♪もしもギターが弾けたなら〜「僕はビートルズ」藤井哲夫(原作)/かわぐちかいじ(漫画)/2010年〜2012年/講談社/モーニングKC/漫画/感想

 「もしもあの時こうしていたら?」

 やり直しのきかない人生において、一度くらいこう考えた事があるはず。

 「壊してはいけない」何かを壊してしまった時、もしも時を遡ってやり直すことが出来るなら、「今」の自分はもっと良い「今」を過ごせていたはずだと。


 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主人公が未来の世界からスポーツ年鑑を持って帰り、賭け事に使おうと魔がさしてしまいそうになるなんて話もあったけれど、もしも過去を書き換えることが出来るなら、その誘惑に勝てる人は居ないことでしょう。ましてや自分たちにそれだけの実力があれば尚の事、誰かに先んじて大きなことを成してみたいと思うはず。

 「僕はビートルズ」は、そんな誘惑に負けたことで大きな”咎”を背負うことになった4人のビートルズ好きの物語だった。
 
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 4人はテクニックだけなら本物に負けないと自負する”ファブ・フォー”としてビートルズのコピーバンドをやっていた。それぞれに認め合う物があって自然と集まった4人だが、ビートルズバンドの世界的コンベンションに参加が決まってからギクシャクし出すことになり、”ジョン・レノン”の位置を占めていた”礼”がコンベンション前に脱退してしまう。

 そして4人最後のライブの後、起きるはずの無いことが起きてしまう。ビートルズがデビューする1年前、1961年にタイムスリップしてしまったのだ。

 おかれた状況に困惑しながらも、「もしも」自分達がビートルズの曲を本物より先に世界でヒットさせれば、彼等はそれに触発されてもっと凄い作品を作るのでは無いかと言う結論に打ち当たることに.....



 勿論彼等の思惑通りにいくはずもなく、沢山の問題が起きる。

 未来人だから戸籍も無いし、まだまだ演歌が一番な日本でビートルズの曲を受け入れてくれる場所を探すのも難しい。脱退したメンバーを連れ戻すのも一苦労。

 しかし、そんな困難の一つ一つが、タイムスリップ時にバラバラになっていたファブフォーをまとめてゆき、4人それぞれ葛藤しながらビートルズへの愛を示し続けようとします。

 僕は特にビートルズの熱狂的ファンと言うわけでは無いけれど、ファブフォーを通して伝わって来る”藤井哲夫”さんと”かわぐちかいじ”さんのビートルズ愛はとても熱い。随所にビートルズの足跡を織り交ぜて物語は進行してゆくので、ビートルズファンなら120%楽しめることでしょうね。

 

 もしも日本が原潜を作ったら?

 もしも東西2つに日本が引き裂かれたら?

 もしもあの大戦時に最新鋭の戦艦が存在していたら?

 
 そんな「もしも」が大好きな”かわぐち”さんらしい題材でしたし、「本物」と「模倣」その2つが交わった時の化学反応が実にそそる作品でした。

 次も音楽ネタを考えていると言う藤井さん。また”かわぐち”さんが作画してくれたら、しっくり来ちゃうんだろうなと、ついつい思うほど”藤井×かわぐち”の化学反応も上手くいっていましたね。

 
 かわぐちさんは65歳と現役を続けるのは厳しくなって来ていますが、お二人ともこれからも面白い物を作っていって欲しいものです(´-`)シミジミ....
 



 第25回MANGA OPEN賞選考結果 http://www.e-1day.jp/morning/award_ext/mo25_final.html

 公式サイト http://morningmanga.com/lineup/95




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  『愛したが故に、ビートルズを葬る事になった男達。「僕はビートルズ」/かわぐち かいじ/藤井 哲夫(原作)/モーニング/講談社/2010年〜2012年/漫画/感想』
posted by lain at 20:04北海道 ☔Comment(0)漫画

新刊発売前に間に合った!「タイタニア」/田中芳樹/徳間書店/1988年/小説/感想

 十数年振りに再読したけれど、皆さんはタイタニアを知っているだろうか?

 「銀河英雄伝説」で味を占めた徳間書店が二匹目のドジョウを狙って”田中芳樹”氏にどうしてもとお願いした結果作られたスペースオペラで、傀儡としての王を掲げ、自らは臣下として身を置きながらも、どんな勢力よりも強大な存在として銀河を支配しているタイタニア一族の栄枯盛衰をテーマにし、様々な人々が策謀を廻らしてゆくと言う作品が「タイタニア」でした。


 銀英伝と言えば緻密な歴史と骨太なSF設定とが噛み合った名作でしたから、その影響下で作られたタイタニアにもその売りが大いに反映されており、冒頭から歴史説明が長過ぎてあくびが出ちゃう女の子だもん♡とか悪ふざけを書きたくなるくらい、タイタニアがいかに宇宙で1番影響力のある存在なり得たのかがまず語られるのですが、銀英伝とは逆を行きたい意識が強過ぎたためか、説明が複雑過ぎて惹き込まれるほどの興味を憶えません。

 それに王ではなく王を便利に扱う存在で在り続けようとするタイタニア一族の繁栄と衰退にクローズアップしてしまったため、銀英伝よりスケールダウンしてしまった感じがしてなりませんでした。タイタニア一族の策謀が渦巻く展開は嫌いでは無いけれど、その辺りを楽しむなら荻野目悠樹さんとの作品「野望円舞曲」の方がタイタニアでの反省が活かされていますし、荻野目さんの味付けのおかげで読み易いです。

 銀英伝で言うところのヤン・ウェンリー的なキャラ”ファン・ヒューリック”なる人物も作中なかなか本格的な艦隊戦を出来ずにいる自分に焦れていたが、やはり策謀以上にもっと派手な艦隊戦をタイタニアに望んでいた読者も多かったことでしょう。いつまでもファンヒューリックのゲリラ作戦や政略ばかりで意表を突こうとしているので展開のテンポが悪過ぎました。


 なにかにつけてタイタニアとはそういう存在なのだとしつこく語るのも鼻につきましたし、何から何まで中途半端な印象を拭えない今作ですが、流石に3冊に渡って読んでいると、それぞれの登場人物に思い入れの一つも産まれて来るもので、まさかの第4巻発売でまた彼等に逢えると聞いたときは嬉しかったですね。これからが本番というところで終わっていますから、このままの未完じゃ読者も作家も物語の登場人物だって悔いが残ると言うもの。

 これだけ長い年月放置していたことには、田中さん自身にネガティブな理由が沢山あることでしょうけど、リスクを承知で完結を目指し動き出した氏を僕は讃えたいです。

 たとえ駄作に終わっても、「完」の一文字が書けることに意味はある。

 期待以上に不安がたっぷりですが、覚悟を決めて9月25日に4巻を手にしたいですね

 

 それにしても何故にあの頃の小説は裏表紙に作品内容より作家のドヤ顔を載せたがったのか..... 
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 田中芳樹マネージメントサイト”らいとすたっふ” http://www.wrightstaff.co.jp/
 アニメ版公式サイト http://web.archive.org/web/20080627100154/http://www.tytania.jp/
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スラムから哀を込めて...「エリジウム」ニール・ブロムカンプ(監督・脚本)/マット・デイモン(主演)/2013年/米国/映画/感想

 Xbox向けに発売され、世界的に人気を博している「HALO」の映画化が頓挫したことにより日の目を見ることになった『第9地区』


 製作予算も観客の期待も存在しなかった今作は、新しい切り口のSF作品として大きな驚きを与えてくれました。


 冒頭唖然としてしまう「なんちゃってドキュメンタリー」で異星人襲来を語りだし、地球で隔離され差別を受けながらも生活している異星人達を管理している男が、否応無しに自らも異星人になってしまうと言う展開がなんとも皮肉で、エイリアン2でパワーローダーを観た時の沸き立つような感覚を取戻させてくれる異星人のロボットや武器のえげつない破壊力の描写や、エビ似の異星人の気色悪いディティールなどを加え語られる本物のような嘘のリアリティがとても面白く、いかに”ニール・ブロムカンプ”監督が嘘の世界に真実を巧みに内包する術を持っているのかが伝わって来る映画でした。




 それから4年。


 製作費が4倍近くに跳ね上がり、観客の期待も前作とは比較にならない大きさになった今、ニール・ブロムカンプ監督が放つ『エリジウム』に観客はどう感じたのだろうか?





 1%の裕福な人々だけが暮らしている地球の衛星上に建設されたコロニー”エリジウム”


 そこにはどんな病気も立ちどころに治してしてしまう医療装置や、身の回りのことを全て代わりにやってくれるロボットがおり、富める人々は悠々自適な生活を送っている。残された99%の人々は、過度な人口増加により汚れきったまるでスラムのような地球で暮らし、富める人々に分け与えられた仕事で食いつなぐ毎日。


 しかも高度なプログラムで運用されているロボット達はナチスもビックリなほど温情なんてものを持ち合わせずに地球の人々を管理しており、少しでも口答えするようなら容赦しない。


 主人公の”マックス”も冗談を言っただけなのに腕を折られ、保護観察の延長をされてしまう(保護監察官もロボット...)


 彼はその後、職場であるロボット製作工場でトラブルに巻き込まれ、「否応無し」に1%の人々が住まうエリジウムを目指すことになります....




 「仕方無く」と言うか別の選択肢が見つからなくて状況に流されてゆく哀れな男と言う主人公設定と、主人公が暮らすスラム化したロサンゼルスのロケーションが第9地区とほぼ同じ雰囲気で、差別される側が差別する側へ牙を剥く展開も同じように甲斐性なしの僕にはグッと来ます。


 ただ今回は予算が無駄にあるため、有名どころの役者が多く配置されてしまい、他作品(「羊たちの沈黙」のジョディ・フォスター、「プリズンブレイク」のウィリアム・フィクナーなど)でキャラ立ちしてしまっている大物の個性が世界観を邪魔したところもあり、特に子供の頃から間違い無く1%側の人である”マット・デイモン”がスラムの人間を演じるのはちょっぴり違和感があったかもしれません。第一候補であった”エミネム”の方が良かったような気がしてしまうのは、肌の色で判断してしまう悪い慣例のせいでしょうか?...


 そういった人選のため、少し哀愁の面で物足りなさを感じるものの、エクソ・スーツ(どう見ても”大◯ーグボール養成ギブス”)を身体に装着してのロボットとの戦闘シーンや、残虐性の高い武器の使用等のマニア心をくすぐる部分は十二分に盛込まれていますし、主人公を執拗に狙う悪役を第9地区でヴィカスを演じた”シャールト・コプリー ”が熱演しているのがもの凄く良いです。彼を見る為の映画だと言っても良いくらい。




 結局、同人誌で活躍したヒトがメジャーに昇格すると、予算配分の為に配役から脚本まで集客に気を配らなくてはいけなくなり、お話的には悪い意味で「普通」の物を作らなければならなくなったという典型的な例になってしまったようにも思いますが、「漢ならこんなシチュエーションで死にたい」ランキングがあれば絶対上位にランキングするようなベタな展開は嫌じゃなかったです。


 男は自己陶酔覚めない夢で御飯が3杯いけちゃう生き物なので、そういった点では今作で監督に見切りを付ける必要はまったくありませんでした。



 ただ、今回の小さな違和感が、製作会社のマネージメントの問題なのか、監督の作家性の翳りなのかが良く分らない点で、些細な不安は残ったかもしれません(´ ・ ω・`)<次回作はどうなる?...









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posted by lain at 11:41北海道 ☔Comment(0)映画