素敵な不幸、要りませんか?「昨夜のカレー、明日のパン」渡辺ペコ(漫画)/木皿泉(原作)/幻冬舎/感想

物語というやつは、大抵嘘っぱちの作り物だ。どれだけ客観的に作られていようとも、形にする為の手順を踏んだ段階で、どうしても何者かの作為が働いてしまうからだ。極端な話、ドキュメンタリーでさえ例外ではありません。カメラを向ける者、向けられる者が、どれだけ意識せずに行動しようとしても、そう易々と互いを意識の外へ追い出せるものでは無いのです。

いっそ対象に許可を得ず、完全なる盗撮をノーカットで収めたならば、本当の意味でのドキュメンタリーが成立するのかもしれないけれど、それはそれで別の問題が起きてしまうし、第一テンポが悪い上”見たく無い(見せたく無い)”物まで露呈しては洒落になりません。虚構でも真実でも、僕らが望むのは”それらしい”物であって、”それ”そのものである必要は無いのです。”真実はいつも一つ”だなんて言ってる名探偵も、結局のところ誰かが望む物を提供するサービスマンですしね。

そういう意味で言うと、本作を書いた”木皿泉”さんと、本作を描いた”渡辺ペコ”さんは優秀なサービスマンなのかもしれません。


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この話を端的説明すると、一人の男がさっさとくたばって、彼と関係のあった人達がそれぞれの気持ちを整理するかのように過ごしている、何気ない日々の一コマ一コマを味わい深くオムニバス形式で描いた作品です。一人目の主人公は、くたばった男の妻で、義父と二人暮しのテツコさん。大して親しく無いご近所さんと虹を見て笑ったり、お付合いしている男性のプロポーズを躱したり、変わり者の義父とたわいも無い会話を楽しみつつも、旦那を喪ったショックを引き摺る女性。独特のセンスを持った困った人だが、何処か愛らしい。

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死にゆく人を看取った者だけが口に出来る重いセリフ

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他人と少しズレた道徳観念が魅力的




二人目は男の幼馴染でご近所さんの女性。三人目は自分に無い物を持っている男に憧れていた従兄弟の青年。そして最後には......といった風に、様々な人の視点で一人の男の死と生が描かれて行きます。

なんていうか、感情の抜け具合がとても良いなと思いました。胸にぽっかり穴の空いた人間の表情が凄く”それらしく”見えるんです。

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ぶっちゃけ生き死に翻弄される人々のドラマなんて使い古されていて、今更何も驚くべきことは無いのですが、これだけ丁寧に優しく嘘を扱われたら、流石にじんわり来る物がありました。脚色とリアリティのバランスが上手いので、ベタであっても安っぽくなっていません。テツコさんと大事な時間を過ごす男二人や、死んだ男への愛おしさが自然と湧いて来ます。甘みの足りないスイカに塩をかけるように、程よい不幸は人生に必要なのかもしれない。

恋も結婚も別に絶対しなければならない物では無いけれど、こんな素敵な不幸に胸を締め付けられると、やっぱりいつか、誰かと........なんて思ってしまう今日この頃でありました...........

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posted by lain at 07:00北海道 ☔Comment(0)漫画