打海迷宮に別れを告げた日「ドリーミング・オブ・ホーム&マザー」打海文三(著)

「信念のもとに<愛の可能性>について語らない」

「他者を徹底して批判すれば、自分自身を追いつめることになる。」

「善人は決して真実を語らない」

「札付きの平和愛好主義者」



打海さんの言葉は何処か教訓めいていて腑に落ちる。どう読み解くかは読者次第ではあるけれど。

僕にとって最後の打海作品となった本作は、パンデミック、ミステリー、ラブストーリー、ジュブナイルと、様々な側面がある。

特に物語の進行役として描かれる主人公の心情より、主人公やヒロインの視点から浮き上がってくる第三の人物である女性作家と愛犬イエケの屈託、哀切に想いを寄せてあれこれと思案を巡らせるのが味わい深い作品でした。


『編集者の田中聡とライターのさとうゆうは幼なじみで、いまは東京に住んでいる。聡がファンだった小説家・小川満里花と仕事をきっかけに交流が生まれ、三人と満里花の飼い犬・イエケとの、ささやかな幸せに満ちた日々が続く。そんななか、イエケがゆうを咬んで大怪我をさせた。後日、満里花はイエケを殺した、とふたりに告げる―。一年ほど後、東京でSARSが大流行、都内は混沌とする。SARS禍の陰には一頭の犬の存在が見え隠れして…。』
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今までにあらゆるマイノリティーについて書いて来た打海さんですが、
「犬と人間」種族を超えた愛憎には物凄く想像を刺激された。まるで禁じられた愛に身をやつす残酷で愚かな神話のようだった。

神話というのは、まったくもって異端で破廉恥な内容が多いわけだけど、その素直な欲求のベクトルは純粋で美しくもあり、まさに打海さんの綴る物語は神話のごとく純愛で歪でしたね。



この打海さんの最後の作品を読み終えた直後に、僕は虫垂炎の診断を下され、初めて身体を切り刻まれる不安でいっぱいになってしまい、ラストの現実と非現実が入り混じる独特な空気感を心の底から味わう暇が無かったのですが、歳を重ねるごとに増して来た打海文三らしさが本当に素晴らしい本でした。今は感謝の気持ちと喪失感で胸がいっぱいです。打海さんにしか書けない物語の数々、ありがとうございました。



打海さんほどでは無いにしても、きっと影響を受けた若い作家が貴方のDNAを後世に残してゆくことでしょう。


ゆっくりおやすみ下さい......
posted by lain at 23:18北海道 ☔Comment(0)小説