闇と生きた男の音楽はとても軽やかで重い「Ray/レイ」/ジェイミー・フォックス(主演)/2004年/米国/映画/感想

 本人をほとんど知らないのに観ても仕方無いかと観ずにいた”レイ・チャールズ”の伝記映画『Ray』ですが、音楽だけを頼りに生きてゆく彼の弱さと抜群のセンスを”ジェイミー・フォックス”が熱演しているので、本人を知らずとも人間ドラマとして見応え充分な作品だと思いました。






 子供の時分に弟を目の前で亡くし、自らもそれから1年もしないうちに盲目になってしまった彼は、暗闇の中で母の愛と音だけを頼りに生きることになり、自然と音楽の道へと進むものの、まだ差別が激しい時代の中で、盲目なうえ黒人の彼は沢山の人に音楽の才能を喰い物にされ、裏切られ、ようやく信頼出来る人々に出会った頃には、自らも人を裏切り傷つける人間になってしまいます。


 手当たり次第に女性を抱こうが、薬漬けになろうが、幾らヒット曲を作ろうが満たされないレイの心。今まで支えてくれた人達に要求するプロ意識も高まってゆき、人気の上昇とは反比例して人間関係は壊れる一方なのだ...




 何度となく逮捕された結果、奥さんの説得もあって薬物を断つことには成功する所で本筋は終わり、最後に彼の差別に対する姿勢が認められ、「Georgia On My Mind (わが心のジョージア)」が出禁だった故郷のジョージア州の州歌に選ばれるシーンで今作は幕を閉じます。


 正直ぶつ切りというか、まるで「わが心のジョージア」が州歌に選ばれるところまでしか、彼の人生に意味が無いかのような作りに思えました。ただただ弟を目の前で亡くしたことへの罪の意識に縛られ、逃げるように歌に薬に女性に傾倒し続けた軽薄と苦悩と不毛な日々だけが彼の人生で、その後の25年間に何も価値は無かったと言うのだろうか?


 尺の問題で描き切れなかったと言うのもあるのでしょうが、彼を愛する人々にとって、本当に満足出来る映画だったのか?と首を傾げずにはいられませんでした。最後の受賞のシーン以外にも、彼が成熟した人間として歌を歌う姿が観たかった。主演の”ジェイミー・フォックス”が素晴らしい演技を見せていて、まさか「Any Given Sunday」のウィリー・ビーメンだとはサングラスを外すまで気付かないほどにレイ・チャールズになり切ってましたから、なおのこともう少しレイチャールズの行く末を描いて欲しかったです。




 彼はまさに成り上がり有名人が進むべく成功と闇を体現した人だったんですね。晩年の柔らかなお爺さんぷりしか知らない人達(僕も含め)にとっては、レイが女の敵に見えて仕方無かったことでしょう。この映画を観てショックを受け、彼を嫌いになったファンもいるに違い無い。自分の音楽性に迷っていた時、「人のマネが出来るなら自分のマネも」と言ってくれた運命の女性や、浮気相手への態度を観ていたらそりゃ〜腹立つでしょうw



 けれど産まれた時から聖人君子な人間など居るだろうか?否、何処にも居ないはずだ。様々な経験を経て人柄は成熟してゆくのです。彼が酷い人間にしか思えないとしたら、作り手にとって不徳の致すところでしょう。せめて、晩年の彼が昔の自分を振り返り、苦笑いするようなシーンがあれば、だいぶ印象は違ったかもしれませんけどね。






 レイ・チャールズの人間性が実際どうだったかはさておいて、ジェイミーのおかげで非情にレイ・チャールズの歌に興味が湧く作品でした。楽し気に一夜を過ごすような歌もあれば、冷たく突き放すようにも歌う。闇と対話し、懺悔するかのように静々と歌うのも絵になる。人生に問題を多く抱えている人間ほど、音楽の完成度に反映されるものですな。


 同じ時代を生きていたら、僕も夢中で彼の音源を聴いて青春を謳歌していたことでしょうね♪(【゚ー゚】)♪ 



 

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