僕の元に晴れ女は訪れそうにない...「天気の子」新海誠(監督)/感想

どれほど分厚いオブラートに包んでも無意味なほど苦々しい年に終わった2020年。2021年になっても相変わらずニュースはコロナコロナとやかましい。

正月に出歩かない人間としては、世の中の流れに関係なくいつも通り自堕落な年末年始を過ごした。辛うじて人としての営みを維持しつつも、年末にやることはやったから良いのだとぐだぐだだっだ。正直、退屈と言えば退屈だったかもしれない。ゲームやアニメ、お正月の特番やYouTubeの配信を楽しんでいる時でさえ、どこか物足りなさを感じ、睡魔にあっさり押し倒されていた。

日頃欲しがっていたはずの物が、いざ手に入った途端、扱いが雑になってしまうのは何故なのだろう?そうこうしているうちに連休最終日も終わりなのである。これではまるで、一気に貰っても使い過ぎてしまうから、必要な時に使う分だけお小遣いを受け取るシステムじゃないと駄目な子みたいではないか。実際そうなんだろうけれど......

でもまあ、最後にこの作品を観れたことだけは、なんだか悪くなかったかもしれない。






主人公は家出少年の16歳。東京行きの船の甲板に出て雨降りに喜ぶくらいのお上りさん(田舎者)スマホ片手に東京までやってきて、Yahoo知恵袋に頼ったり、ネカフェで寝泊まりして仕事を探すも上手くいかず、都会の洗礼を受けてしまう。

そんな彼が少女と出会う。連日ロクな物を注文せずマックで過ごしている彼を見かねてハンバーガーをご馳走してくれたのだ。そこからは雨雲が晴れたかのように彼の生活は一変する。船で出会った男に住む場所と仕事を貰い、必要とされる喜びを手に入れ、少女とも親密になって行き100%の晴れ女である彼女の特性を生かした仕事を一緒にやり始めるのだが、そう楽しいだけの日々が続くわけもなく....と云う話な天気の子。

まず最初に思ったのは、RADWIMPSによる劇伴が以前より良くなったなと云うこと。明らかに音の重厚さが違うし、挿入歌の殆どが女性ボーカルであることも、本作には合っていたような気がした。今回の方が映画の為の音楽になっているのは間違いない。いまいち家出の背景が見えない少年や、悪い大人から手っ取り早く金を手に出来る仕事を持ち掛けられて断れずにいるヒロインに苛立ちを覚えつつも、終盤まで見守り続ける気力が持続出来た理由の一つでもある。

音と言えば雨音も綺麗だった。終盤の展開は見飽きてきた部分もあるし、セリフも実写映画を観ているかのように小っ恥ずかしいところがあるが、綺麗と云う点だけは本当にブレない新海映画。降雨量が多過ぎて洪水になっているのに何故か透明度が高い水の描写だけじゃなく、錆びた手摺りや「君の名は。」の隕石落下シーンに負けないくらいの激しい天候描写までとても綺麗に仕上がっている。彼には洋ゲーでよく見られる薄汚いトイレなんかは描けないことだろう。それは大きな武器ではあるけれど、ある種の物足りなさでもあるかもしれない。本当の意味で観賞者の嫌悪感を煽ることが新海誠には無理だと云うことなのだから。



口噛み酒のような例もあるが、これまで彼の特徴であったはずの悪癖は、今の製作環境が続く限り、まずそのまま表に出てくることは無いだろう。ただ本作で、そこはかとなく懐かしのエロゲーを連想してしまったと云う声が多数飛び交ったことを鑑みるに、絶妙なバランスで彼の作家性は維持出来ているのかもしれないなと思った。ぶっちゃけネタバレとか心配するような内容でも無いと思うので書いてしまうが、元々壊れている世界なのだから壊れたままで良いじゃ無いか、俺たちの気持ちの方が大事だよと辿り着く辺り、前作より彼らしいと思えなくも無い。

都会で足掻く人に焦点が合っているので、全く涙は流れなかったが、若者から老人まで、現代を生きる人たちの生の声がねっちょりと頭蓋に張り付く後味はなんとも言えないものがあった。ヒロインを明らかな年上に設定し、能力があるのかと思ったら実は気のせいだったくらいの現実的なストーリーでじっくりやっても良かったような気もするが、これくらいの余韻が残せるなら十分良い出来なんだろう。可愛らしい猫や弟くん等を愛でることが出来るのでキャラ見優先の人にも刺さるし、自前のネギの使用やスナック菓子を活かした生活感ある料理風景の細やかさでも唸れるし、君の名は。との繋がりもあるからファンサービスとしても申し分ないと云える。



しかしまあストーリーとセリフは本当に臭かった。懐かしの実写ドラマのテイストを其処彼処から感じてしまった。あまりにも臭いので、感動のシーンでも涙腺が冷めきって泣けやしないのだ。現代の生臭さをこれでもかと見せているので、あえて笑って乗り越える2人にしたかったのもあるのかもしれないが、明らかに泣かせにきてるのは間違いないシーンでも泣けないのは欠陥なのではないだろうか?

ただ、若くも無ければ、都会とは程遠い土地で生きている自分にとって、主役に共感するのは難しくて当然かもしれない。不可思議な事象に遭遇した少年相手に、それぞれがやるべきことをやろうと立ちはだかる様子の方が余程親近感が湧くというものだった。

俺より年上である新海誠は、どうやってこの若者の感覚を生み出しているのだろう?次回作もやはり男女の物語になるのか?

良くも悪くも動向が気になる男である。




果たして天気の子は、どれだけの人の心を覆う雲を払うことに成功したのだろう....








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posted by lain at 02:38北海道 ☔アニメ