焼け野原に残った心「野火」塚本晋也(監督)/BD/感想

もしかするとアメリカの大統領になってしまうかもしれない男が、在日米軍の在り方についてケチを付けるなど、いよいよアメリカの手から離れご近所の国との付き合い方や自前の軍隊による自衛への道を模索しなければならない時が来ている日本ですが、闇雲に法整備を行い武器や自衛意識を育てても悪戯に命を粗末にするだけであるし、まずは戦争を起こさないために何をすれば良いのか?と、本心から思えるような"体験"が戦場を知らない僕らには必要な気がする。

ただ一言に”体験”と言っても、実際に戦争状況を作り出すのでは元も子も無い。もしかしたら将来的には本物の戦争でしか埋める事が出来なくなっているかもしれないが、幸か不幸か我々は被爆国という経歴と、本当の経験では無い物をさも本当の経験のように受け止めることが出来る豊富な想像力を持ち合わせている。実際に誰かの命を奪わずとも、人殺しと呼ばれるリスクを想像することで無用な経験を回避出来るように、戦争だって起こす前にちゃんと考える事が出来れば避けられるはずなのだ。

ところが、昨今そうした戦争に対する嫌悪感を煽るようなオカズがまるで足りていない。映画やアニメ、書籍に至るまでいつの間にか自分だけは綺麗なままという都合の良い陶酔を売りにした物で溢れていた。しかもそれらが軒並み大ヒットしていたりするからやり切れない。最早誰も苦い薬を飲みたく無いかのようである。口当たりの優しい嘘に逃避し、口先だけ好戦的な人も居れば、虎の威を借る狐と揶揄される事に腹を立て、自国の実力を過剰に見積もり"緑の人達"に今こそ給料分の働きをさせようと躍起になっている人も居る。なんだか今の日本は誰彼構わず戦いたくて仕方ないように感じて落ち着かない。



 内臓から嗚咽が溢れ出て来るような後味の悪さを植え付けてくれる”塚本晋也”版「野火」の鑑賞をいっそ国民に義務付けて欲しいくらい戦争が風化して行くのが怖い。けして塚本晋也監督の熱意に絆されただけでは無く、僕の実感として戦争の痛みがこのまま麻痺してしまうのは絶対駄目だと思うのだ。

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肺を患い戦場をたらい回しにされる主人公

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罪深い人間達も、自然の一部だと感じるカットが実に多い


 
 「野火」の主人公は地獄のような場所から敵国の温情により生き残るが、甘っちょろい陶酔さえ許され無い心傷も残ってしまう。苦しみ、悲しみ、怒り、様々な想いが入り混じった渇望が彼を襲い、一言の言い訳も語りも無く自らを苛む”儀式”で映画は終わる。涙を一切赦さない物凄い映画だった。この映画を観て数ヶ月は他の映画を劇場で観る気にならなかった。

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生に振り回される人・人・人...





 個人主義が台頭し、自分を褒めてくれる人ばかりを求める今の時代では、こうしたストイックな内容はしんどいだけで見たくも無いと言われてしまうに違い無いが、一見に思える物ほど自分の為になることが多いのも世の常だ。同じ様な風景ばかりを眺めず、様々な人達の想いに触れてみて欲しい。それから戦争という物の扱いについて考えても遅くは無いことだろう。



約1時間に渡り塚本晋也監督が製作の裏側を語るBD特典のドキュメンタリーに至るまで隅々鑑賞して、改めて人が人を殺す状況にだけはしてはならないと思った。

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posted by lain at 07:28北海道 ☔Comment(0)映画