あなたはどちらを先に見る(見た)?「特装版 思い出のマーニー」ジョーン・G・ロビンソン(著)/松野正子(訳)/1980・2014年/岩波書店/感想

 杏奈という一人の少女が邂逅した金髪の少女マーニー。杏奈はマーニーと共に一夏を過ごし、周りと、そして自分と見つめ合い、子供らしい感情を取戻してゆく。

 という、主に2人の少女が主人公の話であるのが「思い出のマーニー」なのだけど、当然原作は杏奈の心模様やマーニーの境遇を掘り下げていることは勿論、物語を支える人々の細かいところも描写されています。


 今回、その辺りを読みたくて1980年に松野正子さんによって訳され、映画化に合わせて新たに刊行された特装版を手にしてみました。元々が上下巻の文庫なので、ハードカバーな装丁に生まれ変わった本作は結構分厚いことになってますが、児童文学であるのは変わらないですし、文字が大きく字数もほどほどでのんびりでもサクッと読めます。

 読み終えて思ったのは、ジブリ版が案外原作の流れに忠実であるということです。現代風にアレンジしているし、尺の問題で登場人物の役割が若干変わっている部分もありましたが、全体としては大きな差異を感じることはありませんでした。

 ただし、あの湿っ地の雰囲気と、日本とは違う海外の田舎のイメージがしっかり原作で描かれているので、同じでありながらまったく違う世界を読み解いている気分になりました。他にも主人公であるアンナが、ジブリ版の杏奈に比べ若干幼くおしゃまな少女に感じるのと、攻撃性の表し方もだいぶ違いました。杏奈の方が深刻な状態に見えると思います。


 同じように、流れはほとんど変わらないのに、登場人物の描写がかなり現代風になったことで印象が違うキャラが居ました。どちらのアンナ(杏奈)も口にした「ふとっちょぶた!」と言われた女の子が、原作だと普通に嫌な感じだし、杏奈が預けられることになる大岩夫婦に関しても、人格が出来過ぎなジブリ版より、大岩夫婦にあたる原作のペグ夫婦の方が感情に起伏があってアンナに対して優しいだけではなく、哀しみや戸惑いの感情をぶつけていました。

 マーニーの家に引っ越して来た一家との交流も、ジブリ版は1人の少女とだけ仲良くなるだけなのに、原作は一家全体と仲良くなってゆくことになり、杏奈の精神安定に大きな影響を与える要素になっています。アンナが大勢の子供達と走り回る様子からは、作者の温かい目線が感じられて凄く良いシーンでした。




他にも小説ならではの良い表現があるので、アニメはアニメとして、原作は原作として楽しめました。翻訳が何十年も前ということと、子供向けに訳したということもあり、当然読み難いところもありましたけどね。続けて新訳版を読んでみようと思います。

時代やお国柄は違えど、アンナやマーニーの抱える痛みには普遍性があります。多感な年頃の子供達や、その親は、アンナとマーニーを通して様々な想いを巡らせることでしょう。

多くの人に、ジブリ版もしくは本書、出来れば両方とも見て欲しい。どちらも心からそう思える良い作品です。



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