今際に芽生えるロボットの感情は愛か憎しみか?「PLUTO」浦沢直樹×手塚治虫

術後の自宅療養のおかげで放置したままになっていた本作を読めました。もう完結から5年が経過しているという事実に驚かされるほど、自分の中の時間の感覚が緩やかになっていることを知って打ちのめされる想いであります....


さて、本作は鉄腕アトムの1エピソードである「地上最大のロボット」からのリメイクではありましたが、なかなかアトム自身が出て来ないことと、ほぼ完璧に浦沢キャラにリファインされた手塚キャラのおかげで独立した作品として普通に読み始めました。正直、アトムというのは僕の一世代も二世代も前の人々のヒーローという位置にあり、コミックはほぼ読んだ事は無いし、アニメ版にしても観たのは子供の頃に少しだけなのでうろ覚え。完全に記号としての存在でしかありませんでした。

そんな僕でも、最初から最後まで余すことなく夢中になれたPLUTOは本当に凄い漫画です。浦沢キャラとして成り立っていながらも、何処か手塚キャラの装いを醸し出している絶妙さといい、ゲジヒトと言うロボット刑事を中心に進む連続殺人・ロボット事件のミステリー展開と、確たる証拠の無いままイラク侵攻を決めたアメリカの臆病な正義の有り様を上手くストーリーに盛り込み、地球規模のテロへと変貌してゆく事件に対して人とロボット達がどんな選択をしてゆくのかが、実にドラマチックに描かれていて心を揺り動かされました。


人工知能の進化に対する人間の恐れと裏腹に、苦悩するロボット達。本当の意味での心を持たないロボット達だからこその純粋な渇望が美しくも儚くて泣けてしまう。人間以上に人間なのです。

嬉しいから笑う 悲しいから泣く 憎いから怒る

感情というものに手が届きそうで届いていないと思い込んでいるロボット達が理不尽に散ってゆく姿には、つい「それこそが心だよ」と語りかけたくなります。しかし、いまだ感情を持つ人工知能は夢物語だからそんな悠長な気持ちで居られるものの、もしも将来的にアトム達のようなロボットが誕生したとして、同じように受け入れることが出来るかどうかは分かりません。やはり恐怖が先行するかもしれないと考え出すと、本作を他人事として笑えない僕が居ます。

いずれその時がやってきたら、人間は勿論のこと人工知能にも手塚作品を読ませてみたいですね。そして、手塚イズムを目にした人工生命がどんな事を決断するのか。これは実に興味深いでしょう?.......




毎回巻末で様々な人物がアトムと浦沢作品に対し熱い気持ちを吐露しているあとがきも実に濃かったPLUTO。これほどの想いを生み出す原動力となった原作はどんなものだったのか俄然気になりました。昔読んだことがあるような気もするんですが、いかんせん脳が死んでいるようです。

アトムに限ったことでは無いですが、手塚作品は悪い事をしている側にも、そうさせるだけの理由があって物語に深みを感じます。勧善懲悪なら難しい事を考えず自分の為にヒャッハー!すれば良いから気持ちは楽でしょうけど心に届く物は少ない。長い年月を経ても尚人々を魅了するとは、つまりそういうことなのかもしれません。


本物のアトムが誕生するその時まで、手塚作品が忘れ去られることなく、日本そして世界で読み続けられると嬉しいですね(*゚C_,゚*)

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posted by lain at 08:28北海道 ☔Comment(0)漫画