終わらない休暇ってのも、ある意味地獄だ「グラン・ヴァカンス 廃園の天使 Ⅰ」飛 浩隆(著)/早川書房

ネットを利用する時というのは、検索エンジンにキーワードを羅列してピンポイントの情報を引き出したい時が多いかと思う。

夜空に薄暗く浮かんでる褐色矮星に等しい僕のブログも、わざわざブックマークを保存して見に来てくれる方より、一度きりの出逢いを求めて訪れる方がとても多い。自分で言うのもなんだけれど、残念ながら大した内容を孕んでいないブログであるし、せっかくそれらしいキーワードを含んでいても、役に立たないとガッカリした方も数知れないことだろう。

だから、こうして"飛 浩隆"さんの本がすげぇー面白いぞっ!と僕が書くよりも、今回読ませて頂いた「グラン・ヴァカンス 廃園の天使 Ⅰ」の面白さを知って貰うなら、本書のあとがきで飛浩隆さん本人の照れ隠しなコメントと、仲俣暁生さんによる解説を読むのが一番だと心底思うものの、何か言わずに居られない面白さに負けてだらだらとまとまりの悪い記事をまた書き始めてしまった。すべて飛浩隆さんが悪いw




 1000年に及ぶ長い期間、お客”ゲスト”が一人も訪れない自体になっている<夏の区界>と呼ばれる南欧の港町をモチーフとした仮想リゾートで、お客は無くとも永遠に夏を続けるAI達。彼らは自分達がどういう存在なのか理解しつつも、人間同様日々を生きていた。

 そんな夏の区界に永遠と続く季節が終わりを迎える。何処からともなく突如自分達とその空間を喰らい尽くす蜘蛛の大群が現れたのだ。僅かに生き残ったAI達は、一つのホテルに寄り集まり蜘蛛を撃退するべく行動を開始するのだが.....



 こうざっくりと書いてみると、今時流行りのフルダイブ仮想空間ネタかと思うかもしれないけれど、本書が1992〜2001年にかけて書かれたことを考えれば当時はかなり斬新であっただろうことが容易に想像出来るかと思う。なにせ自宅にネットワークの構築をするだなんて、一般人には思いもよらない時代でしたからね1992年は。

 それから時代は目まぐるしく移り変わったのだから、既に古臭いんじゃないかというとそんなこともなく、飛さん独特の生々しいネット世界の表現には畏怖を禁じ得ないものがありました。プログラムされた人・場所であるにも関わらず、それらが来襲した蜘蛛達に分解される様はグロいB級映画を観ている以上に重い。そして、たとえ嘘の記憶だと分かっていても、それを頼りに生きているAIの生と性が、彼らの死と共にこれでもかと押し寄せてくる感じがたまらない。



 次々と悪趣味な苦痛を与えられるAI達。<夏の区界>がゲスト相手に果たして来た役割の含む闇と、それぞれの人生語りがまたなんとも言えず良いから尚更読んでいて苦しい。飛さんの綿密に練られた場面配置や台詞の一つ一つは本当に素晴らしく、夏の区界の潮の香りまで漂って来そうなのは最高ではあるが、こういった辛く苦しいシーンの連続は読者を選ぶかもしれない。


だが穏やかで心地良い風が吹く冒頭から一気に地獄へと叩き落され、結末に向かう間に削ぎ落とされて残る繊細な美しさまでは是が非でも辿りついて欲しいと思いました。本書を僕は中古で買ったわけだが、2数年前の段階で3刷りというのが信じられなかった。この本がこのままSF界隈だけで埋もれてゆくのは凄く寂しい....

専門用語が難しいと女性に敬遠されがちなSFであっても、奔流の小説群に負けない文学性があるのだと、飛浩隆さんの本などで少しでも多くの人に知って貰えたら嬉しいですね。




さあ、こんなページは早いところ閉じてしまって、あなたも一緒に夏の区界で1番長い1日を味わおうじゃないか。


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posted by lain at 07:19北海道 ☔Comment(0)小説