凶器には愛と憎しみを「奇人探偵銀鼠」高口里純/ぶんか社

60代、70代が当たり前に活躍する今の時代、57歳にして現役漫画家であることも、別段特異なことでは無いのかもしれないが、描かれた作品にちゃんと人を惹きつけるだけの力が有るのは特別なことな気がする。無論アシスタントを雇ってはいるのだろうけど。

54DFA039-9E75-4A82-8236-174B180C41E1.jpg


”舞台は明治時代。一見親しげながら、笑顔で人の秘密領域に踏み込む男が、今日も警部の元に顔を出す。
不可解な猟奇事件に挑む、彼は探偵「銀鼠」。
奇妙なる探偵が、常軌を逸した看破で、事件を解決に、時にはさらなる迷宮へいざなう……。”



自分の知性と釣り合わない事件に割く時間など一切無いと言わんばかりに、依頼人を無下に追い返す探偵"銀鼠"。ところが、どうやらその依頼が一筋縄で行かないドロドロした何かを抱えていそうだと嗅ぎつけた途端、手のひらを返し依頼人そっちのけで首を突っ込み出すのが傍迷惑で面白い。


655FE5A7-C955-4D54-B173-2A59050DA8AA.jpg0678D3C0-DBF9-493F-9777-25308C17E807.jpg
※依頼人の自殺した弟が、実は女装麗人であったことが分かってやる気満々。


好奇心こそ探偵の原動力。たとえそれで傷つく人が居ようが、自らが危険な目に遭おうとも、なんのこれしき!と笑みが湧いて来るという救い難い人種であります。

本作は実に古典的な妬みから派生する罪の話で、自分の望む物を持っている存在を羨む想いが新たな狂気を呼ぶことになるわけですが、青少年向けの名探偵と違い銀鼠は犯人逮捕、事件解決などに興味が無い。これまた古典的探偵(ホームズ、明智小五郎、等々)のあるべく姿ですよね?

それだけでも存分に面白いわけですが、事件の発端となった憎しみの原因が、高口里純さんらしい性の壁や兄弟のややこしく拗れた愛憎関係であったから尚更楽しめました。

探偵のやる気と読者の読む気が密接な関係にある点でも理想的なミステリーと言えるでしょう。コミック1冊分あるとはいえ、単発で終わるには勿体ないほど気に入りました。





何故に現代においてミステリー漫画は滑稽で幼稚な机上の空論芝居ばかりになってしまったのか?何となくネットを中心とした情報化社会に責任がある気がしてならない。

 なんでもネットせいにしたくはないが、江戸川乱歩の時代に比べて、自分の顔に「面白い」と貼って近づいて来る輩が多すぎる今の時代、嫌でも目に入るそれらをわざわざ一つ一つ試す気にはとてもならない。

だから分かり易く目を惹く部分に作り手も注力するし、お客もそれに乗ってしまう。結果見た目ばかりの作品が生き残り、中身はスカスカになってしまったように思います。


下手をするとフィクションよりも刺激的な現実もネットには溢れているし、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。

なんにしても、その他大勢の枠から目立とうとして作られた出来過ぎ話は興が冷めるし、ベタな内容を無理に改変するのも何か違う。そういう意味ではベタでありつつ、自分の得意な分野も押さえてミステリーらしいミステリーを描いた高口里純さんは流石に上手い。



こんな時代にした犯人が誰なのか?

そんなこと、本当はどうでも良いのだ。

ただただ面白い漫画がちゃんと世の中に残って行けばそれで満足である。


そんなささやかな望みを叶える為にも、僕はまた書店へ脚を向ける。


posted by lain at 07:08北海道 ☔Comment(0)漫画