絶望に囲まれた楽園にて「死の影の谷間/ロバート・C・オブライエン」/評論社/2010年/海外/小説/感想

 子供の頃、学研の『ひみつシリーズ』と言う色んな分野の知識や雑学を子供に分り易く漫画でまとめた本が好きで、それこそ背表紙から破れて来るほど何度も読んでいたのですが、そのシリーズの中でノストラダムスの大予言について書かれたものを眼にしてから何度も人類が滅亡する夢を見た。


 どうせ口から出任せな事を記しただけの予言書で、たまたま当てはまる部分を都合良く解釈した誰かの戯言なのだろうと思ってはいても、死への恐怖と滅亡への好奇心を抱いている自分がいたのです。あの頃はメディアも多いに1999年の人類滅亡の予言を煽っており、誰もが自分だけは生き残る気になって、なんの根拠も無い自信に基づいたお祭り気分でいたのでしょう。

 結局第2次大戦後に核戦争も起きず。巨大隕石も今のところ落ちて来る予定も無い。ゾンビがインフルエンザ以上の速さで広まる様子も無さそうだ。マヤ歴の2012年人類滅亡話は2015年に延期になったし、きっとこれからも延期を続けるつもりなのだと思われる。

 「今出ました〜!」

 の、出前と同じ原理で回っているのだ(白眼)



 兎にも角にも延期してでも人類は存亡と言うものを天秤に賭けず居られない生き物なのだ。冷戦やノストラダムスの予言などはただのきっかけに過ぎません。一つ不安が消えれば、また新たな不安を僕らは見つけてしまう。今回読み終えた「死の影の谷間」に出て来る男の愚かな行動もまさにそんな救いようの無い人間の見本のようだった。

児童書とは思えない重みで読み応えありました。



 物語の舞台は核戦争が起きてほとんどの人間が死滅してしまったアメリカ。たまたま核の影響から逃れる事が出来た集落に独り生き残り住んでいる16才の少女が、その集落に辿り着いた防護服姿の男との出逢いと別れの顛末を日記に書いたという体で物語は進み、少女視点の語り口調から伝わる緊張感や恐怖が独特な距離感で徐々に僕ら読者に届いて来るのが絶妙でした。

 もしかしたらここが唯一人が生きてゆける場所で2人しか生き残っていないかもしれないと言う異常な状況のなか、既に死人だらけの街を越えてやって来た防護服の男の過剰なまでの生存本能に少女の淡い期待が次々と踏み躙られてゆくのが実に切なくて恐ろしく、彼等のすれ違いが極限状態の生々しさを上手く表していて、命に重みのある本です。こんな重い内容の本が”エドガー・アラン・ポー賞”の児童書部門で賞を貰っている事は本当に驚きだ。

 苦いものを苦いと子供にオブラートに包まず伝えようと考えた当時のアメリカ人は凄いです。いつもの僕ならば、もしかしたら何かしらの政治的思惑があったのでは無いか?と、勘ぐってしまいたくなるところですが、今作は非常に読み応えがありましたし、それこそ野暮と言うところでしょう。

 こんなシチュエーションの物語は何度も眼にして来ましたが、少女と男のスリリングな生活や、放射能に関するディティールが思いの外細かく書かれている為、飽きる事も無く夢中になって読めました。訳者の方が聖書を引用しタイトルを付けたのも納得の新たなアダムとイブ像が非常に面白いです。



 ノストラダムスの予言が外れた後も、人類は心の何処かで今の繁栄の終わりが来る事を信じている。否、本能で知っているのかもしれない。

 救いようの無い人類に、本当の意味での平穏はいつ訪れるのか?そんな事をぼんやりと思ってしまう読後感でした.....

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