狂熱の彼方で見る夢「ハルビン・カフェ」打海文三/角川書店/2002年/小説/感想

 人生において「この作家の作品全て読みたい」とまで思えるのは貴重だと思う。数冊読んでいるうちに書き手の底が見えて来たり、手法に少し飽きてしまうことも多いからだ。
 
 トコトン特定の作家の作品を読むと言うのは、少なからずを作家本人を読み解く行為であり、書き手の人生や価値観の重さに惚れなければ、全ての作品を読みたいとまでは到らない。

 
 その点”打海文三”と言う作家は、男を引き寄せる何かがある人物だ。今回読み終えた「ハルビン・カフェ」で、背信の限りを尽くす男の底知れぬ魅力同様、打海さんの言葉からは世界を残酷に操る自らの愚かしさを嘲笑するような色を感じ、あまりにも打海さんが普通の人生では絶対辿り着けない、後悔とか自責とかもうそんな段階はとうに通り過ぎて吹っ切れた生き方の先にある恍惚とした快楽を美しくも儚く書いてみせるから、一体どんな人生を生きて来たのかと知りたくなるのです。

 




 昨日で打海文三さんが亡くなってから7年になります。

 亡くなった直後に打海さんを知って以来、少しずつ著書を読み続け、ようやくハルビン・カフェに辿り着きました。

複雑なプロットだけど、根っこはシンプルで儚く美しく、男の為のカタストロフィだ。


『福井県西端の新興港湾都市・海市。大陸の動乱を逃れて大量の難民が押し寄せ、海市は中・韓・露のマフィアが覇を競う無法地帯と化した。相次ぐ現場警官の殉職に業を煮やした市警の一部が地下組織を作り、警官殺しに報復するテロ組織が誕生した。警官の警官による警官のための自警団。彼らは「P」と呼ばれた―。』
by BOOKデータベース



 応化クロニクルのようなアジア難民が大量に日本へ流れ込んでいるという架空の歴史の渦の中で、警察とマフィアが1人の男に翻弄されるという話はとても謎めいていて夢中になりました。憎しみ、苛立ち、焦り、憧れ、愛しさ、様々な感情を抱える人々を丹念に描き、ちょい役でも命が宿っていたことを感じさせる文章力には、ただただ深い溜め息が漏れるばかりでしたね...



「親しい人々の愛情や信頼に背くことの陶酔について、ぼくは考えはじめた」

 1人の青年が作中語ったこのままの想いを打海さんも抱えながら本作を執筆したに違いない。

 自分で作った物を自分で壊す。ハルビン・カフェのキーパーソン”布施隆三”の神のごとき所業と、わずかに残された希望。そして神亡き後も残酷な世界は周り続けるという事実。何もかもに打海さんの価値観が反映されているように思いました。

 そんな複雑な打海文三さんの思想が強く文面に現れているから、もしかしたら読み手を選ぶ作家なのかもしれない。ハルビン・カフェは登場人物も時系列も細かく複雑なので混乱し易かったりしますしね。しかしそんなアクの強ささえも僕は愛したい。そして多くの人に愛して貰いたい...

 

 残すはあと三冊。一字一句を全身全霊で味わおうと思います…..
posted by lain at 20:42北海道 ☔Comment(0)小説