吊るされた先で生を得る者達「絞首台の黙示録」神林長平(著)/早川書房/感想

僕らは毎日生きている

何を根拠にそう感じるのか?それを不思議にこそ思えど、実際にこうして腹が減り、疲れや痛みを感じていれば、自然に自分は”生きている”と思えてくる。

しかし、なかなかに人間の意識というのは脆弱なもので、外的要因により簡単に揺らぎ、自分がこうと思い込んでいるセンシティブな部分を、誰かに精確に指摘修正されでもしたら、あっという間に防衛本能が働き心を閉ざそうとする。

本作はまさに、そんな自分の防衛本能を擽るモヤモヤに溢れていた。


自分を引っ掻き回され続けてモヤモヤするものの、断片が綺麗に繋がっていくような幕引きが厳かで良かった



長野県松本で暮らす作家のぼくは、連絡がとれない父・伊郷由史の安否を確認するため、新潟の実家へと戻った。
生後三カ月で亡くなった双子の兄とぼくに、それぞれ〈文〉〈工〉と書いて同じタクミと読ませる名付けをした父。
だが、実家で父の不在を確認したぼくは、タクミを名乗る自分そっくりな男の訪問を受ける。
彼は育ての親を殺して死刑になってから、ここへ来たというのだが……

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初めての神林長平作品がこれで、少し失敗したような気がしてしまった。無論作品の善し悪しの話ではなく、文章の構成、言葉選びに慣れるまで時間が掛かったことや、内容が内容であったため、あまりに理路整然とした言葉による責めに、辟易してしまった面があったからだ。

 冒頭の死刑囚の心理描写の強烈さが終わったかと思えば、今度は自分そっくりの人間と出くわした男2人の堂々巡りな問答を突き付けられたから、当然心を揺さぶる言葉遊びがこの先も展開されるであろうことは早い段階で理解出来たものの、もう自分が推測していた範疇を軽く飛び越えるほど神林長平さんの理論(理屈)武装は凄かった。詐欺師を目指す者なら、まずSF作家に学べと言いたくなるほど、真実と思われる情報と、それと気付かせない嘘の混じり合いが絶妙で、かなり自分が引っ掻き回された。

 一つ真実が見えたと思ったら、また一つ謎が生まれる本書を読むということは、まるで科学の進歩の姿を見ているようで不思議。一から十まで綺麗に整っているかと思えば、ちゃんと受け手一人一人が解釈出来る余地も残されているし、科学的にも宗教的にも相当掘り下げられているので、行き当たりばったりで書けるような本では無いと、つくづく思わされます。





 長年物書きをして来たプロの胸元に飛び込むことが、どれだけのわくわくと恐怖を与えてくれるか、身を以て知った気がします。観光気分で戦場へ赴き、いきなりキルゾーンへ飛び込んだようなものでした。正直、初期作品から入った方が良かったかもしれません。



人が人であるのに、何が必要なのか?

生きるとは?死とは?

作家ならば誰しも極めたくなるこのテーマは、とても面白かったけれど、ここに至るまでの神林長平を知らずして、読むべきでは無かったような気がしてならないのです。


まあ、逆に、ここに至った経緯を紐解くつもりで過去作品に触れるのも、読書の正しい形かもしれないけれど....


posted by lain at 07:17北海道 ☔Comment(0)小説