我こそは次代を担うSF作家だ!そういう気迫が心地良い「伊藤計劃トリビュート」早川書房

 ゲームに海外ドラマに浮気し放題で遅々として進んでいないものの、4編読み終えて思ったのが、やっぱSFは小説というカテゴリーの中で、一番可能性に満ちた存在なんだなということでした。

 SFの多くが”近未来”を扱っているからそう感じるのではなく、たとえばストーリーの基礎となる物が、有り触れた愛についてだったとしても、様々なSF要素で装飾することにより、如何様にも愛が変貌するから面白いと感じるのだと思います。それはさながら、なんの特徴も無い顔に化粧を施すことで、無智蒙昧な男共をおびき寄せることが出来る女性の恐ろしさのようでもありますね。SF作品は雰囲気を楽しんでいる面が強いので、尚更そう感じるのかもしれませんが。

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映像化でどれだけ伊藤計劃に肉薄出来たのか、色んな意味で楽しみですね




 これまで伊藤計劃さんが日本のSF界で、どのくらい評価されている人なのか、あまり知らずに来ましたが、何十、何百とはいかなくとも少しはSFを読むようになった今、伊藤計劃トリビュートに参加した人達の座談会やトリビュートを読んでいると、どれだけ同世代のSF作家達に意識される存在だったのかを実感するようになりました。

 この人には敵わ無い。この人には負けたく無い。そんな維持や嫉妬綯い交ぜの愛憎が作家達にペンを持たせたのか、トリビュートに収録された作品は軒並み伊藤計劃作品に寄り添ってみたり、あえて遠ざかってみたりしているのが目に付きます。最初からトリビュートであると、読者も作家達も意識しているのだから当然なのかもしれませんが、何処か伊藤計劃さんの練り上げた世界と地続きで繋がっているようにも感じます。学者が論文で他の学者と繋がるように、SF作家同士も作品で横の繋がりが広がってゆくものなんでしょうね。

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この座談会タイトルはズシリと来ます....




 モロに伊藤計劃さんに対しラブレターだか果し状だかを突きつけているような”藤井太洋”さんの「公正的戦闘規範」(キレッキレのタイトルが一番痺れるw)は、中国が今やSFにとっては避けては通れない場所になったことを思い知らされるディティールでしたし、”伏見 完”さんの「仮想(おもかげ)の在処」では、産後鳴き声をあげることなく亡くなった自分の双子の姉が仮想空間で生かされていることに対する妹の複雑な心理に伊藤さんの『ハーモニー』の愛憎が何故かダブって見えて面白かった。

 そしてもう少し未来の話でありながら、今となんら変わらない大多数と少数の構図から産まれる悲劇を、”柴田勝家”さんの味付けで『虐殺器官』の1.5倍おセンチにしたような「南十字星」も良かったけれど、それ以上に”吉上 亮”さんの「未明の晩餐」がすこぶるグルメSFで楽しかったです。

 大規模な気候変動で様相が変わった日本らしき土地で、死刑囚を乗せて走る列車があり、その死刑囚達が自発的に死刑を受け入れられるように最後の晩餐を用意するのが主人公の仕事であるというだけでご飯が何杯かいけそうなんですが、主人公が食料の調達や調理をする際の細やかな描写が本当に凄かったです。おかげで食欲を超えた先に待つ食の残酷さを痛いほど味わえました。ただ調べ上げたことを羅列しているのではなく、淀みなく流れを活かしてウンチクを披露しているからすんなり作品世界に入っていけたんです。

 ちょっと硬い話口調な主人公ではありましたが、その分訳ありの子供達が可愛らしく動き回っていて登場人物のバランスも良かったです。上記の3人が生粋のSF作家だとするならば、吉上さんはどちらかというと半分だけSF作家な感じなので、読み易さも格段に違いました。自分の書きたい欲求と、お客さんの望む物を上手く融合して提供する辺り、吉上さんはこの作品の主人公に少し似てるのかもしれませんね。






 ガッチガチの近未来SFから、詩的なSFや隠し球みたいなSFまで、もう結構お腹がいっぱいになって来た気もしますが、後半更に強力そうな作品が待ち構えていそうなので、残りの4作品もしっかり楽しみたいと思います(=3= )v

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ページ総数700頁越えなので、ブックカバーで守り切れないという罠....w

posted by lain at 07:07北海道 ☔Comment(0)小説