2015年11月03日

手にした途端腐りだす美の正体「彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone?」森博嗣(著)/講談社/感想


森博嗣さん初の文庫小説書き下ろしの新シリーズ。読み終えた今となっては、本シリーズの一端に触れただけに過ぎないのかもしれないと感じるものの、序曲としては非常に読み応えのある内容でした。



森博嗣さんの新シリーズ読み終わった。もしも人類が科学により永遠に近い命を手にしたら?そして自分達と同等、もしくはそれ以上の生命を生み出してしまったら?そんなSFなストーリー単独でも十分充足感があるだろうけど、マガタ、ミチル、ウォーカロン、を知ってる人には更に満足出来る内容なことだろう。面白かった。



”ウォーカロン。「単独歩行者」と呼ばれる、人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。”

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あらゆる臓器が代替え可能となり、100年単位で人類が長生き出来るようになった時代。エネルギー問題も戦争も終息してしまったというのだから、ある意味において死んだ未来を舞台にしていると言って過言ではない。しかも機械では無く人口細胞から人間そっくりの生命体を作り出すことに成功し、長寿化により出生率が極度に低下した人類に代わり”彼ら”が増え続けている世界だと言うから尚のこと皮肉な話である。


『いつまでも若々しく長生き出来たらどれだけ良いだろう』そう僕らが考えてしまうのは今現在"そう"では無いからだ。その望みがもしも叶ってしまったら、今度は死を望みだすのかもしれない。いつまでも終わらない世界の不協和音も、鳴り響いているうちは耳障りで辛いばかりだが、鳴り止んでしまったら懐かしく振り返る日が来るのでは?手に入らない物だから価値がある。それこそ世界の真理なのではなかろうか?....


本作に描かれている未来の姿は、人々が一度は夢に見た世界のはずであるのに、まったくもって虚しい世界であります。長寿になった人類は生きる意味を見失い、望み通りに発展しても自らの劣等感を拭えず、己が生み出した生命体の可能性を前にして、人間とは何か?と問わずに居られないのですから。森先生がシミュレートしたこの未来は、個人主義が跋扈し、少子高齢化が続く昨今の流れも大いに反映されているのでしょうね。




自分の命が狙われているせいもあるが、純粋に学者としてウォーカロンと人間の在り方に興味がある主人公の思考の巡らせ方を見ていると、自分という存在が酷く希薄に感じられ、森作品読後の恒例行事になりつつある精神状態になっていました。まだ僕はこの物語の人々と同じ立ち位置に到達していないにも関わらずです。これは自分という脆弱な存在を曖昧にするのが上手い森先生の描いた近未来に、どれだけリアリティがあるかという証明でもあるでしょう。一枚岩では行かない人類とウォーカロンの生存争いが、この先どうなって行くのか実に気になります。


何故早川書房がオファーを出さないのか理解に苦しむほどSF色が強く、興味深いテーマなので独立したシリーズとして楽しめますし、他作品(S&Mシリーズ・百年シリーズ 等)との繋がりもはっきりと出て来るので、一連の森博嗣ワールドの一つとしても見逃す手は無いだろう。





改めて森作品の醸し出すオーラが何を求めた結果なのかぼんやり考えると、森博嗣さんは何処か無機質さが残っている者への愛着があるというか、人間らしい無駄をしない純粋な存在の美しさに憧れているというか、まるで神に救済されたがっているのでは無いか?とさえ思えて来ます。そして森博嗣作品を自然と求めてしまう僕もまた、確固たる指標となりえる美しい神を求めているということなのでしょう。



本当に危ういものです人間は。


憧れと恐怖は隣り合わせ。


何時何処で何に傾倒するか分かったもんじゃありませんね♡ζ*'')ζ






生と死、人間と非人間、その境界線上を──『彼女は一人で歩くのか?』 - 基本読書

【感想と考察】森博嗣『彼女は一人で歩くのか? Does She Walk ...



posted by lain at 07:06 | 北海道 ☔ | Comment(0) | 小説 森博嗣 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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