※ネタバレで書きますが、これを読んでから観ても問題無いと思います。事実を元にしたフィクションです。
とある美術教師の男が恩師に紹介された聾学校へ赴任するため、霧の町”ムジン”へと車を走らせていて鹿を跳ねてしまうシーンから映画は幕を開けます。
まるで美術教師の前途を占うような事故に出端を挫かれた美術教師。なんとか学校には到着するが、着いた早々働きたければ金をよこせと言われてしまう。仕方無く親にお金を都合してもらい、学校のやり方に馴染もうと努力するのだが、生徒や教師の態度が微妙にオカシイ事に気付いてゆく。
特定の生徒を殴ってばかりの男子教諭
女子トイレから聞こえるうめき声
洗濯機に顔を入れられ意識を失う女生徒
幾度となく虐待の場面を目撃してしまった彼は、絶え切れずに手に持っていた鉢植えで男の子を虐待していた男性教師を殴り倒し、男の子と共に学校を後にします。
既に2人の女の子を預けていた人権保護団体の女性と協力し三人の子供から証言を取った彼等は、様々な公共機関へと証拠を持ち込むものの、たらい回しにあうばかり。しかしテレビで取り上げられてやっと行政が重い腰を上げる事になります。
証拠もあるしこれで無事解決かと思いきや、これから先も延々と辛い現実ばかりが主人公と子供達を襲うことに...
聴覚障害のため耳が聞こえないうえ話せないと言う弱い立場の子供に対し、社会的地位の高い容疑者達は法を執行する者達を上手く買収して事実を捩じ曲げようと画策。その結果、証人、検事、子供達の身内等が当の子供達の気持ちも考えず大人の理由で真実を闇に葬り去ってしまい、明らかに”黒”である連中は、のうのうと町を歩く事を許されてしまいます。子供達が勇気を持って虐待を細部まで証言したにも関わらず、事の重要性を分っていない人々に踏み躙られてしまって誰一人報われない虚しさだけが残されます。
「僕が許してないのに誰が許すって?」
主人公から祖母が示談に応じたと聞いた少年が泣きながら手話でそう話すシーンには、主人公と同じくいたたまれない気持ちでいっぱいになりました。
実際に幼い子供達が演技をしていて、とても生々しく虐待のシーンが描かれているため思わず言葉を失うほどの嫌悪感を感じるのです。これでも充分苦しくてやり切れない内容なのに、実際には映画の2倍も3倍もこの学校の状況は悪かったそうで、あまりにも酷い虐待の内容から原作も映画も抑えた内容に修正するほどだったそうな.....
こんな酷い出来事が簡単に処理されてしまった事実が重く伸し掛かります。法律がここまで犯罪者を擁護するような事が許されて良いわけが無い。誰もが思わず正義感を振りかざしたくなるクソ具合です。
しかしこの映画は、その後が良い話。
映画が上映されたあと民意が高まり再捜査となって1人は実刑判決を受け、弱い立場の人々を護るべく法律も制定されて『トガニ法』と名付けられたそうだ。
人々の強い願いが悪い慣例を打ち破った瞬間と言える出来事だった事でしょう。
これは韓国での事件ではありますが、日本でもまったく無いとは言い難いと思います。以前に似たような事件もありましたし、結局お金や社会的地位と言う外面で全ては決められてしまう世の中なのですから。大統領制では無い日本でこれほど迅速に対応出来るかどうかにも大いに疑問符が付きます。
日本語では”坩堝(るつぼ)”と言う意味を持つタイトルを付けられた本作。
最後まで絶望的な哀しみに打ちのめされ、人々の欲望と欺瞞が渦巻く子供達の涙に満ちた坩堝でありました....
公式HP http://dogani.jp/
この記事へのコメント