あなたの”普通”を決めるのは社会ではない。だけど....「サード」坂井恵理(著)

 社会と言うのは、大多数の言葉で回り、たとえ49%の人が反対しても、51%が道筋を決める。

 世に言う「普通」の人であれば、それでなんら不都合は無いわけだが、それが30%、20%、更には10%未満の「普通では無い」とされる人になると、生きるか死ぬかの死活問題に繋がってしまう。


 何もって普通と定義するかは、それぞれあることだろう。

 人を殺す

 奇声をあげて歩き回る

 虫を生きたまま喰らう

 落ちたコインの種類と枚数を当てる

 集団で穴という穴を犯し合う

 こんな↑ことを自然にしている人を僕は普通じゃないと考えるが、それらを普通の営みだと信じている人は実在するし、僅かな例外を除けば、自分の「普通」を自分で決めたうえで社会と生きる困難さに直面している。「普通ではない」とレッテルを貼られていようとも、悩み苦しむことに変わりは無いのだ。



 坂井恵理さんの『サード』は、そんな「普通ではない」と世間に値踏みされ、自分の性に翻弄されることとなった少女の物語で、男と女それにサードと呼ばれる男女の中間に位置するような性別が有り、女は卵巣、サードは子宮だけを持っているため、通常三人で結婚し子供を育てるのが当たり前とされる社会の中で、漠然とした不安を感じている主人公が、友人の死や三人で愛し合うことへの違和感、そして自らの性別の特殊さに形容し難い想いを抱えつつ、自分の「普通」を勝ち取ってゆく姿がとても良い。

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 3つの性という近未来的SFちっくな描き方をしているものの、明らかに同性愛について語っているし、男女で愛し合わなければならない理由にも言及したりもする。男同士で何が悪いのか?女同士は許されないのか?分かり易い線引きで男女の役割をハッキリさせなければならないのは誰の都合なのか?

 多くの”Why?”を抱え、性の狭間で心を揺らす人々の生の声が描かれているので、正直架空の物語として単純に楽しむことが出来ませんでしたが、性に苦しむ当事者だけではなくて、家族に友人、愛しい人、更には自分が選んだ未来の先に居る『子供』にまで至る内容には何度も唸りました。本作は様々なケースの悩みを抱える性的マイノリティの心に届くに違いない。

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 子供を待望していたわけでも無いまま妊娠し、その胎児を亡くしてしまった坂井さん。そんなショックな出来事の直後に授かった新たな命を無事出産したという経験が生きているからこその重みのある内容なのでしょう。実に面白い試みでした。

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坂井恵理Twitter https://twitter.com/erisakai

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