちく説教を垂れている嫌な男です。もっと努力をした上で夢を追っているのならば是が非でも応援したくなるのですが、あまりにも最後は人任せな発言と行動を取る後輩なのでどうしても突っ込まずにいられません。


 確かに今年で37歳にもなってしまったけれど、まさか自分が経験則に基づきお節介なことを言うようになるとは思いも寄りませんでした。何処までも前向きに信じ、わずかでも夢と言えそうな物を持ち合わせている後輩のことがよほど羨ましいのかもしれません。作中「人類は規範から飛び出すことによって進歩してきた」と口にする登場人物も居たけれど、まさにその通りだと初心を呼び起こされました。社会に規範は必要だけど、それだけでは何も変わらないし退屈。何事もバランスが大事なのです。秩序や協調を求める生真面目な者と、願えば叶わぬ物など何も無いと自由気ままな者と、互いに足りない部分を補ってこそ未来は広がって行くことでしょう。





 何処かの誰かの都合で縛られるのはイカロスでなくとも非常にストレスが溜まるものです。追いやられたイカロスがとある島に立て篭もるシーンでは「ぼくらの七日間戦争」が頭にちらつきました。


 ♪Seven days war 闘うよ


 僕たちの場所この手でつかむまで


 Seven days war Get place to live


 ただ素直に生きるために




 大人の都合に風穴を空ける子供達の姿が大好きな映画なのに、いつのまにか子供達の目線から遠ざかってしまった自分に気づいて嫌になります。

 それはそうと、イカロスが空を飛ぶこと一つ取ってもちゃんとSFらしいウンチクがあるし、イカロスの問題に対処する政治家や企業人達のやり取りも実に現実味があって良かったです。小川一水さん当時まだ25歳だったというけれど、その頃からそつのないディティールと読み易さのバランスが上手い作家さんだったのだと感心してしまいました。どれだけの下準備をして本作を書いたのか、その執筆作業の一部始終をドキュメンタリーとして是非観てみたいものだ。

この記事へのコメント