見なかった人におすすめする春アニメの話

もう7月も半ばだと云うのに、まだ夏アニメを一本も見ていない。一本もだ。


とうとうアニメへの気持ちが途切れたのか?と云うと、そういうわけでもなく、単純にコロナの影響で夏アニメにスライドしてしまった作品が多かったから、ゆっくり見ていても大丈夫だろうと油断したせいで遅れを取り戻せなくなっただけの話である。



そんな訳なので、既に全て見た人は生暖かく、春アニメ全然見れてない人は参考程度に読んでもらいたい。




まずはサクッと異世界転生物の話でもしよう。いよいよネタが尽きて来て、色物な作品しかアニメにならなくなって来た感がある中、それでもまだこんな手があったかと思ったのは「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」だったかもしれない。生前親友の影響でプレイした乙女ゲームの悪役令嬢に転生した主人公が、必死に破滅エンド回避のため奮闘すると云う作品なのだが、男女を問わず誑し込んでしまう主役の裏表の無いキャラ付けがなんとも小気味良く出来ていて、中の人である内田真礼の無邪気さが凄くフィットしているなぁと思った。もしも破滅を回避出来なかったとしても生きていけるように、まず畑仕事を学ぼうとする辺りも斬新だった。同時期に放送を開始した「八男って、それはないでしょう!」も、転生先に難を抱える作品で、もしかしたら化けるかもと見ていたが、作画だけに留まらない質の低下が顕著で本当に残念だった。金がかけられない作品だったとしても、「本好きの下克上」のように演出で乗り切ることだって出来るはずなのだ。八男の原作の出来は読んだこともないので知らないけれど、アニメ版の制作に問題があったのは間違いないだろう。



男も

女も関係なく無自覚に誑し込むカタリナ......



八男とは真逆に作画が良かった作品を挙げるとするならば、これまた三つある。人類がミミナシと云う脅威に晒されている世界観の「LISTENERS」と、無料ゲームのタイアップ作である「プリンセスコネクト!Re:Dive」と、獣人が人類に迫害されている世界の話の「BNA」だ。LISTENERSは激しい動きより雰囲気とカメラアングルを大事にしている感じで、荒唐無稽でありながらも現代人を揺さぶるテーマが存在するお陰で一本筋が通っており、もっとこの二人の旅が見たいなと思わせてくれた。そしてダークホース的な活躍を見せたのはプリコネである。原作ゲーム愛を携えた”勢い重視”が見事で、元ネタを知らない自分でもしっかり堪能できた。止め絵とのバランス感覚も良く、Cygamesが立ち上げたアニメ制作会社がちゃんと機能しているのが見て取れた。流石は「このすば」監督の金崎貴臣さんである。キャラ萌え大好きな人達には、最早宮崎駿や新海誠以上の存在になっているやもしれない。

ちなみに三つ目に挙げたBNAも、そんじゃそこらの作画ではない。ぶっちゃけ人件費足りてる?と心配になるほどに良く動いていた。ほんの少ししか出番の無いキャラやメカの動きも嘘みたいにテキパキ動くから、テンポの小気味さが快感でしかないのだ。金崎さんも相当だが、”TRIGGER”&”中島かずき”の信奉者は更に上を行くことだろう。獣人が隔離都市で生きていると云う設定の妙もさることながら、そこに生きる物達を観客が愛おしく思わざる得ない作りが秀逸だった。ケモナーや百合好きにも断然オススメな一作。








他にも鉄板の面白さだった「かぐや様は告らせたい」の2期や、懐かしのもどかしい恋愛物である「イエスタデイをうたって」、ダメ男に弱い破天荒な女性が深夜ラジオのパーソナリティデビューする話の「波を聞いてくれ」なども大変楽しんだわけだが、本当に1本だけ春アニメの中から選ぶなら「かくしごと」かもしれない。





妻を失った男が、一人娘に漫画家であることを秘密にしたまま生活を続けると云うハートフルコメディで、「なんで隠さなきゃいけないの?」と聞くのも野暮なほど、主人公に自分を投影した作者である久米田氏の心境が透けて見えてくるのがなんとも良かった。バレないようにしながら、ちゃんと漫画を描きつつ娘のためにも全力を尽くす姿は萌えの対象ですらあった。

彼の愛が向かう対象である娘の”姫”ちゃんも本当に可愛らしく、独特なギャグセンスと云うか、少し他人とズレた感性の持ち主なのが、また非常に魅力的だった。そりゃぁこんな良い子を相手にしていたら、俺でも下ネタ漫画を描いていることを話せんだろうなぁ....と思った。にしても、勘違いから展開する久米田さんの笑いの表現の巧さたるや、アイスホッケー部でお寒いギャグをやっていた頃(伸びたカップヌードルになんの意味があるのか、当時は分からずに読んでいたなぁ.......)とはえらい違いである。アニメ版の構成の良さ(姫ちゃんが10歳の過去話に、お父さんに何かが起きたことを匂わせる18歳編を小出しにしていた)もあって、何処か詩的な香りが漂う余韻がたまらなかった。EDに大滝詠一さんの「君は天然色」を選んだことも大正解だ。







作画、構成、声優、音楽、etc....トータルで考えてこれ以上の春アニメは無いと言い切りたくなる仕上がりだった。スタッフの気持ちが乗っている作品と云うのは本当に見ていて気持ちが良い。村野佑太監督のこの先も楽しみになった。劇場には行かなかったが、「ぼくらの7日間戦争」のアニメ版にも興味が湧いた。どんどんベテランの監督や声優がこの世を去ってゆく昨今、ちゃんと次世代は育って来ているものである。大御所のようには出来なくとも、彼らには彼らの美学があって頑張っているのだから応援したくなると云うものだ。





さて、夏アニメは何処から紐解こうか?.......
posted by lain at 07:05北海道 ☔アニメ

笑えない時に笑わなきゃいけないのが人生過ぎて笑えない.....「ジョーカー」トッド・フィリップス(監督)/ホアキン・フェニックス(主演)/感想

人間と云うのは、忙しくしていると余計なことを考えずに済む生き物で、生き甲斐らしい生き甲斐が無くとも突っ走っている間は普通に生きていける。しかし根本的なことは解決していないから、一旦脚を休めてしまうと現実に押し潰されそうになり、それを払拭するのは容易ではない。そういう意味では、生きることに必死で自分の存在がどうのと云うことが二の次だったひと昔前の方が、よほど幸せな社会だったのではなかろうか?






主人公のアーサーは、コメディアン志望の道化師。道端で閉店セールの看板を持っていれば地元のガキ共に襲われたり、病気のせいで極度のストレスに晒されると突然笑い出してしまうからトラブル続きの毎日。憧れの人や、実の父親らしき人からもコケにされ、現実が彼を追い込んで行き最後には......と、いかにしてバットマンの”ジョーカー”が誕生したのか?が描かれる作品だったわけだが、聞いていた通りバットマンの系譜として見るより、独りの男がいかにして社会の闇を代表するような存在になって行くのかを目撃する作品として見るべき映画だなと思った。

それでなくとも承認欲求溢れる現代社会。何をやっても裏目に出たり、誰かの価値観を押し付けられたり、レッテル対レッテルの不毛さに辟易させられるなんてこともざらだ。正直社会に責任転嫁して暴発する人間など迷惑なだけだと思っているが、それと同じくらいジョーカーのしでかした事を他人事には感じなかった。いつの間にやら来る日も来る日も、本音を隠して笑う毎日を過ごしている自分にとって、病気ではあっても笑えない時に笑うアーサーのしんどさは身に染みている。だから明日は我が身それくらいに思わされる切実さがあったのだ。文字通り身を削り役作りをしたホアキン・フェニックスと、彼を見事に活かしたトッド・フィリップスには最大級の賛辞を送りたい。これくらいの本気を日本の若い役者にも見せてほしいものだ.......





自分は運が良い方だろう。せいぜい安月給に見合わない責任を押し付けられたり、この先の親の面倒をどうみたら良いかと云う不安や、家族以外に親しい人をほとんど持ち合わせていないことくらいしか、悩みらしい悩みはない。日に日に衰えは感じるが身体もなんとか保っている。しかしそれだけで満足出来るほど、無欲では無いことを、この作品は思い知らせてくる。僕は確実にアーサー側の人間で間違いない。にしても、うっかりこの映画をカップルで観に行ったリア充共は、どんな顔で劇場を後にしたのだろうか?憐みの目でアーサーを見守ったのだろうか?


僕は彼を憐みで見たくなかった。彼を憐れんだら、自分を憐れに感じるのと同じだと思うから....





posted by lain at 16:50北海道 ☔映画