「覇者と覇者/打海文三/角川書店/2008年/小説/感想」

 久しぶりの連休が終る日曜の午後、僕は久方振りにゲームもテレビもパソコンも触れず本を読んでいた。しかし、その本は未完で最後まで描かれてはいない。

 それが分っていても、読まずにはいられない作品でした....


 舞台は内乱が続く現在より少しだけ未来の日本。主人公はその内乱で父親を亡くし、母親とも生き別れてしまった少年。彼には弟と妹がいる。両親を失った時、彼はまだ7才、妹は4才、弟は2才だった。

 そこから彼は家族と共に生きるため、なんでもした。残飯をあさり、ボロボロの小屋を建て、タバコを売り歩き、食堂で働いた。その働きに目を留めた人々との出会いが彼を支え、家族を支えた。

 そんな彼に、不条理な世界が黒いを手を差し伸べて来る。自分が望む未来とは違う世界へ引きずり込まれ、いつの間にか後戻りが出来ない戦場まで、彼は辿り着いてしまうのです....


 これがこの作品の半分で主人公を努める少年の冒頭。そして残り半分を狂気とも思える陽気さで戦争を戦う双子の少女が努めます。彼女達は上記の少年とは違い、今、この瞬間を楽しむ為に生きています。大事な命が消えてしまった事にさえ執着しない剛胆さは、ある意味女性の精神的なたくましさと危うさを見事に描いており、少年の物語とは対照的なノリが常に流れています。

 三種タイトルの単行本、前後編合わせて6冊になるはずだった物語は、最後の6冊目3章途中で終わりを向えています(五冊目最終巻に収録)。前編は少年の詩的にも思える切ない戦場模様を描き、後編は暴力と性に貪欲で「お前が罪を犯すなら、私も罪を犯そう」が売り文句な女性マフィア”パンプキンガールズ”の生き様を見せ付ける。この2つに書き分けた物語構成がとてもバランス良く、少年の戦う不毛な戦場の殺伐さに食あたりを起こさず、パンプキンガールズが最後まで微笑みが絶えない読書時間をくれました。

 もちろん前後編ともに沢山の人が死んでゆきます。これは、もしも日本で内乱が起きたなら?という仮定に基づいた物語ですから....敵対する相手や、彼等、彼女等の大切な人だって次々と倒れてゆく。

 そんな空しい情景と共に、どうやって内乱が起きたのか、その背景にある世界情勢を含め事細かに描かれた戦場の流れは、架空の歴史として凄まじい説得力を持ち、まるで本当の内乱に立ち会っているかのようでした。

 特に、戦争の始まりから終わりにかけて、戦時という特殊な状況下において、あらゆる思想や差別がどう影響してゆくのかという過程が、生々しく伝わって来ます。孤児の部隊の問題、ゲイなどの性的ジェンダーの問題、女性の武装組織の問題、マフィアの抗争問題、男根主義を唱える軍隊との問題、戦争と言う狂乱が無ければ、それほど浮き彫りになるはずの無い世界がどんどん現れ、僕の心を揺さぶりました...


 僕達が知る由もない、戦争...しかし火種は世界中に存在している。この日本だって、話し合いで利害を調整出来るうちは落ち着いていられるだろうけど、いつかは命を賭けて護らなければいけない時が来るかもしれない....そう恐怖する感情がある反面、彼等、彼女等の生き方への憧れが僕には存在する。

 僕だけではなく、本書を読んだ者全てが、戦場を仲間と駆け抜けいつの間にか軍の中で大きな存在になってゆく少年の戦いに、陶酔した冒険心に火をつけられてヒロイズムを感じるだろうし、自分の欲望に素直な双子の奔放な性生活は、禁欲的なルールを押し付ける日本の社会を生きる人間にとって、理想的な欲望の形を実践しているわけで、憧れる思いを隠す事は出来ない事でしょう...

 

 残酷な世界に抱いてしまう憧れ...人間(僕)は、つくづく救われない生き物ですwそのうえ、こうして読後の余韻を味わっている最中でさえ、貪欲に次に読む本の事を考えてしまう。まるで、戦いの情景が忘れられず何度も戦場に戻ってしまう軍人のようですね....


 享年59歳、心筋梗塞にて亡くなられた”打海文三”さん。彼が残した「応化戦争記シリーズ」は以下の通り。

 「裸者と裸者上下巻」角川特集ページ http://www.kadokawa.co.jp/sp/200409-08/
 「愚者と愚者上下巻」 http://www.kadokawa.co.jp/sp/200609-03/
 「覇者と覇者」

 ※覇者と覇者だけ文庫版無し

 
 個人的に”男の子”には読んでもらいたい。自称男の子でもかまわないw泥臭く血にまみれた戦争を、詩的に書き切ろうとした本書に是非触れてみて下さい....
 
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