陽子の旅の始まりから最新短編集までを読んで『十二国記』に想うこと

 待望のシリーズがとうとう再起動すると言うことで、その前哨戦と言える書き下ろしを含めた4編からなる短編集「丕緒の鳥」を発売日から間をおかず直ぐ様購入したのですが、せっかくなら最初から読み直そうと考え読み終えるまで新作は封印しておりました。

 しかし一旦読み始めるとシリーズは全部で11冊分(「魔性の子」は除く)あるので、ちびちび読んでいるだけだと時間が掛かる事掛かる事w 結局1月以上掛かって今までのシリーズを読み切りました。


 
 突然”誰か”がやって来て主人公を異世界へと誘う

 という展開はファンタジーの常套手段ですが、十二国記の一応主役である”陽子”の場合は、異世界への入り方が非常にリアリティに溢れているというか、非常に神である小野不由美さんに命懸けの勇気が試される事になります。

 迎えに来た男とはぐれ、見知らぬ異世界の住民にはことごとく裏切られ、執拗に自分を付け狙う”妖魔”と独りきりで闘いながら目的地も分らない旅を続け心身共にボロボロになってゆく陽子。こんなに苦しくて辛い始まり方をする異世界ファンタジーは、日本にそれほど存在しない事でしょう。読んでいて本当に苦しかった。

 しかし、この試される旅のおかげで陽子は様々な事を学び強く成長してゆく事になります。彼女が通った試練の道からは、僕達が実際に困難に立った時、どう考え尊厳を保ち続けるべきかと言うヒントが溢れており、再読した今回も襟を正す想いでいっぱいになりました。

 特に、僕が独りよがりな殻に閉じこもり誰かを責めたくなった時は、このセリフを思い出します。


 『裏切られてもいいんだ。裏切った相手が卑怯になるだけで、わたしのなにが傷つくわけでもない。裏切って卑怯者になるよりずっといい』


 他人に続けて傷つけられた陽子が、のちに無二の友になる”楽俊”さえ信用出来ず疑い裏切りそうになった自分を奮い立たせる為に口にするセリフですが、これほど今必要とされる思想があるだろうか?

 核を射つぞと威嚇し続ける隣国に怯えて軍備を強化したり、多くの贖罪を果たして来たにも関わらず、いまだに大戦での罪を想い出せと怒りの声をあげる人々へ子供のように喧嘩腰で言い返したり、相手が自らの品性を貶めているだけの行為にいちいち反応して、相手以上に品性を失っている日本人にこそ陽子のこの言葉の意味を胸に刻んで欲しいです。



 他にも十二国記の世界は僕らの世界が抱える問題と向き合うような要素が目を惹きます。たとえば”因果応報”と言う言葉がそのまま摂理になっており、国を治める王が道を誤ると国は自然現象から荒れ始め、いずれ王はその身を持って購う事になります。だからと言って善政が常に行われるわけでは無いけれど、無能な王にはちゃんと報いがあると信じる事が出来る為、幾分僕達の世界より救いがある。

 新たな生命が特殊な木に生ると言うのも面白い。ただ欲望に身を任せた結果から産み出されるのではなく、真に子を授かりたいと木に祈った者にだけ子供が出来るのです。これは本当に親に望まれて産まれると言う事なのだから、非常に幸せな生命誕生の仕組みだと言えるでしょう。育児放棄や虐待が増えて来た時代に、子を授かる事の意味にも思いを馳せてしまう設定では無いでしょうか?


 
 前にも書きましたが、僕の価値観を根っこから育ててくれた父が”田中芳樹”さんなら、母は”小野不由美”さんです。

 膨大な量の架空の設定から構築されている十二国記には途方もない冒険も溢れているけれど、その多くは僕達が抱える様々な問題や苦悩と同じ苦しみを持つ人々の「心」が描かれており、彼等の行動一つ一つから読者である僕らが受け取るメッセージがとても多い。 だから間違い無く小野不由美さんは僕と言う人間を育ててくれた恩師であり母なのだ。

 名も無き官や民が世界に翻弄されつつも誇り高く生きようと足掻く「丕緒の鳥」でもそれはぶれていませんでしたし、これから紐解かれるであろう物語でも小野不由美さんの真髄で在り続ける事でしょう。



 本当に十二国記と小野不由美さんにあの頃出会えて良かった。

 山田章博さんの絵に惹かれなければ手に取る事も無かったかもしれないので、山田さんの導きにも感謝の気持ちでいっぱいです。

 他にも沢山十二国記の魅力を語りたいけれど、キリが無いので止めておきます♡ (= ワ =*)


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 新潮社公式十二国記サイト http://www.shinchosha.co.jp/12kokuki/




関連過去記事

「小野不由美さんが帰って来た。「残穢」/小野不由美/新潮社/2012年/小説/感想」
http://lainblog.seesaa.net/article/299191803.html

「起き上がる原作の重み『屍鬼』/アミノテツロ/童夢/2010年/アニメ/感想」
http://lainblog.seesaa.net/article/260130585.html

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