僕は君で、君は僕で「ディオニュソスの蛹」/小島てるみ/2014年/東京創元社/小説/感想

 唯一の肉親である母を失って以来、ナポリの町で一人生きてきた少年アルカンジェロのもとに、ある日ブエノスアイレスから母に宛てた手紙が届いた。かつて母がブエノスアイレスにいたこと、自分に血を分けた兄がいることを知った彼は、彼の地に行く決意をするが、そこで待ち受けていたのは、憎悪に満ちた兄レオンと、母にまつわる禁忌の物語だった。

 ブエノスアイレスへ移住したナポリの画家、麗しき流転の双子、血の絆をもたない男だけの一族、アルカンジェロとレオンをつなぐカトリック伝統の「奇蹟治癒絵画」・・・・・

 禁断の愛と秘められた傷が織りなす神話の迷宮世界。迷宮にとらわれた魂の、再生の物語。
※本書のそで部分より抜粋


 物語の中心となるのは母親を同じくする2人の兄弟。お兄ちゃんである”レオン”は産まれた時から母親に拒絶され続け、弟くんの”アルカンジェロ”は溺愛してくれた母を自分の描いた絵で死に至らしめている。理由は違えど深い傷を母との関係で負っている2人は、一通の手紙をきっかけに出逢い、互いに欠けている部分を相手に見出してゆくこととなります。

 兄弟を引き合わせた張本人に薦められたアートセラピーにより、彼等は閉じ込めて来た自分を曝け出してキャンバスに物語を描き始めます。同じ母を持つ同士の血の為せる業なのか、自然と身も心も絵と共に解け合ってゆく彼等。その過程を”小島てるみ”さんがらしい情熱的な言葉選びと詩的な架空の神話によって綴ってゆくので、現実と幻想の狭間を行ったり来たりしてるみたいな感覚がしてとても心地良かったです。

 核となるのは2人の青年の心の解放ですが、2人を苦しめることになってしまった女性ミモザが最も愛した人との物語や、2人にアートセラピーを薦めた叔父”スール”、ミモザに拒絶されたレオンを自分の子のように深く慈しんだ”アントニオ”、アルカンジェロとミモザを見守り続けたナポリの孤児全ての母”スオラ・ルチア”達の心模様も豊かに表現されており、それぞれの想いが血の繋がりに関係無く固く結び合って温かな絆を産み出しているのも素晴らしい作品でありました。

 それに相変わらず舞台となる町並みや文化、それをそれと為さしめて来た人々が魅力的に表現されているので、これを読んだあと登場人物達が眼にした風景を僕も見てみたいとついつい思ってしまいます。小島てるみさんが観光案内とか書いたらめちゃお客さん増えそうですねw



 小島てるみさんの本の主人公は、普段触れられたく無いと深いところに仕舞い込んでいる感情を真っ裸になるまで曝け出されてしまうので、読者である僕らも自分が誰にも見せたく無いと雁字搦めにラッピングして来た想いが晒されていくような気がしてしまい、それが心地良いやら照れ臭いやらで色んな想いが脳裏に浮かんでは消えてゆきます。

 本作の主人公とまったく同じ境遇の人はそれほど多く居ないでしょうが、自分が抱える醜い心を解き放つヒントは多々盛込まれているように思います。作中兄弟はアートセラピーを受けて押し込めて来た感情を解放したわけですが、おなじように小島さんの本がセラピー代わりになった人も多いのでは無いでしょうか?



 久し振りの新刊本当に面白かったです。次がいつになるか分かりませんが、じっくり腰を据え素晴らしい街並と心の風景を僕らに届けてくれることを、また気長に待ってますね先生 (= ワ =*)

セラピーであり、観光であり、神話でありながら、愛を歌う作品だわ。



 出版元の東京創元社のWEBマガジンで本作の読み切りが掲載されているので、本編を御読みになった方は是非どうぞ♪

【特別読切】小島てるみ『紫水晶は酔わせない』



 小島てるみさんのブログ→ 小島てるみ・境界を越えるざわめき
posted by lain at 21:14北海道 ☔Comment(0)小説

ドリルの先に行き止まりはあったけど、良い行き詰まりでありました♪「探検ドリランド -1000年の真宝-」/東映アニメーション/冨岡淳広(シリーズ構成)/2013年〜2014年/感想

 原作であるソーシャルゲームの広告塔的なアニメではあるものの、しっかりとした子供向けアニメの定番を押さえた作りに、大きなお友達も案外楽しめちゃったアニメ版「探検ドリランド」

 そんな意外な面白さを見せたドリランドの主人公であるミコトからバトンを引き継ぎ、少々ホモが喜びそうな決めセリフ「俺が掘ったら凄いぞっ!」を繰り返して来た男”ハガン”の物語が終わった。気付けばシリーズ全部で88話というから驚きだ。長いようで短かいと感じるのは、良作だった証拠だと思います。

 
 最初はミコトとまったく毛色の違う熱血馬鹿がイマイチ好きになれなかったのだけど、第1期のミコトの仲間達に負けない個性溢れる仲間がハガンと旅をするようになってから、断然主人公はハガンしかいないように考えが変わってゆきました。ちっこい武士”キバマル”とのコンビも面白かったし、どんな困難にも折れない前向きさが最後まで魅力的でした。それにやっぱり”ベリンダ”との疑似親子関係が心温まる内容ばかりで上手かったですよw

 悪く言えば作りが熟れ過ぎていて、若干可愛げに欠けるところもあるのですが、バランスの良いキャラ&ストーリー配分のせいで次回も観たくなるようにまんまと誘導されてました。面白いけど何処か癪に障る。それが僕にとってのドリランドだったかもしれません。


 正直、まだ少しドリランドの世界をアニメにして欲しいとさえ思っています。やっと復活したミコトが、ウォーレンスやポロンといかにして再会したかを、もっと膨らませて欲しかったし、ボロボロになったドリランドが、どう復興してゆくのかも観てみたかった。1000年後の次に、10000年後を描いたりしても面白いかもしれない。僕好みのSFに仕上げ、宇宙を股に掛けるハンターが絶対神に逢いにゆくような内容にしたりしてね。

 まあ、肝心のゲーム自体にそれほどもう注目度が無いようですし、新しいドリランドアニメを作る気はGREEに無いでしょうけど...



 兎に角、いくら基本無料やソーシャルゲームがあまり好きじゃないとは言え、十二分に楽しませてくれたドリランドは良い作品でした。

 こんな笑顔にならいくらでも騙されたいです> (= ワ =*)♪
IMG_0615.JPG




 東映アニメーション http://www.toei-anim.co.jp/tv/Driland/
posted by lain at 13:05北海道 ☔Comment(0)アニメ

海兵隊最後の勇姿をその目に焼き付けろっ「HOMELAND シーズン3」/Showtime/FOX/2013年/海外ドラマ/感想

※ネタバレバレで行くので、シーズン3を最後まで観た方だけ御読み下さいo┐ペコリ





 アメリカの諜報活動の是非を問うているかのような骨太ドラマ『HOMELAND』

 捕虜となって洗脳を施され、帰国後自爆テロを起こす寸前までいった男”ブロディ”と、そんなブロディを一番最初に怪しいと睨んでいたCIA職員”キャリー”。2人と、2人を利用する様々な人々の思惑とが入り交じり、大きなうねりの中で産まれたささやかな絆さえ次々と翻弄されてしまうドラマ性が非常に残酷で切なく、騙し合いの繰り返しにより正義が何処にあるのか不安にさせられる緊迫感ある展開が凄まじい作品。

 自分の正体をしつこく突き止めようとして来たキャリーをCIAから追い出すことにブロディが成功したシーズン1。あっという間に正体がバレてキャリーとの立場が入れ替わり、逆スパイとして使われることになったブロディがCIA爆破の嫌疑を掛けられ逃亡して終わるシーズン2。

 そうして開幕したシーズン3は、これまで以上に観ているのが辛くて辛くて仕方無い展開に満ちていました...


 逃亡した先で銃で撃たれ、痛み止めに使っていた薬で中毒になったブロディ。そんなブロディの正体が世界中に広まったせいで自殺未遂をして苦しむブロディの娘”ディナ”と家族達。CIAを爆破された責任から逃れる為にスケープゴートにされ病院で薬漬けにされるキャリー。彼女を病院送りにした張本人”スール”は奥さんと破綻目前な上、CIAの責任者としての立場も失う一歩手前。 兎に角、様々な人々が悩み、苦しみ、踠きながらも後戻りが赦されない道を前へ前へと進んでゆく感じがたまりません。

 薄汚い駆け引きや、キャリーを病院送りにした理由が後から分かって来るどんでん返し展開も諜報機関CIAを舞台にした作品ならではで思わず釘付けにさせられたのですが、シーズン3が終わって心に残ったのは、最後まで世界の流れに利用され続けた男ブロディへの同情と哀れみの感情ばかりでした。

 アメリカの為に戦い、捕虜とされてからはテロを実行するためのコマとして仕込まれ、正体がバレてからはCIAに逆スパイとして働く事を強要され、それが落ち着いた途端やっても居ないCIA爆破テロ犯に祭り上げれ、なんとか逃げ延びても薬漬けで軟禁され、最後には無理矢理やる気を出させられて”鉄砲玉”として敵国に送り込まれ、あげく政治的に有利な状況を作り上げる為に、敵地に取り残されて公開処刑されてしまうのだから、誰でも彼の境遇に憤りを憶えるはず。

 最後にキャリーがCIAの追悼者の星の中に、ブロディの星を書き込むシーンは泣ける....




 既にシーズン4が製作されることが決定しているHOMELAND。ここまでの3シーズンを振り返ってみて改めて思うのは、やっぱりそんじゃそこらのドラマでは無いなということ。否応無しに世界の流れに飲み込まれた可哀想な男を死なせることによって救うというのだから...しかもそのシチュエーションたるや、言葉を失うほどでした。

 様々な国家、思想、それをそれと為さしめている人々の選択一つ一つに、本当にそれしか無かったのか?と胸が熱くさせます。心の何処かで、これしか道を正す方法が無かったのだと分かっているからこそ、とめど無い感情が僕らの中に沸き上がるのでしょうね。

 弱い心が産み出した混沌と縺れるように転げ回るアメリカ。妄信と野心を同じポケットに入れて暴走する中東。いつ始まったかさえ分らない流れを止めるのは容易ではありません。これから先も自分達がして来たことに対するしっぺ返しに、更なる力で対抗してゆくしか無いのかもしれない。これはけして他人事では無いから恐いんですよね。僕らの住む日本はアメリカと密接な関係にあるし、アジアの国々との火種も抱えているのですから。

 世界と正直に向き合うのは阿呆がすることでしょうけど、いつか本音で語り合える関係が、あの国や、あんな国とも出来たら最高だろうなってしんみりしちゃいました(´・ω・`)



 シーズン3で綺麗に終わっているようにも思えるHOMELAND。シーズン4で、まさかのブロディが生きていた設定を持ち出して来ないことを祈りたいですね....





 『『HOMELAND』シーズン4の製作が決定!』

 『「HOMELAND」のモリーナ・バッカリン、モーガン・セイラーが第4シーズンからレギュラー降格』

 FOXクライム http://tv.foxjapan.com/crime/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/1799

 TBSサイト http://www.tbs.co.jp/program/homeland.html





 関連過去記事

  『半人前のテロリストと情緒不安定なCIA職員の運命や如何に?「HOMELAND シーズン3」/Showtime/FOX/2013年/海外ドラマ/感想』

  『薄汚れた正義とテロリズムの誘惑「HOMELAND シーズン2」/米国/海外ドラマ/感想』