あなたは平和に飽きてしまいましたか?「ジパング」かわぐちかいじ/講談社

 あの大戦に負けてから、我々日本人は戦争に直接関わらない道を選び、のらりくらと世の中を渡って来た。

 同盟国に兵隊を出せと言われれば、これで勘弁してくださいと厚みのある財布を渡し、反対する勢力を強引にねじ伏せてでも自国に用心棒を招き入れ、お前らのせいで迷惑を被ったと息巻く御近所にも終わりの見えない援助を続けた。

 
 その甲斐あって、何度も危ない時期はあったにせよ第二次大戦後日本が戦場で殺し合いを演じたことは無い。それもこれも、憲法9条という大前提がある国だと周囲に認識されていたことが大きかったような気がする。


 1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。



 戦争はしないし、そのための軍隊も持たない。核を唯一使われた国の戦後のビジョンとして、これ以上無いルールだった。しかし、この条文に対し何度となく改正の声が上がる。アメリカの蒔いた種が発芽した湾岸戦争やイラクへの派兵に伴う論争もそうだし、いまだ軍備増強を図る中国や北朝鮮への脅威意識が高まりつつある今、改正を叫ぶ人々の声は一段と大きく、来年の参院選後には国民投票にかけると政府は鼻息が荒い。

 しかしながら、自分から喧嘩を吹っ掛ける前提を手に入れたからといって、すっかり戦い方を忘れてしまった僕らがビビりつつ抜いた刀が相手に当たるのだろうか?ましてや抜いた刀は、どちらかの血を吸うまで鞘に納まることは無いことだろう。その場に流れるのが、自らの血では無いと断言出来る人も居ないはず。

 刀を抜く状況にしない為の第9条を、それでも改正したい人がいるのならば、自分がまず自衛隊に入隊する。もしくは家族を喜んで軍に進呈してから改正の手を挙げるべきだ。安全な場所から『奴らを殺せ!』と言うのはただの恥知らずのすることです。

 ただこういう論議が大きくなること自体は悪いことではない。普段は日々に追われて深く考えたことの無い事案について考えるまたとない機会になるからだ。改正についても、戦争行為について肯定しない内容ならば、馬鹿馬鹿しいルールに縛られて自分で自分を護れないような場面が減ってプラスに働くかもしれない。



 ここのところ、もしもあの大戦中にイージス艦がタイムスリップしたら?という内容の”かわぐちかいじ”作「ジパング」を読んでいて、イージス艦の乗組員が積極的に戦争へ介入せず人命優先であくまでも自衛官であろうとする者達と、どうせならこの時代の日本軍と供に戦ってアメリカの鼻を明かしてやろうとする者達に別れ、意見をぶつけ合う姿を見ていたから、尚更憲法のあり方についてあれこれ考えさせられました。

 どちらが良かったのでしょう?あの戦争に勝って崇高な誇りとやらに驕る国になるのと、今日の実害無ければ我関せずと?どちらに転んでも問題は山積みに違いないし、大義名分や覚悟があれば良いというものでもない。正しさや意義はその後の歴史家が決めるだけのこと。大事なのは、自分が信じることを自分が実践してみせることなのでは無いだろうか。どんな結果にせよ、信じる道をひた走る人の姿は時としてとても美しいのは確かである。

 


 ちなみに、イージス艦の連中はうっかりその時代の人間を助け、自分達の知る歴史や知識を公開してしまったがために、その後核を日本人が完成させ、有利な講和条件を引き出すためにアメリカの艦隊に対し使おうとする事態に発展してゆきます。「沈黙の艦隊」を知っている方なら、”深町洋”と”海江田四郎”の関係を思い出せば分かり易い。あの時は冷戦がモチーフで、今回は自衛隊による武力行使についてではあるが、様々な人々の意地や理想が入り混じって、えも言えぬ男同士の友情が形を変えてぶつかり合う様が同様に熱い作品でした。

 沈黙の艦隊に比べると、史実を基にしている分、少々”かわぐいかいじ”さんの希望的観測が目立つ内容になっていて、こうあって欲しい、こうあるべきだというニュアンスと供に気の迷いが感じられたのは少し残念。第二の戦後を生きることになった”角松洋介”が、自分の数奇な運命を背中で噛みしめる最終話は素晴らしかったですけどね。



 無論物語は所詮物語であります。どれだけ作中人が死のうとも、ページをめくる読者の手に血は付かない。しかし、実際の未来を作るのは、そんな絵空事に心を動かされる僕らなのだ。

 現実を生きているつもりでも、その瞬間が来るまで目が覚めない。いや、来てても覚めることは無いかもしれない脆弱で鈍感な心を抱いて、どんな明日を生きたいだろうか?どんな今日にしたいだろうか?どんな過去を残したいだろうか?

 どうせ政治屋が最後には決めてしまうかもしれない。それでも理想を不燃ゴミに捨ててしまうのはまだ先のことで良い気がしてならない。
 

 


 戦後70年が経ち、そろそろ平和に飽きて来た日本人の大きな欠伸で世界を驚かせるようなことが、これから何十年、何百年と起きない世の中だと良いな。いつかスタートレックのように地球人類全ての意識が宇宙への探究心に向かう日が訪れますように.......

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posted by lain at 18:13北海道 ☔Comment(0)漫画