好きだから赦せないってことあるよね....『王立宇宙軍 オネアミスの翼 小説版』/飯野文彦(著)/2010年(1987年初出)/朝日ノベルズ/感想

大好きなアニメ映画を3本上げろと言われたら、間違いなくそのうちの一本に上げるであろう「王立宇宙軍 オネアミスの翼」



地球によく似た惑星のとある王国に、軍服を着たまま街を歩いても何処で何をしてる軍隊か分かって貰えず、宇宙軍だと知ったら「宇宙人とでも戦うのか?」と揶揄されるくらい存在感の薄い軍がありました。そんな肩身の狭い軍だから士官達は腐ってばかりで、日々の訓練もそこそこに毎晩酒と女とギャンブルという酷い有様。

ただそれも仕方ない話で、散々様々な訓練を行ってもなんの成果も実感も出来ないうえ、上官が推奨するよく分からない訓練だか実験のせいで仲間を失うことさえあるのだ。宇宙なんて行ける場所では無いと自然に心が折れてしまうのも至極当然のことなのです....


しかしそんな士気の低い彼等に転機が訪れます。とうとう有人宇宙飛行の計画が始動することになったからです。猜疑心から誰もがまた上官の戯言が始まったと感じているなか、1人の少女に感化され自分の仕事に誇りを取り戻しつつあった主人公シロツグは宇宙飛行士に立候補し、幾多の困難を乗り越えて宇宙へと飛び立って行くことになる。

と、いうのがオネアミスの翼の大まかなストーリー。




喰うために岡田斗司夫に乗せられアニメを始めたGAINAXの面々が初めて打ち上げた作品ということで、それだけでも十分レジェンドなわけですが、本作の逸話を知ったら尚更GAINAXの凄さを痛感して貰えることでしょうね。スポンサーを騙すために完成版とはまったく違うウケの良いプロト版を作ったり、音楽を坂本龍一に頼んだら基礎の部分以外あまり参加して貰えなくて足元を見られたり、今では大御所と呼ばれているクリエーターや声優が参加し更にあの"森本レオ"が主役を努めたり、他にも8億かけた結果元を取るために10年ん以上かかったという話まであるわけですから、どの話を取ってもこれがプロとしてのアニメ製作が初めてだったとは到底信じられない話ですよね。

周りから到底無理だと言われ、自分達でも何処まで出来るか分からないものの、やるしかないと突っ走った当時のGAINAXそのものを描いたような熱量の王立宇宙軍は、日々あーでも無いこーでも無いとうだうだやってばかりの僕の心に響くものがありました。初めて王立宇宙軍を観てからしばらくは何度も何度も観直していたものです。各社から出ていたムック本なんかも買い漁り、当時の少ないお小遣いでサウンドリニューアル版のVHSを買ったりしたのも良い思い出。

ところが思い返すと今までノベライズだけは手にしたことがありませんでした。たまたまブックオフで100円という憂き目にあっていたのを見つけるまで存在すら知りませんでしたしw 1986年に上下巻で刊行されていた物を、2010年に一冊に纏めたものらしく表紙はサウンドリニューアル版のジャケと同じでした。

最近観直して無いし、これは思い出すのに良いタイミングだと読み始めたものの、ノベライズを手掛けた飯野文彦さんがノベライズ畑の人のせいか正直出来自体は良くはありません。小説向けに脚色やキャラ改変を行っているのはまだしも、無駄な台詞や表現が多過ぎて小説として読む価値はそれほど感じませんでした。尺の引き伸ばしのために蛇足でしかない部分を切るどころか足しているので、絵コンテや脚本をそのまま本にした読み心地だと思ってください。あくまでも低年齢層とライトな読者向けですね....


劇中の台詞は確かに素晴らしく、冒頭のモノローグや打ち上げを中止しようとする仲間達をシロツグが叱咤するシーンは鳥肌ものですが、セリフ以上に表情や行動で語る部分も大きかった王立宇宙軍なので、小説版は読者それぞれが持っているシロツグ像や登場人物達を壊してしまっているように思いました。なにより映画版は主人公を演じた森本レオさんの味わい深い力の抜け具合が素晴らしかったですしね。小説版はオリジナル性を出そうとしているわりに、変なところでオリジナル通りのセリフを入れたがったり、余計な雑談シーンや説明が多すぎます。アニメをそのまま文字に起こすとこれだけ安っぽくなるものなのかと非常にガッカリです....


※印象深い冒頭シーン


※手描きでこれだけの迫力を出せた庵野秀明さん達半端無いよね...


とまあ、アニメから入ったなら読まない方が良いノベライズだったわけですが、良い部分も無いわけでも無かった気もします。シロツグがいよいよ宇宙に旅立つ前に、リイクニに会いに行き、改めて彼女への想いを確かめつつ「行ってきます」とだけ口にするシーンの心理描写はとても良かったし、シロツグのライバルとして登場していたドムロットも時折良い味を出していました。

巻末で監督である"山賀博之"さんの裏話も読めることも考慮すると、ファンブックの一つと考えるなら悪くない本なのかもしれません。



あり得ない話ですが、僕個人の希望としては、今は亡き"打海文三"さんあたりがノベライズをしてくれたらめちゃくちゃシロツグの複雑な心境を哀愁たっぷりに感じただろうなとか考えてしまいましたね...

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GAINAX NET http://www.gainax.co.jp/anime/honeamis/index.html

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