身を心を切り裂く筆の音が聴こえて来そうだ『フォグ・ハイダ』/森博嗣/中央公論新社/2014年/感想

今の”森博嗣”の本気を見たかったら、このシリーズを読むしか無い!と、言いたくなるほど大好きな森博嗣チャンバラ活劇ヴォイド・シェイパシリーズ。

先月出た第四弾「フォグ・ハイダ」もすこぶる時代劇で最高でした。

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少しだけ自分を取り巻く環境が見えて来た主人公"ゼン"は、今回盗賊の片棒を担いでいる凄腕の侍”キクラ”と関わったことで、剣術道場の跡取りを廻る策謀に巻き込まれることになるわけですが、相変わらず二律背反する想いを内に抱えながらも、美しい剣技を持つ侍と相対する事を止められないゼンの葛藤が森博嗣さんらしい流れの美しい文体で書かれていて実に面白い。

特に今回は大勢の敵と渡り合うことになる、林の地形を活かした斬り合いのシーンがとても印象に残りました。少ない言葉であそこまで読者に動きを感じさせる森さん流石です。命のやり取りでしかない剣の応酬の美しくも虚しい様子が実に森さんのテイストにマッチしてるんですよね。落ち葉の中に身を隠している時の回想も良かったなぁ.....

本シリーズは、主人公のゼンが自分の振るう刀の正しい在り方にあれこれと想いを廻らせ、命懸けの美しいやり取りの中で少しずつ成長してゆくのがメインなわけですが、ちゃんと女っ気も用意されてるのも上手いですよね。よく見ると可愛らしい宿屋の女性だの、忍仕込みの女盗賊だの、手の施しようの無い病いを患った美人だの、流しの三味線弾きのお姉さんだの、男ばかりでムサ苦しくなりがちな時代劇に外せない彩りだと思います。まあ、今回は特に女っ気が多かった気もしますけどね。ゼンを影で見守っているナナシという忍も女性でしたし(あ、ネタバレw)


さて、そんなヴォイド・シェイパシリーズですが、当初の予定していた全五巻にはまとまらないと森さんが言っているので、ゼンが都まで旅路でどんな善を育み、どんな剣を磨いてゆくのか?まだまだ先が読めるのは嬉しい。

剣を極めることの虚しさに思いを馳せるゼンに、筆を走らせる意義を模索している森博嗣さんの気持ちがダブって見える作品でもありますし、少しでも長く読んでいたいものです....
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毎度楽しみにしてる美しい装丁、帯を外すと更に美しいですよね(ウットリ)





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