無力さは美徳では無い。かといって力は正しさに程遠い...「水色の部屋 下巻」ゴトウユキコ/太田出版

 程度はあっても男とは基本マザコンである。

 女性と付き合い歳相応になって結婚すると、ほとんどの男が母親に対するように妻を扱う。ある者は便利な家電を手にいれたくらいの勢いで横柄に身の回りの世話を望み、またある者は畏怖するかのように妻に付き従う。もしも偏りの無い夫婦がいたとしても、それは多分両親がそういう人達だっただけでは無かろうか?

 今時の女性は旦那から母親的な役割を望まれ素直に受け入れるほどお人好しではない。結婚しなかったり、シングルマザーを選ぶ女性が多いのは、実はマザコン野郎共が多いからでは無いかとさえ思ってしまう。自分の安楽のためだけに女性を身近に置きたい三次元の男と合コンするくらいなら、いつでも最高の笑顔と持て成しで迎えてくれる二次元世界に埋没したくなるのも分から無いでもない。BL、乙女ゲー、恋愛小説、なんだったら自主制作の道だってある。まさに選り取り見取りである。


 とは言うものの本作の主人公のマザコンっぷりを責めるのは少々酷である。物心がついて来た時期に、母親がレイプされている現場を目撃し、それがトラウマになった彼は、いつの間にか母親を女性として見るようになり苦しい思春期を過ごしているからだ。しかも彼は仄かに思いを寄せる幼馴染をとある少年Kに傷つけられた挙句、その少年に母親が再びレイプされる場面に遭遇してしまうのだから半端では無い...




 そんな誰もが主人公と周囲の幸せな未来が想像出来ない上巻だったから、下巻ではどんな残酷な仕打ちが待っているのかと思いつつ読み進めたが、ある意味拍子抜けするほど彼の過酷な青春の結末は優しく微笑んでいた。思い詰めた主人公の行動から闇が連鎖して全てが最悪の事態へと転落して行く。そんな物語が巷では蔓延しているが、ゴトウユキコさんの選択は実に未来を感じる答えに繋がっていました。主人公の押さえつけている願望を地でいっているような少年Kを目の前から消そうとする少年の苦悩と選択で、終わりにせず、その”後”をちゃんと描いていたことが素晴らしかった。

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 目の前の安らぎに縋り、自分のして来た事から目を背け、周囲を傷つけることで自分を貶め生きて来た彼らが、最後の最後で一歩を踏み出し辿り着いた部屋の風景は、未熟な青で満たされ心地良い。”青春=性への憧れと嫌悪”を拡大解釈したようなドラマかもしれないが、少なからずこのような生き方をしている人がいることだろう。「事実は小説よりも奇なり」なんて言葉があるが、至極普通の青春を送って来た僕は、この作品に本物以上の何かを感じる。もしも実際にこんな目に遭っていたら、立ち直るどころか更に人生を拗らせ、こんな漫画嘘っぱちだ!と更に荒れているかもしれない。



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 多くは語らない登場人物ばかりだが、言葉以上に行動で彼らは語っていて本当に良い作品でした。主人公の悩みの種である幼馴染や母親の複雑な想い、そして少年Kの寂しい生き方にもちょっぴり心が動いてしまいます。未熟で愚かな者達の切実な小さな世界がとても愛おしい。 

 青春は残酷だ。なのにもう一度あの場所へ行きたくなるのは何故なのだろうか?......


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