きみを裏切ることができるのは、きみだけだ『ヘルマフロディテの体温』/小島てるみ/ランダムハウス講談社/2008年/小説/感想

人間に限らず、多くの生き物が『性別』を持って産まれて来る。「男」、もしくは「女」として。

しかし、どうして性別が分かれてしまうのか?一度くらいそんな風に疑問に感じた事は無いだろうか...

月並みに「生存本能」の結果だと答えられても、はいそうですかと簡単に納得も出来ない。♂♀の交尾が無くとも子孫を残す種族はいるからだ。

だから、人間だってこの先どうなるかは分らない。もしかすると性を自由に横断出来る進化を遂げ、誰でも自らの内へと子供を宿す時代だって来るかもしれない。

この本は、そんな人類の進化にまで踏み込んで、性の在り方に翻弄された者達を綴った物語です。



舞台になるのはイタリアのナポリ。特にスペイン地区ではトランスセクシャルに寛大なのだそうだ(あくまでも作中での説明では)

地元を出てナポリの大学へ入った主人公”シルビオ”は、ナポリで有名な性転換を行う医師でもある、Z(ゼータ)教授が大嫌い。Z教授の講義中もムキになって噛み付いてばかり。大好きだった母親が性転換で男になり、彼の元から去ると言う哀しい経験をして来たため、その道のプロであるZ教授の考えを受け入れられないのであった...

「自分を産んだ性別を捨て、何故男にならなければいけなかったのか?」

そんなやるせない想いをウチに溜め込んでゆくうちに、彼は独りきりで女装をするようになっていた。母親そっくりな自分に興奮しながら淫らな事までしてしまう彼の女装はエスカレートし、とうとう夜の街へ歩き出すのだが、速攻で貞操の危機に直面!間一髪通りかかった人に助けられたのだが、その助け人は大嫌いなZ教授だった....

一番知られたく無い自分を、一番知られたく無い人物に知られた主人公。Z教授からバラされたく無かったら「フェミニエロ(女になった男)の起源」を見つけてこいと言われてしまうのだが...





そんないきさつから、シルビオ君はZ教授の出す問いに答える物語を書き上げるため、女になった者達『フェミニエロ』について調べ始めるのですが、調べれば調べるほどに性を横断する人々の体温に魅せられてゆきます。彼の綴る異形の愛は、儚く切なく動物としての本能が熱くなる。まるで自分が実際にナポリでフェミニエロの起源を辿る旅をしているかのような感覚にもなります。て言うかナポリ行きてぇ!! 

旅を続けるうちに、シルビオ君はZ教授とのやり取りで母親と向き合う勇気を手に入れてゆきます。彼の旅を後押しするZ教授のセリフもたまらない。物語は清々しいほどに美しく着地します。偏見を捨てて物語に耳をすます事が出来るなら、今作は感動と解放を与えてくれます。特にこの手の悩みを実際に持っている方は必見でしょう...



正直、身に覚えがある僕としては、非常にグサッと来ました。第三者としてではなく、当事者としてZ教授の手解きを受けているかのような感覚です。何故自分があんな事をしてしまうのか、本当に合点がいきました。今度は僕自身が答えを出さなければいけませんねw

今回、積み本していた”小島てるみ”さんのもう一冊のデビュー作である「最後のプルチネッラ」を読む前に、「ヘルマフロディテの体温」を再読して良かった。デビュー作の発売から既に4年以上経過し、それ以降まとまった書籍が発売されていない”小島てるみ”さんの素晴らしさを想い出せたから。


今度こそ「最後のプルチネッラ」を読もう。このまま新作がもしも発売されなくても、悔いが残らないように味わいながら...

何度読んでも素晴らしい。

※山本タカトさんの表紙も素敵ですよね♡

小島てるみさんのブログ http://terumiojima.jugem.jp/

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